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弱いからこそ強くなれる!  作者: かみかみん
第一章 ネコ科!?
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第十四幕

この物語はフィクションです。登場する人物・団体名は架空のものです。

「ア、アアアアアタシが殺るの!?」


 俺の戦えという言葉にクリーヌが上ずった声で、そして信じられないといった口調で慌てて聞き返してきた。


 やぁ、ウルフ族のボスの片足をハタキ一発で粉砕骨折させた現ワイルドキャットのギンです。


 何だかんだやっているうちに始めは数十頭のウルフに囲まれていたのですが、気が付くと殆どを撃沈させて今ではボスのウルフを除いて、この場には数頭のウルフしかいない。

 そこで俺はクリーヌに兄の仇である現ボスを倒させる提案をした。

 ぶっちゃけ、先程のボスウルフが言っていた群内の内輪揉めに積極的に関わるのをやめた結果ではある。

 け、決して生物を殺すっていう行為自体が嫌なわけじゃ……スミマセン、チョ〜シこきました。 さっき、ウルフの団体さんを焼いたり凍らせたりしたせいで色々と限界です。 もう私のライフポイントはゼロよ! って叫びたい衝動にかられています。

 所謂、丸投げというやつですね……わかります。


「――――グッ……き、貴ッ様ァァ! やりやがったな!!」


 あ、キレたみたいだ。


「ほらほら、クリーヌファイトだ」


 俺はそう言いながら、未だに腹にしがみ付いているクリーヌをひっぺがした。

 当のクリーヌは突然のフリに目を白黒させながらボスウルフと俺を交互に見返している。


 それを何度か繰り返したあと、どこか覚悟を決めたような目でボスウルフを見据え地にしっかりと脚を着けた。

 ルジーナさんもクリーヌのそんな様子を見て、刃零れしたサビサビな剣を腰へと納めながら俺に近付いてきた。


「やれやれ、ここまでお膳立てをしなければ動かぬか……相当、兄とやらに甘やかされておったのであろう」


「まぁまぁ、ちゃんと自分でやるって決めたんだからそう言わないの」


 少し不機嫌そうに『シューシュー』言っているルジーナさんを宥めながらクリーヌの方へと視線をずらした。


 相当、集中しているのだろう、さっきまでのクリーヌならばルジーナさんの軽口を言い返すくらいはしていた筈だ。

 しかし、クリーヌはしっかりと前方でフラフラになりながら立っているボスウルフから視線をずらす事などなかった。



 皆が無言のまま数秒……いや数十秒だろうか、もしかしたら数分経過したのかもしれない。

 そんな時が曖昧な程の緊張感に支配されていく。 そして、最初に動いたのは無傷な状態のクリーヌの方だった。

 ゼロスピードからの加速……そのスピードは明らかに先程まで戦っていたウルフのソレを凌駕している。

 クリーヌのレベルは3、聞いた話によるとこの地にいるウルフ達は1・2レベルとクリーヌと比べたらあまり変わらない。

 だが、現に今俺の目の前では殆どレベルが変わっていないはずなのにそれ以上の速度を出しているクリーヌがいる。


 しかし、これは俺にとっては予想外な事だった。 クリーヌのレベルは前述の通り3……そして相手のボスウルフは片腕を潰しているとはいえ5……腐っても2レベルの差がある。

