第十三幕
この物語はフィクションです。登場する人物・団体名は架空のものです。
「あ、アンタ……何なのよ、そのブレスの威力?」
やぁ、ウルフの集団に囲まれているワイルドキャットことギンだよ。
俺は飛び掛かってくるウルフからクリーヌを守るため、咄嗟に炎を口からはいたんだ。
さて、よく考えてみよう。 昨日、クラブの爪を食べるために火をはいたときはケットシーの姿だった。
しかもその時ですら、下手をしたら山火事レヴェルになるかもしれないくらいに威力が半端無かった。 そんな俺が進化をして、尚且つ結構本気でブレスをはいたんだ。
口からは喩えではなくてガチでテレビで見たような火炎放射器から出て来る程に強力な炎が吹き出されるという、半端ない現象が実況生中継な状態なのである。
その様子を見てクリーヌはあんぐりと口を開いており、炎の直撃を受けた数頭のウルフは物言わぬ黒炭へと一瞬で変化してしまった。
流石に相手のウルフ達もこんなに凶悪なブレスをはく俺のことを無視できなくなったのかクリーヌを警戒しつつも俺の方への視線を強くしてきた。
「――――フンッ……なんだ、ウルフとは脆弱な種族であるな。 こんなボロ剣を装備したリザードマンにすら触れられぬとはな!」
どうやら、背後で頑張っているルジーナさんも余裕で捌いているみたいだ。 ってか、ボロ剣だっていうのは分かっていて持っていたんだ?
まぁそれよりも、後ろは気にしないでルジーナさんに任せて前だけをみていればいいね。
「……貴様等、一体なんだ!? リザードマンとわけのわからん種族が何故邪魔をする!!」
「――――ハンッ! クソジジイなんかにギン達が負けるわけ無いわよ! なんてったって私のパートナーなんだから!」
「いや、自慢になっているようでなっていない気がするんだけれど?」
何て言うのか……そう、猫の威を借る犬みたいな?
寧ろ、クリーヌの伯父さんはワイルドキャットっていう種族すら知らないんだ?
……あり? だったら何でルジーナさんとクリーヌは俺がワイルドキャットって知っていたんだろう?
……謎すぎる、だけれど今はそれよりも目の前の敵に集中しておこう。
どことなく釈然としない気持ちを抱きつつも俺は、壁のように織り成すウルフ達の向こう側にいるクリーヌの伯父である体格が一回り大きいウルフを見据えた。
俺と目が合ったウルフは一瞬だが身体を振るわせたようにも見えたが、すぐに俺のことを忌々しげな眼差しで睨み返してきた。
殆どの人間は無くしてしまっているが、こういった自然界に住む動物い備わっている殺気であろうか、俺と相対しているウルフからは言い知れぬ圧迫感が感じられる。
勿論、俺だってレベルの上に胡坐をかくつもりはないし、いくらレベル差があるとはいえ経験は間違いなくあっちの方が上で、下手をしたら俺自身も大怪我をする可能性だってある。 ここは、慎重に事を運んだ方がいいのかもしれない。
「まぁ、そんなわけだから諦めてくれないかな? ってか、君が暴れると正直言って近所迷惑だから」
一瞬、近所迷惑と言う言葉が果たして魔物に通じるのかが心配になったけれど、この際気にしていられなかった。
だって、時間が立てば経つほど眼光が鋭くなってきているんだもの。
明らかに答えはノーと態度で言いまくっている。
内心で冷や汗を大量にかいているものの、クリーヌにこれほどまでに頼られている手前、中々表には表出しにくい。
俺は『ハァ』と軽くため息を吐くと、まず先に壁となっているウルフ達をどうにかしようと思考を働かせた。
さっきみたいに火を吹くのも良いんだけれど、流石に生命を故意に消すというのは躊躇してしまう。
だったら、足元を冷たい息で凍らせればそれだけで行動不能になるのではないのか?
