第二三幕
この物語はフィクションです。登場する人物・団体名は架空のものです。
『旦那は一体何を考えているんすか!?』
旦那と別れたオイラはたった一人で、とある魔物の下を訪ねていたっす。 ソレもコレも多大なる恩を頂いた旦那のため……
しかしながら、何だかヤバ気な雰囲気なコボルトにウルフ達だったすね……それに合わせてゴブリン登場って……え、これってどんな無理ゲーすか?
旦那は一体どんな奴らに喧嘩を吹っかけたんすかね? 幾ら旦那が強くても限界が……いやいや、オイラは何を弱気になっちまっているんすか。 仮にも旦那の舎弟になったんすから弱気なんで言語道断っす。
そもそも、旦那の力になりたいと思ったのは同族のケットシーだったというのも大きな要因っすけれど、それ以上に……なんかわかんないんすけれど、旦那に着いておけば怖くないって本能が叫んだんす。
……へへっ、自分で言っておきながらワケワカメっすね。
『そんな事は後で考えるっす、今は一刻も早く旦那の下に行かないと!』
オイラは自分に言い聞かせるかのように誰もいないはずの空間に向かって声を発した。 ……少しだけ気合いが入った気がするっす。
――――一方その頃……
『逃げろ! もう馬車馬のごとく走り抜けるんだ!』
「だからケットシー!アタシ等はアンタが何を言いたいのかわかんないのよ!」
ヤスが心配していた旦那ことギンは狭い洞窟内をゴブリンに捕まっていたレン達と共に疾走していた。
等間隔に松明が設置された薄暗い洞窟はゴツゴツした岩の所為で走り悪さに拍車を掛けていたが、そんな事を気にしているほど彼らに余裕は微塵もなかった。理由は単純明快、彼らの後ろから――――――
『『『ギーギーギー!』』』
数えきれないほど密集したゴブリンの集団が追ってきているのだ。
ギンにとっては何体集まろうともしょせんはゴブリンの集団だ。 戦おうとすれば自分だけは生き残ることが可能だとふんでいる。
しかし、自分のそばには人間の駆け出し冒険者×3人、仲間の魔物×2体がいるのだ。 今この場で自分一人がこの場に残りゴブリン達を追い払うと先程一瞬だけ合間見えた丸太のような腕を持つ魔物が他の皆の前に現われたとき無傷で守り切る自信がなかった。
だからこそギンはまるでボディーガードのように皆が自分の目に届く範囲にと一緒に逃げ出しているのだ。
『だけれど、さっきの奴が追ってきていないのは何故に?』
『わからぬ、最悪を想定すると先回りされていると考えるべきやもしれぬが……』
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――――先程、確かにギンが張った氷の壁を巨大な腕が貫き通した。 危機感を持ったギンは半ば反射的に腕にむかいファイアブレスを放った。 下手をしたら牢屋内にいる皆が蒸し焼きになるかもしれない一撃であるが、その場を切り抜けるには他に思いつかなかったようだ。
そして、その灼熱の炎は腕の主を怯ませるには十分すぎるほどの熱量であったようで、その一瞬隙をつきギンは自らが生成した氷の壁目がけて力一杯その小さな身体でボディーブローを決めた。
普通に考えたらギンみたいな小型の魔物が分厚い氷の壁に体当たりをしたところでどうにかなるワケがない。
しかし、その身体は腐ってもレベル35であり、現段階での最終進化形態はベテラン冒険者に匹敵するワーキャットなのだ。 そんな魔物にぶつかられたのだ、氷の壁は無残にも――――――
――――――ギ……ギギ……シ……ギシギシギシギシ………………ブゥワァァッタァァァン!!
