第十五幕
この物語はフィクションです。登場する人物・団体名は架空のものです。
最後にお知らせがありますので、あとがきも見ていただけると幸いです。
「悪かったわね……」
やぁ、無事にクリーヌが敵討ちをしている様子を眺めていたギンです。
敵討ちをしたあと、クリーヌは俺の腕の中でひとしきり泣いた後、フと我に返り気まずそうな顔で俺に謝罪した。 多分、迷惑かけてゴメンという意味なのだろうが、俺自身は余り気にしないのでクリーヌにはそう伝えた。
「――――ッ! ……ふ、フンだ! ギ、ギンは私のパートナーなんだから当然よね!」
……ただ、こう切り返されて少し困ったが。
「……でも、ありがとう」
ん? いま、小声で何かを言った気がするんだけれど……気のせいかな?
まぁ気を取り直して俺達はその後、ボスウルフに捕らえられていたというクリーヌの仲間の捜索にあたった。
なんでも、数自体は多くはないけれどクリーヌのようにボスウルフにクリーヌの兄……前ボスウルフを殺されて恨んでいる奴らがいるとのことだ。
後は彼らを解放すればこの一件も終わるらしい。 折角乗り掛かった船だ、俺とルジーナさんはクリーヌを手伝い、行方不明の仲間とやらを探すことにした。
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何というか、捜索開始おおよそ5分で目的は達成されてしまった。
岩場ばかりのウルフの縄張りの中で一カ所だけ洞窟……と言うか天然の洞穴みたいなところを見つけたんだ。
岩影から隠れて見たところ、入口にはボスウルフが敗れた事を知らないであろう見張りっぽいウルフが5頭いる。
更に俺の反則気味な視力で確認したところ、その奥には数頭のウルフが縮こまっているのも確認できた。 恐らくあれがクリーヌの探している仲間なのだろう。
見たところ、洞窟周辺には見張り以外のウルフは確認できない。 寧ろ、さっき逃げ去って行ったボスウルフの近しい奴らはどこ行ったのかが謎だったが、見張り連中に何も告げることなく姿を消したらしい。
まぁ、それについてはどうでもいいや。
「見張りが5頭……中には数頭のウルフが見えるけれど……なんで中にいるクリーヌの仲間のウルフ達は無理して出ようとしないんだ?」
「きっと、クソジジイが敗けたっていう事を知らないのよ」
……成る程、脱走したら追い掛けられて捕まったら殺されるって理解しているから下手に動けないんだ。
だったら早いところ出してあげたほうが良いかな。
「ルジーナさんとクリーヌはここにいて、見張りをちゃちゃっと倒してくるからさ」
「うむ、了解したぞ」
「任せたわギン」
そう言い残すと俺は岩影から飛び出して真っ直ぐ洞穴へと向かっていった。
一方の見張りウルフ達は突然現れた俺の姿に警戒の色を濃くした。 無理もない話だ、オリジン内で過ごすウルフにとって俺ことワイルドキャットは未知の魔物なんだから。
取り敢えず俺はイキナリ飛び掛かるのもどうかと思ったので、手始めに話し合いから始める事にした。
「君らの現ボスは前ボスの妹であるクリーヌが倒した。 無駄な抵抗はやめて人質を放すんだ……いや、この場合は犬質の方が良いのか? いや、ウルフは狼の事だから狼質の方が正解かな?」
フト頭をよぎった疑問をついつい口に出してしまった俺は傍から見たら空気の読めていない奴だと後から振り返って感じた。
――――――さて、俺の一方的過ぎる物言いにたいしてだが、5頭の見張りウルフ達は当然の如く信じることはなく一斉に牙を剥きその内の一頭が飛び掛かってきた。
俺的には前も言った通り、血を見るのが好きではない。 慣れろと命令されてもこれから先、嫌いなままだろう。
だから、今の俺の言葉を信じてこの場から立ち去ってくれる選択肢をウルフ達には選んでほしかった。
だがしかし、ウルフ達はみすみすそのチャンスを捨ててしまったのだ。 こうなってしまっては、俺は最後の手段を取らざるをえない。
俺は短く溜め息をつくと、一気に地面を蹴り俺に飛び掛かってきたウルフの眼前へと移動した。 きっとウルフ達は困惑したことだろう。
見たことの無い魔物が自分達が想像していた以上の速度で間を詰めてきたのだから……
しかし、時は既に遅すぎる。 攻撃態勢はとっていたが、カウンターを狙われるとは予想はしていなかったのだろう。 まともな迎撃態勢をしていなかったウルフへ目がけてその頭部から振り下ろすかのよう に腕を振るった。 当然のごとく日本刀以上の斬れ味を誇る爪をフルオープン状態でだ。
余りにも突然な事なので、ウルフ達は目の前で起きた事を瞬時に理解出来なかったのであろう。
その所為か、俺が爪を振るったウルフ以外の4頭のウルフは身を堅くしている。一拍置き、真っ先に飛び掛かってきたウルフの頭部が文字通り『ひしゃげた』。
瞬間的に水風船が割れたかのように液体は飛び散り、地を深紅に染めあげた。 そして、その返り血を浴びてしまった俺は最後になるであろう通告をした。
「まだ……やるか?」
その俺の言葉が最後通告であると残されたウルフ達は本能的に感じ取ったのだろう。 4頭のウルフは尻尾を丸めて我先にへと俺に背を向けて同じ方向へと逃げ出した。
それはもう、必死になり逃げ去って行った。 俺はその後姿を眺めながら、逃げていった以上、捨て置いてもいいと判断し洞穴内部に囚われているウルフ達の方を見た。
