10、ダンジョンの転移門
エフィナはゼムに対し、ダンジョンの視察をしても良いかと尋ねた。
生徒たちはバカにしていたが、ゼムはあっさりと許可を出した。
ライトを確実に守ってもらいたいという趣旨もあるため、エフィナが視察するのはむしろ好都合だったのである。
エフィナは放課後るんるん気分でダンジョンが存在している王立学園地下へと移動した。
エフィナが今まで使っていたダンジョンと見た目は同じであるものの、雰囲気がまるで違う。
これは痩せるかもしれないと期待せずにはいられなかった。
エフィナは一人の男を発見し、足が止まった。
「あれ? ファーゼント殿下?」
「ふ……待っていたぞ」
エフィナは違和感を覚えつつも近寄る。
銀髪と金色の瞳を見ても、なぜかいつものドキドキ感がなかったのである。
だが、新たに挑むダンジョンへの期待がすさまじいため、推しへの感情が二の次になってしまったのだろうと思って気にしなかった。
「まさかファーゼント殿下も一緒に視察されるのですか?」
「そうだ」
「あれ? でも放課後は王子としての国務があって忙しいのでは?」
エフィナはなるべく一人で潜入したかった。
ダイエット作業はあまり他人に見られたくなかったし、推しには特にである。
そのため、なんとかして引いてもらおうとわざと一緒に行くのが嫌な表情さえした。
しかし引かない。
「ダンジョンへ入るんだろ? エフィナを護るためだよ」
「は!?」
「なにかおかしいことでも?」
「い、いえ。別に」
いくら推しだとしても、自分の立場を考えてもらいたかったのである。
ライトはエフィナの本当のレベルを知っているはずだ。
それにも関わらず軽々しく護るだなんて言ってもらいたくはなかった。
それどころか、早く入ろうと言わんばかりにエフィナの手を引っ張る。
普段のエフィナならばライトと手を触れたことで大喜びのはずだが、それすらなかったのである。
「ダンジョン経験があるのだろう? どのあたりまで潜っていた?」
「私が入っていたダンジョンとここでは仕組みが違うかと思うのですが」
「ああ、たしかに。では聞き方を変えようか。どの程度のモンスターを倒してきた?」
「最近だと……ドラゴン?」
「へ!?」
普段見せないような表情をしている。エフィナはいつもとなにかがおかしいなと思いながらではあるが、会話を続けた。
「ドラゴン相手だと、結構良い運動になるんですよ」
「ちょっと待て。ドラゴンはダンジョン内で特に強く、相当深くまで潜らないと現れることもない。ベテランがチームを組んでようやく挑みに行ける相手でしょ」
「たしかに行ったり来たりするのは面倒ですよね」
エフィナに対してひとつの疑問が生じた。
決して知らないはずはないと思いつつも、念のために確認をする。
「エリアごとに存在している転移門は?」
「てんいもん?」
「知らないのか?」
「なんですそれ?」
エフィナに対して本気のため息をついた。
転移門を知らないということは使わなかったということ。
それでドラゴン討伐までしてしまうのだから呆れていた。
「基本的にダンジョンには各エリアの必ずどこかしらに一箇所転移門というものが存在しているんだ。自らが訪れたことのある最も深い層まで自由に行き来ができる」
「そんな便利なものがあったんですね!」
「使わないでドラゴンのところまでって……ありえない」
ライトはこんな口調だったっけと、エフィナの頭にはハテナマークが浮かんでいる。
「いや、すまない。今回のように共にパーティーを組んでいれば、俺も転移門でエフィナが潜った深層まで行くことが可能だ」
「ふうん」
「俺は見てみたい。エフィナがドラゴンを倒している姿を」
「あ……はい……ですが、このダンジョンは初めてですから転移門は使えないんじゃ?」
「大丈夫だ。どのダンジョンでも踏破経験があればそこまでならば何故か転移できるそうだ」
「そうですか……」
今転移することに対してもエフィナは後ろ向きな態度である。だが嫌だとは言えなかった。
ダイエットに奮闘している姿を推しに見られるのは恥ずかしいのだ。
複雑な心境のまま、転移門がある場所へと案内された。
「最初の層はどのダンジョンでも決まってこの位置にあるんだ」
「ああ、これがそうなんですね。私が入っていたダンジョンで他の層で何度も見つけたことがありましたよ」
「使い方もシンプルだ。この円形に描かれた転移門に入り、行きたい層を強く願う。魔力を少々消費するがそれだけで移動が可能なんだ」
「全く知りませんでした」
「早速だが最も深いところまで連れていってほしい」
「え、いきなりです?」
「俺なら大丈夫だ」
「……わかりました」
エフィナは初めての転移門に感動していた。
(めんどくさかった移動が一瞬でできるなんて、なんて便利なんだろう)