そうと決まったら俺は息を大きく吸い込み、肺内に空気溜め込んだ。
俺の様子を見て、再び火をはくのかと思ったのか、ウルフ達はそれを阻止するために一斉に俺めがけて飛び掛かってきた。
しかし、それよりも俺の方が早かった。 肺内に圧縮された空気を俺は目の前のウルフ達に向けて一気にはきだした。 瞬間的に辺り一帯の気温が下がったような気がしたが、そんなことはお構いなしに俺は冷たい息をはき続けた。
途中、何だかあまりにも寒くなりすぎて目がシバシバしてきたので眼を閉じながらも俺は息をはくのをやめなかった。
「ギャァァァァ!!」
「か、体が!?」
「距離をとれーー!! あれに触れると死ぬぞ!!」
――――はて? なにやら物騒な悲鳴が聞こえているようなのですが……
そろそろ息も続かなくなってきたと判断した俺は息を吐くのをやめて、恐る恐る眼を開けどんな状況になったのかを確認しようとした。
「……やだ、何か怖い」
そして、俺の目に飛び込んできた光景に俺は目を疑った。
だって、足元だけを凍らせようと思っていたのに目の前にいるウルフ達は煌びやかに光り輝く氷像と成り果てているのだから。
半ば呆然としていると何だか俺の腹部でモゾモゾと動く感覚がした。
突然の事すぎて反射的に頭を屈めて何が起きたのかを確認すると……
「ちょ、ちょっと! アイスブレスも使えるの!?」
「まぁ……いや、それよりもクリーヌは何をしてんの?」
「な、何って……み、見て分かるでしょ!? だ、暖をとってんのよ!」
何でか知らないけれど、クリーヌがブルブル震えながら俺の腹の毛にしがみついているのだ。
まぁ、確かに辺り一帯はかなり冷え込んじゃったけれど……そこまでか?
「くぅおらぁ! アイスブレスを使うのなら一言ことわれ! 我はお主等のような恒温動物ではないのだぞ!」
おっと、どうやら後ろにいた筈のルジーナさんにも今の冷たい息は影響していたらしい。
流石にそこまで言われると今の息が相当えぐい攻撃だと悟った俺は、取り敢えず何も言わずに使ったことを謝罪するべくルジーナさんの方へと振り向いた。
「ごめんなさ――――ぅわ〜……」
振り向いた俺は又もや目の前の光景に驚き、再び固まってしまった。
若干……いや、どん引きですと言いたいくらいの光景だ。 だって……
「ルジーナ……あんた、ウルフの毛皮を身にまとうのは良いんだけれど、身体真っ赤よ?」
「……グロ」
「誰のせいだと思っておるのだ!?」
クリーヌが代わりに代弁してくれたからいいや。 でも、幾ら寒いからって咄嗟に殺したばかりのウルフの毛皮をはぎ取って纏うって……地味にすごいと思うのは俺だけなのかな?
――――おとと、そう言えば俺ってば今戦いの真っただ中だったんだよな? 何だか、凄く和んだ感じがしていて少し忘れてしまっていたよ。
俺は慌ててウルフのボスの方へと視線を戻した。 後ろでは未だにルジーナさんが俺の腹にひっついているクリーヌとやんややんや話しているけれど、それはこの際スルーしちゃる。
俺が再び自分の方を見たせいか、ウルフのボスはかなり恐怖に支配されているようだ。 無理もない、目の前で仲間が冷凍庫に放り込まれたと同じ状態になっているんだから。
たぶん、解凍しても助からないだろうな~ なんて少し他人事のようにも感じてしまう俺はイケナイ子なのだろうか?