『――――――ガクガクブルブル』
「……うわ~お、こういう反応されるとかなり心が抉られるな」
何故か……ではないか、今しがた目の前で同族の頭が吹き飛んだって言うのに怯えないって言うのがおかしい話だ。 それに今の俺の姿は銀色の毛並みに真っ赤な返り血を被っている状態で恐ろしさがより一層際立っているのかもしれない。
でもまぁ、取りあえずは数の確認だけはしておくとしようかな。 俺は洞穴へと足を踏み入れて口を開いた。
「別に捕って喰いはしないよ。 取りあえず、代表の方は前に出てもらってもいいかな?」
俺の声に少しざわめきが起こり、ウルフの集団の真ん中がモーゼの滝のようにわかれた。 そして、その先に他のウルフよりも少し小さめなウルフが立っている。
俺の眼を真っすぐ見据えているが、明らかにその眼には恐怖の色が濃く見受けられた。
「君がこの中で一番偉いウルフかな?」
俺はなるべく相手を威圧しないように声をかけた。 周りのウルフ達が一瞬、声を引き攣らせたが、そんなのに構っている暇はない。
「は、はい……わ、私が皆の代表のア、アイリーンで、です……」
……無茶苦茶怖がられているぞ俺!? ってか、この子女の子か。 声はクリーヌに似ている気がするな……大きさはクリーヌよりも一回り小さい気もするけれど。
「まぁいいや、ここには何頭のウルフが居るの?」
「え、えと……お、お答えはしますが……お、お願いです! 私の事はどうなってもかまいません、なので他の皆は……他の皆の命だけはどうかお助けください!!」
そう言うや否や、一人気丈にふるまっていたウルフの女の子は身を伏せ俺の方を見上げた。
「あの俺は……」
「いいや、アイリーン様ではなくて俺を喰ってくれ!」
「いいえ、私を!」
「儂を!」
「僕を!」
次々とウルフ達が生贄志願をしだすもんだから大変だ。 ……何だか、俺ってば物凄く悪者になっていないかな?
「なに怯えさせてんのよーーーー!!」
どうするかを悩んでいると、聞きなれた女の子の怒声と後頭部に虫が当たったかのような衝撃がはしった。
ってか、誰かなんて考えるつもりはない。
「いや、俺もそんなつもりはなかったんだけれど……」
俺はそう言いながら声の方へと振り返った。 そこには少し不機嫌そうな顔をして洞穴入り口で立っているクリーヌとその直ぐ後ろで無表情ながら少し困ったような雰囲気を醸し出しているルジーナさんがいた。
「――――お、おおお姉様!?」
『――――姫様!?』
あれ? なんか意外な反応……
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何だかよくわからない感じだったけれど、捕らえられていたウルフの中にクリーヌの妹がいたみたいだ。 その妹っていうのが、さっき代表として俺の前に出てきたアイリーンって子らしいんだ。
後は言わずもがな、感動の再開中だったり……
「ご、ご無事で何よりですおおおお姉様……」
「いや~流石に私も死ぬかと思ったわ。 あ、それとあのクソ爺なんだけれど再起不能にしておいたから」
「す、素晴らしででですねお姉様……」
「……ねぇ、いい加減怯えながら話すのやめない?」
クリーヌの後ろに待機していたのがいけないのか、妹ちゃんが何故か俺とルジーナさんの方をチラチラ見ながら会話をしているという至極落ち着かない空気になってしまっている。
話しているクリーヌもだんだんとイライラが募っていったようで、指摘している。
「で、ですが……そちらのリザードマンさんと……種族がわからないのですがネコ科の魔物さんは一体……?」
「こいつ等? こいつ等はね、私のパートナーと友達よ!」
妹ちゃんの問いにクリーヌはドヤ顔で答えている。 ってか、微妙に妹ちゃんが欲しい答えになっていない気がするんだけれど。
俺はルジーナさんに目配せをして話をまとめるようにお願いした。 ルジーナさんも俺の言いたい事を理解してくれたのか、小さな溜息をついた後ウルフ達の方を見て口を開いた。
「我は中央の湖を縄張りとしているリザードマン、コレは我の仲間のワイルドキャットだ。 何故ここに来たのかと聞かれたら……まぁ長くなるので気が向いたからと答えておこう」
……俺ってばコレ扱いなんだ。 少し、ほんの少しだけぞんざいな扱いすぎて涙が出てきそうな気がしたぜ。
でもまぁ、ルジーナさんの言っている事は少なくともクリーヌよりはわかりやすくて良いかな。
「まぁそんな事は良いじゃない。 あの鬱陶しいクソジジイは居なくなったんだし、これでウルフの集落は安泰だわ」
まるで言い方が忘年会でのサラリーマンみたいな言い回しでクリーヌが一息ついた。 その言葉を聞いた妹さんは何故か驚いた表情になりクリーヌへと問いかけた。
「お、お姉様……一体全体何が何やら事情がさっぱりなのですが……」
「おっと、そうだったわね」
そしてクリーヌは妹さんにこれまでの出来事を多少の誇張表現を交えながら自慢気に話し始めた。
ボスウルフを倒すために仲間を探したこと、気が付いたら中央の湖の縄張りに侵入したこと、俺やルジーナさんが是非とも同行させてくれと懇願したこと、ボスウルフをクリーヌが見事なステップで翻弄させ打ち破ったこと……
――――――うぉい! 誇張表現どころから捏造が入っているぞ。 誰が懇願したんだっての!
