4、ダイエット活動のための交渉
「す、すみませんでした。まさかレベルが本当だったなんて思わなくて……」
エフィナが渾身の思いで謝罪する。これには学園長も違和感が残った。
母親から聞いていた情報のエフィナとはまるで別人なのだから。
だが母親の情報が事実であれば、このまま歯向かえば殺されるかもしれない。
そう思った学園長はひたすらに謝罪する。
「いや、信じることができず試した私らに非がある。許してほしい……」
学園長がエフィナに対して頭を深く下げた。
エフィナへの恐怖もあるが、こんなにも優秀な逸材に対して無礼な行為をしたと知られれば、学園長の首も飛びかねない。
とにかく必死だった。
「私は別に……」
「本当にすまない。だが、なぜエフィナ殿は力に気がつかなかったのか、両親も知らないのか?」
「お父様はすでに他界しておりまして、お母様が公爵当主です。そのお母様とも普段は顔を合わせることもありませんでしたので……」
「左様か……。ならばどのような生活をしたら前人未到の域に達成できるのか知りたいのだが……」
エフィナはここで黙秘するのは悪手だと判断した。
本来であれば呪いを打ち破るために学園のダンジョンで頑張ろうと思っていた。
しかし、現状を見る限りではもしかしたら学園のダンジョンは普段潜っていたところと大差ないのではないのではないだろうか。
ダンジョンが無理だとしても、王立学園ならばきっとダイエットに関しての方法をきっと見つけられる。
ここで誤魔化して学園生活もおしまいになっては、このままでは主に痩せる願望が水の泡。
仕方なく全てを話すことにした。
全てはダイエットのために!
教師たち誰もが絶句する。
「ダンジョン内において左手の指につけられる特殊な指輪全てが経験値倍加……。本来誰もが身につけるであろう、瀕死時に自動で転送できる指輪すら身につけなかった……? しかも武器や防具は持たずダンジョン内へ潜る……?」
「帰還も転送陣を使わず自らの転送魔法で……どれだけの魔力を消費すると……」
「しかも五歳から潜っていてその目的が全てダイエット……。ダンジョンを運動用具として潜るとは……」
アンブレアからのダイエット方法はそのように教わっていた。エフィナはただそれを信じて実践していただけに過ぎない。
なお、アンブレアや母親が理由で太る呪いを受けていることは伏せていた。
公爵頭領が不祥事を起こせば、ダイエットができなくどころか国外追放もありえたためである。
「ゼムにリエルよ……ダンジョン中層を経験した二人に問う。左手五つの指全てに経験値増加の装備だけでダンジョンへ入れるか?」
筋肉教師ことゼムは、考える必要もなく首を横に振った。
「無理です。なぜならば、ダンジョン用の装備は特殊。一度装備してしまえば三年間は変更ができない。仮に最浅層であってもまれに集団でのモンスター出現や中層からの強力なモンスターが紛れ込むこともあります。いざというときの対策もないまま潜るのは自殺行為と言っても過言ではありませぬ……!」
「仮に集団での潜入が条件であれば可能かもしれません。ただ彼女の話を聞く限りではソロでの潜入。聞いているだけで怖ろしくもありますよ」
学園長が確認したのち、なぜ家族は止めようとしなかったのだと尋ねた。
この問いがエフィナが最も困るものだった。
「母親は私がダンジョンに潜っていること自体を知らなかったと思います。私個人でコッソリと……ダイエットをしたかったので……」
学園長が呆れながら大きくため息をつく。
散々考慮したのち、学園長はこう決断した。
「この件は今ここにいる者とライト第二王子殿下及び国王陛下以外への他言は厳禁とする。むろん、エフィナ殿の家族にも伝えてはならん」
「しかし、彼女の実力は本物。すぐにバレることでしょう」
「学園側のミスで高レベルの者が触れると誤作動を起こすということにしておこう。経験値倍加の指輪のみで潜っていたことは特に極秘だ。真似する者が増え、ダンジョン内での事故が増えてしまう」
黙っていることはエフィナ自身へも命じられる。
さらに、学園生活においては過度な力は使わないようにも忠告されたのだった。
「過去最高の記録は入学時に各レベル125。エフィナ殿にはすまないがそれぞれレベル130ということで頼みたい。当然ながら、ここにいるゼムとリエルに授業で勝ってしまうようなこともあってはならない。自重をしてもらいたいのだ」
活発な運動を控えろと言われているようなものだった。
ダイエット活動が全てのエフィナにとって、それだけは納得ができない。
「私、ダイエットをどうしても、どーしてもしたいのです! 運動の自重だけはできませんよ……」
「わ……わかった。なにか策を改めて考えさせてもらう。だが今は未来のためにも、やり過ぎないよう注意していただきたい」
エフィナは、学園長に対してこれ以上の無理強いはできなかった。
元はと言えば世間的には絶対にやらないであろう手段で毎日ダンジョンにこもっていたのだから。
なにか手段を考えてくれるという言葉を聞き、エフィナも従うことにした。




