第十一幕
この物語はフィクションです。登場する人物・団体名は架空のものです。
レンの住む村を後にした俺は足早にルジーナさんとクリーヌがいる湖へと戻っていた。 あたりはすっかり夜の闇へと包まれており、昼間は見られなかった魔物を数匹見る事が出来た。
見たこともないウサギっぽい角の生えている生物とか、やけに大きい蝙蝠や蜘蛛。 ゲル状で一見すると生き物には見えないけれど明らかに自立運動をしているスライム(?)とか。
どうやら、このあたりに住む魔物は夜行性の奴が多いようだ。 かくいう俺も猫だけに夜目が利いているのできっと夜行性なんだろう。
最も、猫だけにデフォルトで隠密スキルが入っている俺にとっては、奴らに気づかれずにここを通り抜ける事はわけないぜ! ――――っては言ってみたものの、あたりはすっかり暗くなっちまったしなぁ~。
気がつくと完璧に今は丑三つ時。 要は深夜真っただ中だ。
何だかんだ言って今朝からずっと動き回っているし、レンの家ではまともなものを食べることが出来なかったので空腹がフルスロットルを通り越してリミットブレイク状態だったりする。
そんな状況下でこれ以上進むと間違いなく遭難してルジーナさんの湖に戻ることができなくなりそうだ。
「しゃあない、今日はこのあたりで寝て朝になったら戻るとしよう」
俺はそう結論付けて寝床になりそうなところを探した。
幾ら俺が隠密スキルを持っていたとしても、寝てしまったら無防備この上ない状態だ。 ルジーナさん曰く、俺のレベルはこの辺りでは破格過ぎると言っても過言ではないくらい高いものである。
けれど、あんまりレベルの上に胡坐をかくような事だと寝首を掻かれることだってあるかもしれない。 ましてや睡眠状態で襲われて無事でいる可能性が100%と言えない今、俺は少しでも安全な寝床を探す必要があるわけだ。
当然のごとく地面は危険度マックス。 昨日みたいなほら穴や洞窟もこのあたりにはなさそうだ。
「と言うことは……」
俺は頭上を見上げた。 当然のごとく森の中と言うことで木が生い茂っており、夜空が葉で隠れんばかりに覆われており隙間から月明かりが見え隠れしている。
「木のぼり……出来るかな?」
猫だけに。
・
・
・
・
木には思ったよりも容易に登る事が出来た。
人間だったときも子供の頃に木登りをしていた記憶はあるが、それとは全く違う要領で……具体的に言うのであれば、自分の爪を雪山を登る際に使用するピッケルのごとく木の幹へと突き刺しながら登った。
なるほど、猫がスイスイと木に登ることが出来る理由を垣間見た気がするぜ。
さて、話をすりかえるのはこれくらいにしておいて、木の上は意外と開けた感じとなっていた。 木の枝だって元いた世界の木々とは違ってかなり幅の広い感じがする。 恐らく、ここで幾ら寝返りを打とうが、相当寝相の悪いやつでなければ木の上から落ちる事は無いほどの広さだ。
木の高さは目測で10メートル程、まず人間が落ちたら死ぬ高さだが……俺猫だし、ってか魔物だしまぁ、問題はないでしょ。
さて一夜の宿は決まった。 あとは空腹さえどうにかできればいいんだけれど、この際贅沢なことは言いっこなしだ。
俺は空腹をごまかすかのように枝の上で横になり瞼を閉じた。
そうして、俺の激動の異世界生活二日目が終了したのであった。
□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
「――――――フゴッ!?」
翌朝、俺の意識を目覚めさせたのは眩い日の光でも爽やかな風でも魔物の襲来でもなく、先にジェットコースターにでも乗っているかのような浮遊感、その次に身体全身に走る原因不明の激痛だった。
身体の痛みは眼を開けた瞬間に理解することができた。
「地面……あれ? 木の上で寝ていたはz――――イチチッ!」
どうやら、落ちるはずなんかないと高をくくっていたにも関わらず、ご期待通り落下してしまったらしい。
自分の寝相の悪さをこうして実感することになるなんて思いもよらなかったけれどな。
しっかし、10メートル位の高さから落下したのに生きているという現状に驚きだな。 更に――――
俺は四肢に力をこめると四つんばいになるように立ち上がった。
「骨とかには異常は無いみたいだね。 流石は魔物……あり? 何だか昨日とは違う気が……?」
立ち上がった瞬間、身体に痛みなどの違和感は全く感じられなかった。
無傷ということに安堵した俺だが、直ぐ様昨日は感じなかった違和感に気が付いた。
そう、具体的に言うのであれば、レンからもらった帽子が昨日の時点ではブカブカだったのに対して今は物凄いフィットしているように感じたり……
昨日迄とは違って四つ足で立ったときの目線がやけに高くなったように感じたり……
簡単に言うと……
「身体……でかくなってないか?」
我ながら至極簡潔にまとめた感想だと思ったのは割愛しておこう。
□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