まぁいいや、トラブルにも見舞われたけれど残すはウルフが数体とボスのみ。 さっき確認したけれど、ルジーナさんも粗方片づけたようだ。
その間、レベルは高いはずなのにクリーヌはずっと俺の腹にひっついているのが気になったがこの際どうでもいいや。
さて、残された奴らはどう出るのかな? このまま続行しても良いけれど、それだとおそらくって言うか間違いなく俺が勝つし……俺的にはここを明け渡してオリジンから立ち去ってほしいんだけれど……
「さて、どうする? このまま続けるっていうのなら相手になるけれど……君たち勝てるの?」
「クッ……き、貴様には関係ない事だろう! 何故ウルフ族の内輪揉めに入ってくる!? 大体そこの小娘もだ! 身内の失態を他の種族に任せるなど間違っているだろう!!」
うわぁ~お、まさかの責任転換来たよ。 ……でもまぁ、一理あるって言ったらそこで終わりなんだけれど。 確かに、ウルフ族の内輪揉めに違いは無い。
こう言っちゃあれだけれど、クリーヌの兄貴が負けなければいいだけの話だったし、そもそもウルフを統括する奴の交代方法なんて俺は知らない。 強い奴がなるっていうのなら負けた兄貴が悪いって話になるし……
う~ん、よくわかんなくなってきたぜ。
「確かに内輪揉めに我等、湖を縄張りとする魔物がシャシャリ出るのはお門違いやもしれぬ……」
「ルジーナさん……」
「ちょ、ルジーナ! アンタどうして……!!」
どうやら、ルジーナさんも俺と同じことを思っていたようだ。 まぁ、ルジーナさん的にはウルフ族がオリジン内の治安を脅かさなければ良いってだけの話かもしれないしね。
そしてルジーナさんは一拍置き、語尾に『だが』と続けて再び口を開いた。
「だが、我等の友が助けを求めておるのだ、これは助けるのが道義であろう?」
口角をクイッと挙げて無表情ながらも意地悪そうな声色でルジーナさんはウルフのボスの言葉を切り捨てた。
「そうだね、ルジーナさんの言うとおりだ。 でもここで俺達が君を倒すのは簡単だから――――――」
俺はルジーナさんの言葉に被せて、一気に地面を蹴りウルフのボスの元へと駆け出した。
俺のあまりにも突然な奇襲により反応が遅れたのだろう、ウルフ達は一斉に実を固くした。 更に、レベル30の俺の体の瞬発力は半端ないみたいだ。 俺とウルフのボスとの距離は大体10メートル弱、それを本当に一瞬で詰めてしまったのだ。
あっという間に目の前に現れた俺の姿に眼をひんむかせたウルフのボス。 しかし、俺のターンはまだ終わっていないぜ!!
俺は右前足を振り上げると、ウルフのボスの右足を力一杯殴り飛ばした。
足に伝わる肉と骨を砕く生々しい感触に背筋がゾゾゾとしたが、それも一瞬でカタをつけた。
俺が殴ったウルフのボスの右前足は無残にも砕かれ、関節上、向いてはいけない方向を向いている。 そして、そのまま自分の体を支え切れなくなったボスは地面へと倒れこんだ。
「ほう、ギンは面白い事をするつもりのようだ」
遠くの方で呟かれたルジーナさんの独り言はしっかりと俺の耳に届いていた。 どうやら、俺の意図をルジーナさんは理解してくれているみたいだ。
そして……
「――――――クリーヌ、お前が兄貴の仇を取れ。 なに、レベルが足りなくてもあっちは片足がないと同じなんだ。 条件は変わんないよ」
俺は未だに俺の腹にひっついているクリーヌに向かってなるべく優しく語りかけたのだった。
「――――――へ、アタシ?」
恐らく俺はその時の間の抜けたクリーヌの返事を忘れる事は無いと思う。
ありがとうございましたかみかみんです。
今話は少し短めにお送りさせていただいております。
さてさて、中々執筆が進まなくて年末に突入……恐らく来週の『Re:俺!?』の更新が今年最後の更新となります。
誤字脱字報告&感想はいつでもお待ちしております。お気軽に書き込んでください。
ではでは、かみかみんでした~