7【Side】秘密の会議
学園長室にて。ライト=ファーゼントと学園長が二人だけで話し合いをしていた。
主にエフィナのことである。
「ライト殿下はどう思われました?」
「入学式前に学園長から聞かされていた印象とはまるで別人だと思った」
「ライト殿下もそう思われましたか」
学園長はひとまずホッとしていた。
王立学園最高責任者である学園長は元々は上位貴族の人間。今は子に爵位を譲り引退しているものの、王族との繋がりは深い。
そのため今回のような規格外なレベルを持った生徒に対しての誤った判断などは、特に許されることではなかったからだ。
「フォゲルダ公爵様曰く、エフィナは傲慢でワガママ、言うことを聞かなかった故に学力も秩序も欠けていると訴えておりました」
「少なくとも『傲慢でワガママで言うことを聞かない』という話には現状では違和感しかない。本当にそうならば、今頃学園は火の海と化していることだろう。それに……」
レベル測定をしたタイミングで我にひれ伏せだとか誇らしげにするだろうと、付け加えた。
だが二人の目から見ても、レベル測定した時はエフィナ自身が驚いているように見えたのである。
この時点で傲慢という印象は薄れた。
「私もそう思いました。さらに言えば、私らがエフィナ嬢のレベルを疑い続けた行為に対してなんのお咎めもなかった。本来ならば私も学園長という立場から追放されてもおかしくないことですので」
「それに例の三人の不祥事を捕らえたキッカケになったのもエフィナによるものだ。傲慢ならばこの功績をよこせと言っているはずだ。さらに助けた生徒からの見返りも一切求めようとしていなかった」
エフィナの母親であるフォゲルダ女公爵は、学園長に物申していた。
エフィナが問題児だから注意しておくようにと。
周りから見れば公爵令嬢とは思えないほどの行動や口調であるため、納得させる自信はあった。
それもそうなるようにわざと教育を疎かにしていたのだから。
だがエフィナは初日から学業以外のことで学園長やライトに好印象を無自覚に与えてしまった。そのため、二人はフォゲルダ公爵に若干の疑問を抱くようになる。
「卒業した姉のアンブレア嬢は学業も上位、秩序正しき生徒でした。フォゲルダ公爵様の国からの評価も高く……。従って現状ではエフィナ嬢が猫をかぶっている……という点も考えられなくはありません」
「別にフォゲルダ公爵を責めるつもりはないが、なぜもっと呪いに対して向き合おうとしなかったのかは謎だと思っている。レベルに関しても日常生活で気がつくはずだ」
「命令も聞かず日夜ダンジョンに潜り込んでいたのでしょう……」
「だがおかしいと思わないか? 指輪を全て経験値倍増もそうだが、なぜ誰もそれに気がつかなかったのかが。親なら普通止めるだろう」
ライトはすでに公爵とエフィナの関係にヒビがあるのではないかと疑っていた。
「とはいえ……フォゲルダ公爵様はエフィナ嬢を心配されているのでしょう。実際に入学式後の筆記テストは貴族界隈部門では最下位でしたので……」
「本当に興味深い者が入ってきたな」
ライトはむしろ歓迎モードであった。
今まで出会ってきた令嬢とは明らかに違う。
その上で最初に会話したのが人助けをしていた直後だった。
学園長の話も聞いたことで、エフィナに対してますます興味を持つようになったのである。
「機密情報ではあるが、ひとつ学園長にも報告しておきたい」
「は、はい。無論命をかけてでも極秘にいたします」
「エフィナにかけられていた呪いは王家に伝わる薬で消し去った」
それを聞いた学園長は大声で驚きそうになったが、手で口元を押さえなんとか食い止めた。
それほどとんでもない事実だからである。
「な、なんですと!? あれは元々王家の命を守るために極秘で用意しているとんでもない高級品ですよ! よろしかったのですか!?」
「俺に呪いをかけられなければ問題のない話だ」
「し、しかし! まさか国王陛下もこのことは知らないのですか?」
「ああ。俺の独断と偏見で決めたことだ」
「なんということを……」
それほど貴重で大事なものである。
長年王家とともにしてきた学園長だからこそ、ライトの行動には信じられなかったのだ。
命が関わっているならともかく、体型が変化していくというだけの呪いでは、仮に王家の者がかけられたとしても使うことはないからだ。
「俺も最初はエフィナのレベルを疑った。その償いとして、せめて彼女の悩んでいるであろうことに協力したまでだ」
「はあ……お言葉ですが、ライト殿下は相変わらず正直すぎます。黙っていれば知らなかったものを……」
「確かにそうだな。だが俺は彼女に対して少々興味をもってしまった。レベル測定をするときからな」
「規格外なレベルが測定されたからですか?」
ライトは即首を横に振った。
「いや、違う。規格外なレベルが判定された時の彼女の表情……。自分自身でも信じられないといった表情をしていただろう?」
「はい、それは確かに私もそう思いましたが」
「普通そんなに規格外なレベルならば自分でも日頃の生活で気がつくだろ。だがそれがなかった。どうやったら気が付かずに生活できるのか、どうやったらレベルが上がっていることに気が付かないのか、そういうところに興味がわいた」
学園長は再びため息をついた。
ライトの好奇心だけで貴重な回復薬を消費してしまうなど、やはり信じられなかったのである。
「正直なところ渡したことに後悔はしていない。むしろ話せば話すほどエフィナの魅力がよく知れてよかったと思っているくらいだ」
「左様ですか……。あの体型では敵も多いかと思われますが……」
「そもそも彼女は努力を続けていた。だがやはり呪いにはどんなにレベルが高くとも勝てない。それほど頑張っている者をお粗末に扱う方がどうかと思うが」
「は、はい。私含め反省し見方を変える所存でございます」
学園長はライトに深く頭を下げる。
ライトも納得したのち、『それはエフィナ本人に頭を下げるように』とだけ伝えた。
「ところで……俺から学園長にふたつほど頼みたいことがあるのだが」
「いくらライト殿下といえども、学園のルールに反するようなことはできませんが」
「ギリギリのところだろう。可能ならで構わない」
そう言ってライトは学園長にエフィナに関することで、とんでもないお願いをするのであった。
学園長は苦悩していた。




