自己からの渇望 夢の続き
プロローグ
⓪
'魔の世界戦'終戦をもって、あらゆる武力交渉は、並行宇宙の1つ'媒界'で、仮想的に行われた。
その仮想戦争は、軍事手段、'ステレオ武装'により行われる。
導入
昼休みが終わる。授業開始と同時に先生が言う。
「ヒュラ君は、仮想戦による疲労のため早退です」
ケラが一瞬マラルに目を向ける。
ケラは、手元のノートへ視線を落とし、ぼそっと独り言を述べる。
「バカじゃないの?いつも無利益な争いばっかりして」
*ケラのノート内容
ステレオ武装は、媒覚の酷使による疲労感が伴う。
仮想戦闘では、対立集団間における戦闘結果に対応した'媒覚の均衡変化'が伴う。
媒覚の均衡変化は、各種の感覚障害や空腹感を筆頭とした実体のない精神的苦痛をもたらす。
この苦痛は、メレピンの枯渇による感覚障害が原因の、一過性の病状とされる。
物心ついた頃から、ヒュラは1人だった。
人一倍、喧嘩が強く、度胸があったヒュラは、幾多の困難をも乗り越えてきた。
彼は、自分が将来、優秀な戦士になることを信じて疑わなかった。
成績もまた優秀だった。
中学校でステレオ訓練生になるまでは。
山場1
人の影が崖に並ぶ。そのうちの1つが、他の影を崖から突き落とした。
①ヒュラ
(なんて事をするんだ!)
ヒュラが不快感を覚えて何か問いただそうとする前に、彼は消えるように飛び降りた。
一瞬、ヒュラにはそれが、のっぺらぼうに見えた。
②ヒュラ「えっ」
状況が飲み込めずに辺りを見回したヒュラは、自分が1人だけである事に気付いた。
下を見ると、何もなかった。
それは、底も見えない雲の上の景色で、霧がかっていて、よくわからない。
ヒュラは崖から左足を踏み出していた。
朦朧としながら、自分の姿・形が、ヒュラ自身に染み渡ってくる感覚に、混乱していた。
③ヒュラ「僕は誰だ?」
④その瞬間、我に返ったヒュラは、生命の危機を直感して、立ち退こうとした。
気付けばなにもない空間に1人浮いていた。
辺り一面真っ黒で、何も見えず、何も感じなかった。
⑤ヒュラは、自分が顔を崩して笑っているのを感じた。
(何も感じない。というより、何も……思えない。
なぜ僕は笑う?
この感情は、快か不快………なのか?
感情って…なんだ…………?)
⑥第六感と媒覚などの知覚機能、ステートが強く機能しているようだった。
(これは…脳内? 恐怖みたいだ。
知りうる限りの感覚の波、感情の渦………。
何に対して? なぜ? どこへ向かって?)
ヒュラは、思いを無理やり言葉にしてみた。
⑦「なぜ僕は笑ってる? 僕………………?
誰だそれは?」
山場2
⑧「何を言ってる?俺が僕だろ?」
黒い影がうごめく。
その影は、ヒュラの前に、まるで鏡のように現れた。
⑨ヒュラ 「お前こそ何を……?」
ヒュラは目の前の自分に手を伸ばす。
母親らしき者が、ヒュラに首飾りをかける記憶。
途切れ途切れの記憶で、母親の顔や周囲の風景は曖昧。
⑩昔の[記憶が混じった幻覚]が現れる。
ヒュラ
「デジャブって、なんで起こるんだろう?」
ネラ
「何かを予期してるのかな?きっと、思い返すべき記憶が存在するんだよ」
ヒュラは納得する。「そうだな」
クラムス
「何か、心当たりのある経験は存在しないのか?」
クラムスを見て、何を言っていたのか、ヒュラは自覚していなかった。
「ネラとクラムスとの出会い?」
⑪ネラとクラムスの背景で、太陽が強烈な閃光を放つ。
[記憶が混じった幻覚]の世界は、崩壊するように消えていった。
幼い頃のヒュラが目隠しをされ、友達らしき者が、誰かに連れ去られる風景。
ヒュラが手を伸ばすも虚しく、足早に去っていく。
ヒュラは、その先を覚えていない。思い出せない。
⑫鏡のような偽物の影を前に、ヒュラは一瞬、ぼんやりとしていた。
それからふと、こう言ってみたのだった。
「そうだったのか。そうかもしれない」
目の前の自分が崩れていく。
引き
ヒュラが目を開ける。
⑭ヒュラは、なぜかどうしようもなく掴みどころのない解放感を覚えた。
ヒュラの右腕が異様な雰囲気を放つ。
「最後に僕は、何かしたような…。
いや、誰かに何かを言ったような………」
ヒュラは夢の一部を忘れていた。
ヒュラ
「なんか、この妙な感じは久しぶりだな。まるで、永遠に夢から醒めないようだ」
この時のヒュラは、まだ知らなかった。
彼の身に起きた異変の全貌を。
彼の理想をはばむ真の敵を。
彼が見た夢の真意を。
本当の悪意を。
怪しげな黒い人影が偽ヒュラになって笑い、バグのように消えた。
ウラニスの民が住む星の1つ、褐色矮星ウラニス7………。
褐色矮星は、惑星と太陽の中間的な天体で、いわば、太陽になり損ねた燃えない星。
自ら熱とエネルギーを放ち、ごく僅かな光を発する。
ヒュラの腹が鳴る。
「釣りでも行くか」