 しかも、加えてボスウルフはクリーヌの身体より一回りも二回りも大きい。

 つまり、片腕が無いっていうハンデはポテンシャルの高さを考慮するとあまり意味がないのかもしれない。

「なんだ、クリの事が心配なのか? 心配あるまいて、奴ならばなんとかするだろうよ」


「そう……ですね」


未だに心配を続けている俺の姿を見て、フォローに回ってくれたルジーナさん。

――――そうだな、本当に俺の杞憂ならいいんだけれど……








だが、俺の予想は無情にも本当の事となってしまうのだった。


真っ直ぐ一直線にボスウルフへと突貫するクリーヌであったが、相手も脚を砕かれただけでは戦意を喪失していなかったみたいだ。

クリーヌが飛び掛かった瞬間、砕かれた脚をまるで鞭のようにしならせてクリーヌの身体を弾き飛ばしたのだ。


「ってか、見ているだけで自分の脚が痛くなってくる錯覚に陥るよ……」


「……お主がやった事よな?」


――――正にグゥの音も出ないとはこの事だと、ルジーナさんのキツい一言をいただいて感じた。


「――――ッツ……ま、まだまだぁ!」


だが、クリーヌも諦めてはいなかった。

弾き飛ばされながらも空中で体勢を立て直すと、地面に脚をついた瞬間には直ぐに地を蹴だしボスウルフへと向かっていった。

しかし、何にも策が無い状態で闇雲に突っ込んで行っても先程と同じようにボスウルフの鞭のようなカウンターを受けて吹き飛ばされる。

……成る程、例え不意討ちで前ボスを倒したとはいえ、腐ってもボスになったウルフか。 一筋縄にいかないみたいだ。

ルジーナさんも俺と同じ考えのようで『クリには早かったか……』と呟いている。

こいつは……いよいよ危なくなってきたかもしれないな。


「――――もう一丁!」


 しかし当のクリーヌは諦めたり、どの様に攻め込むかは一切考えずに只我武者等に突撃していく事をやめようとはしない。

 そんなクリーヌを邪魔することが出来る筈もなく、徐々にだがボロボロになっていくクリーヌの身体を俺はただ目を背けないで見ているだけであった。


 周りに居るウルフ達は始めこそクリーヌの方を忌々しげに見ていたが、今ではボロ雑巾のようになっていくクリーヌを見て自分達のボスの勝利を確信したのか今では俺とルジーナさんを囲って何時でも飛び掛からんとばかりに牙を剥き出しにして低く唸っている。

 多分、クリーヌの敗北が決定した瞬間と同時に俺達に襲い掛かってくるつもりなのだろう。 ……え、いくらなんでも無謀だと思うのは俺だけでしょうか?


「心配せずとも、ただの牽制であるぞ。 我等が無闇に助けださぬようにな」


「――――うぉ! エスパールジーナ、略してエスルジ降臨!?」


「……なんだそれは? まぁよい、それよりもギンは今度の戦い、どうみる?」


 動じないルジーナさん……そこに痺れる憧れるぅ!!


「――――今、不穏な事を考えたな? まぁよい、どの道お主はクリーヌが勝つと踏んでおるのであろう。 ならば、我等はのんびりと観戦するまでよ」


 ……結局、ルジーナさんもクリーヌが勝つと思っているもんだから、周りのウルフは気にしない方針なわけか。 取りあえずは、俺もルジーナさん見たくのんびりと観戦しておこうかな。

 そう決めた俺は再びクリーヌとボスウルフへと眼を向けた。 しかし、どうにも先ほどと変わったところは無く、相変わらずクリーヌは突っ込んでボスウルフに弾かれて……ん?


 何故だろうか、さっきと同じ様子を見ているはずなのになんだか少し違う気がする。


「――――グッ……さっさとやられぬか小娘が!!」


「うっさい、バーカバーカバーカ!!」


 ……そうか、クリーヌはあまり変わっていないがボスウルフの動きが鈍くなってきているのか。 と言うよりも疲れるのが速まっているみたいだ。

 理由を考えたのだがそれはすぐに理解する事が出来た。 ついさっき俺が砕いた脚を鞭のように使っていたボスウルフだ。 唯でさえ重症な怪我を根性で武器のように使っていたのだがそれが限界に来てしまったという理由だ。

 やっぱり、魔物の思考能力と言うのは人間のそれとは違うのだろうか? ってか、怪我した脚を酷使したら悪化するっていうのはすぐにわかるようなものだと思うんだが……

 俺はボスウルフの事を少し呆れながらも続きを観戦した。 だけれど、ボスウルフの動きがおかしくなったのは分かった。 でも、クリーヌはあれだけボロボロになりながらもその動きは始まった時と寸分変わらずに俊敏な動きをしている。 それについては何故?と言いたくなった。

 だって、体毛で怪我の部位は確認できないけれど弾かれるたびに赤い液体が飛び散っているのだ。 どう見てもあれはクリーヌの血だと思う。

 つまり、アイツの怪我も相当なはずなんだ。 だけれど、その動きは始まった時と変わらない……いや、寧ろ早くなっていないか!?


「ルジーナさん、クリーヌの奴……」


「フフッ、言わずともわかっておる。 クリの身体の側面……レベルの印を見てみろ。 面白いものが見れるぞ」


 クリーヌのレベル印? ……多分、あの刺青みたいなものだよな? 確かクリーヌは体の側面に3本の線が入っていたはずなんだけれど。

 俺はルジーナさんに言われるがままクリーヌの体の側面に刻まれたレベル印を見てみた。 ずいぶん遠くに位置しているけれど、なんとか確認する事が出来た。

 俺はそこで違和感を覚えたんだ。 確かクリーヌのレベルはさっきも言った通り3レベル。 しかし、クリーヌには4本の線が刻まれていたんだ。


 どういう事だ? ……いや、考えるまでもないか。 簡単な事だ、クリーヌはこの短い時間の間にレベルが2つも上の敵を相手にする事によって経験値をためて晴れてレベルが4に上がったのだ。


「……いやいや、普通に感心しちまったけれどスゲーよクリーヌ! まさか実戦でレベルアップするなんて!」


「どうやらクリーヌは元々の個体値が高かったのであろう、そのためある意味で恵まれた環境かなのやもしれぬな」


 ……ルジーナさんの言い回しは難しいけれど、要はポテンシャルが高いから少し鍛えれば凄く強くなるって解釈で良いんだよね?