砕けるわけではなく、まるで安っぽいコントセットみたいに牢屋の外へと倒れこんだのであった。
一同呆気にとられる中、いち早く再起動を果たした事の当事者であるギンは人間3人の手足を縛っている縄を自慢の爪で切り裂き――――――
『――――総員、戦略的撤退ーーーー!!』
なりふり構わず力の限り走りはじめたのであった。
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「そ、そう言えばこの洞窟ってどこまで続いているんだよぉ〜」
走り初めて10分くらいが経っただろうか、魔物であるギン達は余り疲労を感じていなかったが、人間であるレン達に疲労の色が濃く見えはじめた。
『確かに全力疾走10分は死ねるかもしれないな』
ギンはそつ呟き、走りながら後ろへ首を捻り後を追ってきているであろうゴブリンへ視線を移した。
だいぶ走ったからであろうか、薄暗い後方にはゴブリンの姿形は見ることが出来ない。 ならば音はどうかと捻った首を元に戻し、今度は耳へと神経を集中させる。
――――――………
だがしかし、いくら耳を澄ませど聞こえてくるのは今現在ランニングナウのギンを含めた3体の魔物と3人の人間の足音のみ。
不信に感じたギンはただ一体足を止めて体の向きを180度反転させ、今の今まで自分達が通ってきた道を見やる。
しかし、幾ら待てど姿はおろかゴブリンと思われる足音一つ響いてやこない。
そんな急に立ち止まったギンに対して疑問を抱いたルジーナとクリーヌは動かしていた脚にブレーキをかける。更に彼らに遅れレンたち人間グループも立ち止まり、自分達の通ってきた道へと振り返った。
『……どうしたのだギン?』
『何か、足音が聞こえてこないんだよね。洞窟っていったら音が響くからかなり離れた音も聞こえるはずなのに……』
そんなギンの言葉を受けてルジーナは目を閉ざし、僅かな音を感じようと全神経を聴覚へと集中させる。
しかしギンの言うとおり、誰かが近付いてくるような音は全くと言っていい程聞こえてやこない。
「ハーッ!ハーッ……な、何で皆さん急にとまるのですか……?」
『確かに音が止んでるわね……撒いたって事かしら?』
今の今まで走り続けたことにより息も絶え絶えな状態となったカレンがなんとか声を絞りだした。しかし、残念なことに何とか紡いだその声は魔物に通じるはずもなくウルフのクリーヌによって流されてしまった。
『わかんねぇ……取り敢えず前に進もう。戻って出くわしたら洒落になんないからね』
そう言うとギンは『何かあるといけないから』と自らが先陣をきり、先程のように走る事なくゆっくりと先行し始めた。
ギンに続いてルジーナとクリーヌ、更にその後ろには人間3人組が歩き始める。
「……ちょっとレン。あんた、あのケットシーの事を知っているみたいだけれどアレって何者よ?」
「魔物なのに友好的みたいですし。それに、あんな氷の壁を作るなんて……普通のケットシーには無理だよレンちゃん」
「えっと……語るも涙、聞くも涙なのっぴきならない事情が――――」
幾分か冷静さを取り戻してきた彼女らの話題は突然なピンチを救ってくれた銀色の毛並みをした珍しいケットシーの話題へと移った。
当のギン本人は辺りへと気を配っており、自分の事を話されているなんて露にも思っていない様子である。
「と言っても、ボクもわからない事だらけだよ。初めて会ったのだって、今みたいにゴブリンに捕まったのが原因だし……」
「……捕まったのに、なんか冷静に見えたのは二度目だったからなのね。
――――――そんな事より、レンもよくは知らないって事?」
レンはアンの問い掛けに対して小さく『うん』と言いながら頭を縦に振る。
「それにしても、変な組み合わせですよね。リザードマンにウルフ、ケットシーの組み合わせって」
「見事な迄にケットシー基板の食物連鎖が成り立つわね」
「ギンは仲間って言っているけれど」
そんな他愛もない話をしていると彼女達は現在進行形で危険地帯真っ只中にいると言うことを不思議と忘れることができた。
しかし、彼女達にはそんな心休まる時すら与えられてはいなかったようだ。
時間は更に過ぎていき、ゴブリンから逃げ初めて一時間以上経過した。
ギン達は相変わらず続く長い洞窟を未だに抜け出せずにいた。
皆の間に既に談笑するほど気力も体力も残されてはいなかった。
『――――――臭うわ』
