16、エフィナ無双
訪れたのは前日と同じ階層。
だが、様子が違った。
「危ないですので離れないでください!」
「いきなりドラゴンの群れか。俺を気にせず無双する様を見せて欲しい」
「し、しかし……」
「俺なら問題ない」
エフィナとしては、いざとなったら帰還の指輪で逃げるから安心しろという認識だった。
ライトの言われるがまま、エフィナはドラゴンの群れに突っ込んでいく。
「武器を使わずに素手と足だけで闘うのか……。しかも動き方が派手。痩せようという意思が強いからなのか」
ライトはエフィナの動きを観察している。
途中でライトに向かっていくドラゴンもいたが、到着する前にエフィナの猛攻が襲う。
「推しを襲うやつぶっとばす!」
アドレナリンが放出されているため、エフィナの気性が異常に荒くなる。
ライトに襲いかかったドラゴンはエフィナの激しい運動によって粉々になった。
それを見たドラゴンは恐怖のあまり逃げようとした。
だがエフィナは容赦なく追いかけては倒していく。そしてエフィナの自称運動が終わった。
「ふう〜っ。いい汗かきました!」
爽快な気分でライトの元へと戻る。
ライトは驚きながらもささやかな拍手をおくった。
「素晴らしかった。目で追いかけられないほどの動き、勇ましさ。そして……楽しそうに闘うのだな」
「そうですか? 真剣になってると無我夢中になってしまうだけですよ」
「そういうところが好……素晴らしいと思う」
エフィナはダンジョンでの運動を褒められることが特に嬉しかった。
「これだけのドラゴンの数だ。回収するにしても何度も往復しなければならないな」
「え? こんなに持って帰るんですか?」
「そうしないとこの層が大変なことになってしまうではないか」
「はい?」
エフィナの反応を見たライトは、今まで誰にも見せなかったような焦りを見せた。
「まさか……今までダンジョンで倒してきたモンスターはどうした……?」
「え……自分で食べる分と非常食分以外は放置していましたが」
「なっ!?」
「だって、ダンジョンで倒したモンスターって翌日になったら消えているじゃないですか」
「ああそうだ……」
「ダメだったのですか?」
ライトはやれやれとため息をついていた。
「エフィナのレベルが高い理由がわかってきた気がする……」
「え?」
「エフィナ……覚えておいてほしいことが二つほどある」
ライトの真剣さに対して、エフィナはしっかりと聞く体制になった。
真顔で見つめられ、ライトの頬がじんわりと赤くなる。
「まずダンジョン内は特殊な空間だ。生き絶えたモンスターは、新たなモンスターの誕生への養分となる。ゆえにこのように放置していたら数時間で溶けていく」
「初めて知りました」
「エフィナが通っていたダンジョン、やたらとモンスターが多いんじゃないのか?」
「ですね……。こんな呑気に会話している暇なんてなかったですよ」
「だろうな……仮にこのドラゴンを放置しておけば、明日には倍以上の数に増えていることだろう。そしてそれをエフィナが全滅させて放置したらまたもや倍……永遠に倍加するぞ」
「だからスライムばっかりのダンジョンになっちゃったんですね。スライムだけは気持ち悪くて一切ストレージに入れませんでしたから」
スライムに関しては本当に戦いたくない相手のため、倒すにしても最小限にしていた。
だが、日に日に数が増えていき、逃げ回れなくなってしまっていた分は倒していたのである。
その結果、浅層においてはスライムまみれのダンジョンになっているのだ。
「二つ目だ。食用だけでなく幅広い使い方があるんだ。指輪や武器などの素材としても使え、特にドラゴンだなんて本来ベテランが集団で行動して犠牲を出しながらようやく倒せる存在。ゆえに希少価値が極めて高い」
「と……いうことは今散らばっているドラゴンを全部回収したら……」
「平民であれば一生かけて働いても手に入らないほどの金額になる」
エフィナはそれを聞いて慌てて全部収納した。
ライトが再び驚く。
「レベルが高いと、これだけの量をいっぺんに収納できてしまうのか!」
「よかったあぁぁぁあ! これでダイエットグッズと健康食品が買える……! 教えてくださりありがとうございます!!」
「本当に痩せることへの執念がすごい」
エフィナにとって痩せることがなによりも最優先事項である。
余すことなく全てのお金をダイエット関連に使おうと企んでいた。
「ついでにもう一つ教えておこうか」
「ぜひ!」
エフィナのワクワクしながら聞こうとする姿勢も、ライトにとってはとても嬉しいことだった。
「エフィナならすぐにできるようになるだろう。素材をより高く売るためには、倒し方に注意する必要がある。骨や爪を傷つけないようにするとか、欲を言えばなるべく本体の損傷が少ない方がいい」
「覚えておきます。……でも私にはできないですね」
「そうなのか?」
「だって、それじゃあ思いっきり運動ができないじゃないですか。ファーゼント殿下のおかげで呪いを消してくれた。だからこそ、より激しく動きたいんです! モンスターの状態なんか気にしていられません!」
不意にライトはクスクスと笑った。
たとえお金になるとしても、信念が揺るがない。
自分のやっていきたいことをハッキリと言える性格にも心を打たれていた。
「俺はもうダメかもしれんな」
「え!? 申し訳ございません! でもこればっかりはたとえファーゼント殿下のアドバイスであったとしても……」
「いや、そのことではない。俺の気持ちが……な」
「それってどういう……」
「今は話せない。俺ももっとレベルをあげてからでないとな」
エフィナはそうですかと一言だけで、それ以上は聞こうとしなかった。
「あ!!」
「どうした?」
「ひとつだけお願いしたいことがありまして……」
「なんだ?」
エフィナは申し訳なさそうにしながらも、今後のことを考え伝えることにした。
「私が通っていたダンジョン……一層からしばらくはとんでもない数のスライムがいまして……。全部倒すのでストレージに回収してほしいんです!」
「俺がか?」
「あ、やっぱ王子に対してこんなこと言っちゃうのはまずかったですか?」
「いや、そんなことはない。エフィナならばなんでも言ってくれて構わないんだ」
「え?」
むしろ頼ってほしい、なんでも言ってほしい、それほどエフィナのことを好きになってしまっていたのだ。
だがライト自ら気持ちを打ちあけることはできないでいた。
国の権力には逆らえない。
だからこそ、今一緒にいる時間を大事にしようと思っていたのである。
「俺が聞きたいのはそういうことではない。ストレージに収納するということは俺の所有権になってしまうのだぞ。スライムも貴重な資源だ」
「いいんです。ダンジョン内のスライムが少なくなってくれさえすれば、運動しやすくなりますからね。それにどうしてもスライムだけは気持ち悪くて、ストレージに収納するのも抵抗が……」
「わかった……。だが、回収するスライムが途方もない量だと想定できる。何度かに分けての回収になるであろう」
「はい。ありがとうございます!」
このときのエフィナは知らなかった。
ライトをスライム退治に付き合わせることで、二人の運命が変わることを。