「それで……ギンはどこに行ったのだと思う? クリ」
「クリはやめなさい! って言うか、私が知るはずないじゃない。 あんた達仲間なんでしょ? あんたの方が心あたりあるんじゃないの」
ところ変わって湖のほとり。 あの後彼女等は夜を通して言い争いを続けていた。 ギンがその場にいない事に気がついたのは夜も明け太陽が昇ってきた後であった。
当然のごとくギンはその場に居るであろうと思っていた彼女達はキョトンとした顔をしたが、直ぐにギンがその場にいない事を知り、ルジーナが治める森中を探し回った。
しかし結果はかんばしくなく、2体ともギンを見つける事が出来ずにいたのだ。
「大体、あんたがギンをくれないのがいけないのよ」
「ふん、得体の知れぬ輩に仲間をホイホイ差し出すほど我は薄情ではない――――む? クリ、誰か近づいてくるぞ」
……一晩経っても言い争いは続いているようだ。
と、そこへルジーナが森奥から湖へと近づいてくる気配を察知した。 クリーヌもルジーナの言葉に意識を戦闘態勢へと持っていき、身体を低くいつでも飛びかかれるような体勢をとった。 一方のルジーナも右手を腰に掛けてあるロングソードへとかけていつでも抜刀出来る体制をとる。
緊迫した空気であったが、次の瞬間現れた陰に二人は愕然としたのであった。
「――――ッ!? ちょ、ちょっと! あれって『ワイルドキャット』よね!? な、なんだってオリジンにあんな魔物がいるのよ!!」
「わ、我がそんなことを知るはずがなかろう! ……し、しかしどうする? あれは我の記憶が確かならば少なくともレベル10は超えておるはずだ。 我はレベル5、クリはレベル3……どのように転んでも勝ち目は低かろう」
彼女らの前に現れた魔物の名は『ワイルドキャット』。 名前こそ猫とついてはいるが、性格は獰猛であり、始まりの地であるオリジンにはいるはずのない凶悪生物と言っても過言ではない存在だ。
ワイルドキャットとして誕生した個体は子供でありながらもレベルは10を超えておりオリジンに住むリザードマンやウルフでは到底敵わないほど実力はひらききっている。
通常ならばワイルドキャットは縄張りの外に現れる事は無い。 しかし、この場に現れたのは新たな領土を獲得に来たのか、はたまた縄張りを持たぬ若いワイルドキャットなのか……しかし、そんな事は彼女らにとっては何ら問題は無かった。
あんな凶悪な存在が現れた以上、自分たちに訪れるのは明確なる『死』のみ。 それを本能で理解していた。
銀色の毛並みを持つワイルドキャットは彼女たちに気がついたのか、その双眼で彼女たちを見据えている。 そして、何故だか頭部には人間が被っていそうな衣類が乗っていたがそんな事を彼女達が気にする余裕などは存在していなかった。 見たところ体長はゆうに2メートルを超えそうなほど巨大で、体高はルジーナの身長ほどはあるであろうか。
「(クッ……まさかこの地にワイルドキャットが現れるとは……ギンが居てさえくれればどうにかなったやも知れぬが)」
「(ちょっと……わ、私はまだ死ぬわけにはいかないのよ! これからギンにアイツを倒してもらわないといけないのに!)」
そして、ワイルドキャットがゆっくりと口を開き……
「あ、漸く話し合いは終わったんだ。 それで、俺はどうすればいいの?」
・
・
・
・
・
・
・
・
・
・
『――――は?』
ワイルドキャットの口から思いもよらぬ言葉が飛び出してきた。 その言葉を理解するのにたっぷりと10秒をようしてしまったが死を覚悟していた手前、頭が正常に働かず2体とも間抜けな返事をしてしまったのは仕方がない事である。
2体が口をあんぐりとあけている様子を変に思い首をかしげながらもワイルドキャットは話を続けた。
「いや、俺がクリーヌに付いて行く行かないで昨日ルジーナさんと話してたじゃんか」
「な、何故我の名を知っておるのだ!?」
「な、なんだって私の名前を知っているのよ!?」
2体の反応は当然の物と言えよう。 見知らぬ凶悪な魔物にまるで友人のように気軽に話しかけられているのだから。
「いや、昨日教えてくれたじゃん。 って言うかルジーナさんとは昨日仲間になったばかりじゃんか~」
「ちょ、あんたいつの間にこんな凶暴な奴を仲間にしたのよ!?」
「し、知らぬぞ! 昨日は――――というか、最近仲間になったのはギン以外知らぬ!!」
「なんだ、覚えているんだ。 よかったよ、忘れられたらどうしようかと思っちゃったよ」
――――一瞬、空気が凍ったかのような音が鳴り響いた。 2体は驚きの眼でワイルドキャットを見つめ。 一方のワイルドキャットは安堵した表情で彼女等を見つめていた。
傍から見たら、明らかに狩る者と狩られる者の構図だが明らかにそのような殺伐とした空気はその場には漂っていなかった。
そしてルジーナはそこである『答え』にたどりついた。
「お、お主……もしや…ギンか?」