ふと、ルジーナさんの方を見てみると俺と同じように納得出来ないような雰囲気を醸しだしていた。
しかし、それでも何も言わなかったところを見ると、折角喜びに満ちあふれている空間に水を差すような事をしないと言うルジーナさんなりの優しさなのかもしれない。 ……俺も我慢しよう。
「そうだギンよ、見張り達を逃がしたようだが問題無いたのか?」
「どうだろ……俺は無闇な殺生は好きじゃないからね」
「そうか……ややこしい事にならねばよいが……」
ふと疑問に思ったのか、ルジーナさんが俺に聞いてきた。
でも、確かに見逃しちゃったけれど、後のことを余り考えてなかったからね。 変な事にならなければ良いんだけれど……
そんな事を考えていると、クリーヌ達は話したいことを終えたのか、俺とルジーナさんの方へと振り返った。
「いや〜ホント世話になったわ、アンタ達のおかげで何とかここまでこじつける事が出来た……ありがとね」
「お、おおお姉さまがチャンとお礼を言うなんて……もしやこれは……夢なのですか?」
……クリーヌの言い方がたまにキツいと感じたのは俺たちの事を警戒して使っていたんじゃなくて、素だったんだ。
それよか、妹さんのほうが人格的には出来上がっていると思ったが決して口には出さなかった俺はエライと思う。
「では我等は行くぞギン、何時までもあの場を留守にするわけにはいかぬのでな」
ちょっと酷い事を考えていたところ、ルジーナさんが帰ろうと言ってきた。
確かにルジーナさんの言う通り、縄張り持ちのルジーナさんが何時までも留守にするわけにはいかない。
しかし、その言葉をよしとしない者がいた。
「えぇ~っ! 帰っちゃうの!? もっとゆっくりしていきなさいよ~」
言うまでもなく、クリーヌだったりする。 彼女の言わんとすることもわかる。 折角ノンビリしようと言う矢先、ある意味で活躍していた奴らが帰ると言っているんだ無理もない。
「そうはいかないよ、ルジーナさんは中央の湖のボスなんだから――――――と言うわけで、妹さん達もまたねっ!」
「え、いや、あのっ……本当にありがとうございました。 このご恩は一生忘れません!」
そんなありきたりな言葉を残して俺とルジーナさんは自分達の縄張りである中央の湖に戻っていくのであった。
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「とまぁ、そこで終われば良い話だな~で済むんだけれど……」
さてさてここは湖の畔、決してワープで帰ってきたのではなくてちゃんと歩いて帰ってきたんですよ。
そして俺とルジーナさんは今、またもや現れた問題に直面してしまっている。 ……いや、問題と言ってもいいものなのかは知らないけれど、ある種の問題と言うか……予想外過ぎる出来事と言いますか……
「なんで――――――
――――――クリーヌが中央に居るのかな?」
何故か、ウルフの縄張りで別れたはずのクリーヌがさも当然という感じの顔をしながら俺達の眼の前に居るのですから……
ありがとうございましたかみかみんです。
ここで一つお知らせがあります。 活動報告にものちに書く予定なのですが、本日から二月末日まで執筆活動を休止させていただきたいと思っております。
詳しい内容につきましては活動報告をご覧ください。
皆さまにはご迷惑をおかけいたしますがご了承ください。
ではでは、感想&ご意見&誤字脱字報告は随時受け付けております。
それでは、次回の二月か三月にまたお会いしましょう~