そんな時だ、突如としてウルフの少女クリーヌが立ち止まったは。彼女の言葉を受けてギンとルジーナは何の迷いもなく立ち止まり、クリーヌの言葉が理解できるレンも同様に立ち止まった。
しかし、魔物の声を理解できるレンとは違いアンとカレンは何が起きたのか理解できずに一瞬の内にパニックへと陥った。
不安感の募る中、そして慣れない魔物と一緒に行動している事により彼女らは限界に達していたのだ。
「こ、今度は一体なんなのよ!?」
「れ、レンちゃん……私、早くここから出たいよ……」
「だ、だいじょーぶだよ。何か変な匂いがしたって言っているだけだし」
だが、そんなレンの言葉は二人の耳に入る事はなく、二人の悲鳴にも似た声が洞窟内へと響き渡った。
『出口が近いわ。だけれど妙ね……何かを燃やすような嫌な臭いまでしてくるわ』
『待ち伏せの可能性もある。心して行くのだぞギン』
クリーヌの言葉からルジーナの第六感が警告を発していた。所詮六感、されど魔物の六感だ。
ギンもクリーヌの鼻については信頼しているし、短いながらも仲間としてやってきたのだ、ルジーナの注意も当然のごとく受け入れ、先ほど以上に気を引き締めて眼前を注視した。
『はいよ……――――――ん?そんな事言っているうちに外が見えてきたよ』
気が付けばギン達の目の前には外の景色が見えてきた。
見えたといっても、今の時刻は夜中なので外の景色は余り見えておらず、松明の灯りが洞窟の出入口を照らしているだけだ。
ただ、ギンだけは夜行性と言うこともあり夜目が効くので一体だけは外の景色が見えていた。
『――――――ッ!!?お、おいおいマジかよ……!』
だからこそ、ギンは気付いてしまったのだ。
『ヤバイな、半端無い数のゴブリンが待ち構えているよ……』
――――――予想していた通り自分達はやはり罠のなかに飛び込んだ存在なのだと……
前方にはゴブリンの集団、仕方なくギンは前に進むのを諦めて体を反転させようとしたのだが……
『ギン、のんびりしていたら後ろから追い付かれたみたい。いけ好かないゴブリンの体臭が洞窟の奥から臭ってきたわよ!』
正に絶望しか感じ取ることができない状況だ。
前には待ち伏せゴブリンズ、後ろからは大きなゴブリン。正に前門の虎後門の狼といった状況である。
しかもギンの側には傷は癒えたが、体力が著しく低下中のリザードマン&ウルフ、さらにはゴブリンに捕まるほどにレベルが控えめな人間3人がいる。彼女等を庇いながらも無数のゴブリンを相手にできるのか?
『――――――いや、何とかできない事もないか』
『ギン、何を言っておるのだ?』
『うんにゃ、それよりも俺が先に出るから皆は後から来るように。可能なら耳を塞いでおいて』
そう言い残すとギンは洞穴の出口へと向かい走りだした。
「レン、あのケットシー一体どうしたのよ?先に走っていったけれど……」
「わかんない……でも、耳を塞いでおけって」
そう二人に伝えながらレンはギンの言葉を守り、両手で耳に蓋をした。半信半疑ながらもアンとカレンはレンにならい両手で耳を塞いだ。
『それじゃあ……ギン、進化します!』
皆が耳を塞いだことを確認したギンは足をより早く動かし、疾風の如く出入口へと向かい走りだす。
そして次の瞬間――――――
「「「――――はいっ!?」」」
『進化完了。そんでもって一番ギン……全力で吠えます!!』
ギンの小さな体が一瞬だけ光に包まれた。
この時点で人間チームは意味不明である。そういうスキルだと言われたら、それで納得はできるがこんな狭い洞窟内で光っても辺りを照らす程度で意味が無い。
だが、次の瞬間彼女等は目を見開き、文字通り目を丸くして驚きの表情となった。
無理もない。目の前に居たはずのケットシーが光ったと思ったら次の瞬間にはオリジンで見たこともないような魔物へと姿を変えてしまったのだから。
――――そして一拍と置かず……
『――――――■■■■■■!!』
ギンが放った全力の咆哮が彼女等の鼓膜を震わすのであった……
はい、久々すぎる更新のかみかみんです。
気がつけば2カ月放置って……しかも、あまりにも時間を置きすぎたせいで文章自体が訳の分からない状態へと変貌してしまいました。
しばらくは蝸牛更新が続きますが温かい目で見守っていてくださいませ。
そして、とうとう明後日にはにじファンが閉鎖……以前お知らせした通り『Re:俺!?』はブログへと移転しますのでご了承くださいませ。
ではでは、かみかみんでしたぁ~