 そんな事を考えている間もクリーヌの突撃は止まらない。 ついさっきまでは相手にすらならなかったクリーヌの突撃は怪我をしたボスウルフを怯ませるには十分だったようだ。

 更には、さっきも言った事だがあまりにも酷使してしまったボスウフルの脚は使い物にならないようだ。 クリーヌはまるでこの時を待っていたかのように先ほどまでは正面からの攻撃しかしていなかったが素早い動きで後方へと回り込んだ。

 急に回り込まれたボスウルフは慌てて向きを変えようとしたのだが、下肢より流れる激痛に動きが鈍りクリーヌの早さに追い付く事が出来なかった。

その一瞬をつき、クリーヌはボスウルフの背中に飛び乗った。 乗られたボスウルフはなんとかクリーヌを振りほどこうと身体を揺するが、片脚が上手く機能していないためバランスを上手くとれず、差程大きな揺れを起こすことが出来ずにいた。

クリーヌがそれを見逃す筈もなく、背中を伝い走りボスウルフの右耳へと力一杯噛りついた。

途端、耳に激痛が走ったボスウルフは自身の体勢が崩れるのもお構いなしに激しくもがいた。 しかし、クリーヌは爪をしっかりと立て、更には耳に噛りついている為、容易には離れる事はなかった。

そして、クリーヌは噛りついているボスウルフの耳を食い千切った。


「――――ギャアアアァァ!」


耳を突く醜い悲鳴とともに噴き出した夥しい量の血……それは背に乗っているクリーヌへとまるでシャワーのように降り注ぎ、茶色の毛並みのクリーヌを真っ赤に染め抜いた。

しかし、クリーヌの猛攻は止まることなく、次にはもう片方の残った耳を咬み、更にこちらも食い千切った。


「もう、もう止めてくれ! これ以上俺を喰わないでくれぇ!!」


両耳をクリーヌによって食い千切られ、既に戦意を喪失したボスウルフはボスの威厳などを全く感じさせないくらい情けない声で命乞いを始めた。

これ以上、痛い事をしないでくれ……これ以上、自分を食べないでくれと……

周りにいたボスウルフの近しい者達はそんな自分達のボスの情けない姿を目の当たりにしてしまい、幻滅したのか、一匹…また一匹とこの場から立ち去っていく。


だが、そんな様子にお構いなしにボスウルフは醜く命乞いを続けた。


「――――フフッ、可笑しいわね。 兄さんを殺しておきながら自分は命乞い? みっともないったらありゃしないわ!」


そんな情けない奴が自分の兄を殺したと言う事実に憤怒したクリーヌは食い千切った耳を吐き出すと、前脚を振り上げ、爪を立てた状態で両眼へと振り下ろした。


そして次の瞬間、クリーヌはその前脚を眼球へとめり込ませた。

あそこまでしたら、間違いなくボスウルフの両眼は潰れ、奴の視覚から永遠に光が失われてしまっただろう。

俺はその様子を唯唯、他人事のように見ていることしか出来なかった。


「――――ぎ…ぐが……お、俺の…俺の目がぁぁぁぁぁ!!」


当然だが、ボスウルフは痛みにもがき苦しんだ。


「……アタシは慈悲深いのよ、これで兄さんを殺した事は許してあげる……て言っても耳がなくて聞こえないだろうし、目が無くちゃ生きる事もままならないけれど……敢えて鼻は残してあげたんだから感謝しなさいよね」


クリーヌはそう言い残すと興味を失ったかのようにヒラリとボスウルフの背中から降りて足早に俺達の元へ近づいてきた。 先程まで俺達を取り囲んでいたウルフ達の姿は既に無く、クリーヌは真っ直ぐとこちらへ来た。

その目は大きなことをやり終えた達成感と自分の復讐相手の姿から自分の兄がこんな奴に殺されたという悲しみ諸々が要り交ざっていた。


「中々やるではないか」


「……アタシを誰だと思ってんのよ?」


戻ってきたクリーヌにルジーナさをが若干皮肉が交じったような声で労った。 クリーヌも同様に軽口で返す。

さて、俺は何て言って労おうか……でも、取り敢えずは


「俺のパートナーだろ? 何はともあれ、頑張ったな。 偉いぞクリーヌ……」


そう言いながら俺は赤く血に染まったクリーヌの身体をなるべく優しく包み込んだ。

それが切っ掛けになったのかクリーヌの身体は徐々にだが小刻みに震えだし、嗚咽が聞こえはじめた。

俺とルジーナさんはなるべくその泣き声を聞かなかったことにするためにゆっくりと瞳を閉ざすのであった。

あけましておめでとうございます!かみかみんです。

新年一発目の更新となります。

今話では少しだけグロ表現も入れましたが、あまり生々しくならないように注意もしてみました。


しかし、戦闘描写は難しい!誰でも良いのでコツを教えてほしいですね。


ではでは、感想&ご意見&誤字脱字報告は随時受け付けております。気軽に書き込んでいっていただけると幸いです。

それでは次回をお楽しみに。

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