2、入学式
王都中央エリアに位置し、広大に土地を使って建てられたのが王立学園。
貴族ならば誰もが強制的にニ年間通うことが義務。また、学力や魔力が優れている者は試験に合格すれば平民でも入学ができる。
エフィナは心底ワクワクしていた。
ニ年間は公爵の恥さらしで生活できるというじとは、面倒な貴族制度も気にせず好き勝手過ごすからである。
元々貴族教育も受けられなかった上、ダンジョンに潜るばかりの日々を送っていた。そのため貴族令嬢としては破天荒な生活をしていたのだ。
それが復讐へと繋がるのだから、怖いもの知らずである。
しかし、どうしても悩んでいることからは逃げられなかった。
「痩せたい……ダイエットの勉強がしたい……」
エフィナの推し、銀髪で金色の瞳をしたライト=ファーゼントも同年代のため同じクラスになる可能性もある。
だが、この体型のままでは話すことすらできないと思っていた。
案の定、入学式では誰からも声をかけられないうえ、避けられている。
エフィナは独りぼっちで着席した。
「ただいまより王立学園入学式及びクラス分けの適正検査を行う」
白髭を生やした学園長が、祭壇で挨拶を行った。
「一年生諸君には主に基礎身体能力や武道武力を学んでもらう。特殊な石板を使い能力を測りクラス分けとする」
王立学園や王宮、ギルドにしか存在しない石板。
ほとんどの生徒が王立学園で初めて自分の強さを知れるため、全員がワクワクしていた。
「石板によりステータスが数値化されるが、この王立学園で頑張れば卒業する頃には今のニ倍以上の数値にはなるであろう。国の防衛力が近年不足しているため、周囲の国や危険な外来種モンスターからも狙われ始めている。諸君らは特に頑張ってもらいたい」
ワクワクしながら石板に触れる生徒たち。
その結果を知り喜んでいる者や落ち込んでいる者など様々だ。
主に身体能力レベル魔力レベルが10から20の生徒が目立つ。
その中で飛び抜けて高いステータスを出した者がいた。
ライト=ファーゼント。
身体能力レベル91。
魔力レベル95。
安全な配慮を最優先しつつ様々な英才教育を受け、この日のために訓練をした結果である。
「さすが第二王子、素晴らしい。すでに王宮直属の騎士や魔導士になれる資格基準を突破されています」
ステータスを見て学園長が必要以上に褒めちぎる。
もちろん国に媚びるためだ。
しかし、ライト=ファーゼントは『左様ですか』と一言だけ残し、元の席に戻った。
(ああ……ファーゼントでんかあ……お顔だけでなくステータスもカッコよすぎるわあ……)
エフィナがとろけるような表情をしているものの、ライトには全く気がつかれることもなかった。
それもそのはず。エフィナだけではなく、生徒のほぼ全員がライトに注目していたからである。
しばらくするとエフィナの番になった。
周りの貴族たちは、エフィナの体型を見てクスクスと笑ったり、小声で悪口を言い合って楽しんでいたりする者が多い。
しかしエフィナが石板に触れた瞬間、状況は変わった。
エフィナ=フォゲルダ。
身体能力レベル944。
魔力レベル999以上。
特記、呪い。
誰よりも驚いていたのは、石板に手を触れたエフィナだった。
目を擦ってもう一度石板に浮かんだステータスを眺める。
変化はない。
「すまん、どうやら故障したようだ。予備の石板でもう一度計測してもらいたい」
学園長の指示により、新たに用意された石板にエフィナは触れる。
しかし、結果は先ほどと全く同じ数値が表示された。
「……ううむ……この国において最高レベルであらせられる国王陛下の専属護衛ですらレベル255。これはいったいどういうことだ。それにこの呪いとは……」
エフィナもレベルに関しては全く心当たりがないと思っていた。
ダンジョンに潜り深層まで進むのは、誰もがやっていることだと思い込んでいたのだから。
生徒たちもざわつき始めた。
「あのデブ、いったいどんな不正をしたんだ? 卑怯者が」
「目立ちたいからってバレバレの嘘を作ってなにが楽しいんだか」
「身体もまともに管理できねえ奴がこんなに強いわけねえだろ」
エフィナや学園長にも聞こえるほどのヤジが飛ぶ。
学園長は戸惑っていた。
石板にどのような細工をしたとしても不正などできるわけがない。
だが、貴族として恥だと言われても仕方のないような体型をした令嬢が異常なまでのレベルということも信じるには難しかった。
さらに、母親からのデマ情報も加わり、学園長は疑いの目から入った。
「静かにしたまえ……。ええ、こほん。ひとまず彼女は最高ランクAのクラスとする」
さらにどよめきが起こるが、学園長は強めの口調で黙るよう促した。
「学園始まって以来の異常な数値に私としても驚いている。だが、この数値が本当であれば史上最高の防衛力を手に入れたも同然。万が一なんらかの不正だとしたら、授業で結果が目に見えてくるだろう」
むしろ後者の意見が本音である。
建前として、もしもの場合を考え本当だった場合のことも付け加えた程度だ。
学園長はエフィナに対して疑いの目線を向けた。
だが、誰よりも困惑していたのがエフィナだった。
(ダイエットのために四六時中ダンジョンに潜っていただけなのに……。ステータスなんてどうでもいいから体重が下がって欲しいんだけど!!)
生徒たちはステータスを気にしているが、エフィナが気にしていたのは体重。
ブーイングが巻き起こる中、エフィナは恐るおそるライトに顔を向けてしまう。
ライトは無表情のままじっとエフィナを見ていたため、これが学園が始まってからは初の目線があった日となるのだった。
♢
案の定Aクラスではエフィナが独り孤立していた。
誰も話しかけようとはせず、むしろ警戒されている。
一方でライト=ファーゼントに人が集まっていた。
話は不正と疑っているエフィナの話で持ちきりだった。
「あの不正を王子としてどう裁くおつもりなのです?」
「由緒正しき王立学園でこのような卑怯行為。国外追放だけでは足りないでしょう?」
「同じ空気にいるだけで腹立たしいので、早く処分を」
大きくため息をつきながらひたすらに無言状態のライト。
同じ教室にいるのだから、エフィナにも当然聞こえていた。
楽しみにしていた学園生活が最悪のスタートとなってしまった。さらに憧れのライトにまで悪印象を与えることとなったと思い込んだエフィナは、不貞腐れて教室をひとまず出た。
それに気がついたライトは、ようやく口にする。
「用事がある。そこを通してくれないか?」
人だかりを面倒くさそうにしているが、それでも一向に変わる気配もない。
(レベル900超え……本当ならばどうやったらそれが成し遂げられるのか聞いてみたかったのだが)
その後もしばらくはライトの周りには生徒がごった返していた。