「そうだよ~全く、何言っちゃってんのルジーナさんは?」
悪びれた様子もなくサラリと答えたワイルドキャットを見てルジーナとクリーヌは……
「シュ、シュー……」
「きゅぅ~……」
「ちょ、二人ともどうしちゃったんだよ!?」
取りあえず、緊張の糸をほどくために意識を飛ばすことに決め込んだ。
□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■
「そ、それでだギンよ。 おぬし昨日はどこに行っておったのだ?」
「そんでもって、なんだって一日見なかっただけでケットシーからワイルドキャットに進化してんのよ!?」
俺が湖に戻って早々に二人は気絶してしまった。 何やら二人の様子がおかしかったのは何となくではあるけれど気が付いていたんだが……まさか気絶するとまでは想いもよらなかったな。
そして、その後1時間ほど放置したところ二人はほぼ同時に目を覚まし、こうして俺に詰め寄ってきているのだ。
話を聞くと、どうやら俺はワイルドキャットと呼ばれる魔物に進化したらしい。 その所為で体が大きくなったのだと知った時は妙に納得してしまった。
「まぁまぁ、落ち着いてよ二人とも」
「これが落ち着いておけるか!」
「そうよ! 私たちの緊張を返してよ!!」
なんでも俺があの場に現れた瞬間は二人ともマジで死んだと思ったらしい。 どうやら、この世界に居るワイルドキャットと呼ばれる魔物はかなり凶暴な性格をしているらしい。 しかも、それに実力も伴っているものだからタチが悪いとのことだ。
「まぁ、そんな事は今はどうでもよい。 それでギンよ、昨日はどこに行っておったのだ?」
話がだいぶ反れて行きそうだったのに気がついたルジーナさんは話を無理やり転換し、昨日の俺の行動を聞いてきた。
そう言えば、昨日のゴブリンの事とレンの事を話しておいた方がいいかもしれないな。
俺はルジーナさんの質問に答えるように昨日起きた事を簡単に説明した。 昨日、お腹を空かして森を彷徨っていたらゴブリン達を見つけた事、その時にレンと言う人間の子供を助けた事、そのまま人間の住む村まで言ってきた事。 帰りがけに寝て、眼を覚ましたら進化していた事。
俺は包み隠すことなく答えた。 それを聞いていた二人はなぜだかまたもや驚きの表情を浮かべた。 今の話で何か驚くような事を言ったか俺?
「ぎ、ギン……アンタ、人間と話せるの!?」
「妙な輩とは思っていたが……まさか人間と会話できる魔物がいるとはな」
「え……え? だって、普通に話していたよ?」
何だかおかしな話になってきたぞ。 今の二人の反応を聞いているとまるで魔物は人間と会話できないと言いたげな空気なんですが。
その後、人間と魔物の言語について俺は二人から説明を受けた。 曰く、基本的に魔物は人間の言葉を理解できないし、人間も魔物の言葉を理解できない。
獣人やエルフ、魔族などは会話が可能だが、基本的には魔物は無理とのことだ。 俺としてはこの世界にエルフとか魔族が居るという事実だけで驚きもんなんだがね。 それを踏まえたうえで俺は変な存在らしい。
「例外としてテイマーとファミリアは違うけれど……」
「コヤツらは会話ではなくテレパシーで対話を試みるのでな、例外中の例外だ」
「ふ~ん……まぁ、喋れて損は無いかな」
さて、人間と会話をできる事については満場一致でスルーを決め込んだ。 そして、進化については本人である俺がよくわかっていない事、ルジーナさん達が進化した事がないという点から『原因不明』とされた。
しかし、初めの寝て起きたら猫からケットシーになっていた事例と今回は少し似ているので、一晩経ったら進化するというのは何となく理解できた。 そして、レベルもある程度高いと進化する可能性が高いということもわかった。 ……もしかして、明日になったらまた進化しているんじゃないか?
「俺の方はこれ位かな。 正直訳の分かんない事だらけだが……まぁ許して。 そんで、昨日の話の続きだけれど俺はクリーヌについて行くの行かないの?」
さて、話題は昨日のクリーヌの『私のパートナーになってよ』発言に移るとしよう。
しかし、事態は俺が思っていた以上に進んでいたみたいで……
「お主と我、そしてこのクリで今からウルフ族の集落を治める者を倒しに行くぞ」
……なぜそのような物騒な話になったのかだけでも教えていただけると幸いですと思った俺は負け組みなのでしょうか。
ありがとうございました。
『Re:俺!?』はしばしお待ちくださいませ~
やっとこさ仕上げました。 中々タグにある擬人化まで辿り着けませんね……恐らくかなりかかりますので悪しからず。
さてさて、今後の話もだいぶ考えてはいます。そして、ギンはケットシーからワイルドキャットへと進化した~
今後も進化していく予定です。
ではでは、感想&ご意見は随時お待ちしております。 ぜひとも一言残してくださると作者のテンションも上がり指の速度が増すやもしれません。
それでは次回もお楽しみに~