旅立ち、はあるある
地図を拝借してから、自分はどこに行こうかずっと考えていた。
魔物である以上、冒険者のような存在に狩られるのはごめんだ。
東の帝国は論外。南西のロタク王国もありだけど、なんか惹かれない。
「鑑定」で国の特性もある程度把握できるので、自分にとって身の危険がある国の近くを通ることは回避できそう。
地図をよく見ていたら、帝国のさらに東にそこそこ大きながあった。「鑑定」によれば「ルッタ王国」とのこと。
【ルッタ王国】
長い間チェザニル帝国と戦争を行っていた国。
帝国と同様人間至上主義ゆえに、亜人の待遇は悪い。
現在は帝国に負けたため属国となっているが、戦争があまりにも激しかったためその跡がそのまま残る。
廃墟や残骸が多い。
人が居ないなら好都合だ。
まずは人がいないところから見ていきたい。
このデカさじゃ、敵意がなくても人間をビビらせるし。
いつ出立しようか。念の為アイテムボックスには獲物を多く入れて旅立ちたい。
そのためには狩りの回数を増やさないと。
・・・・・
私が暇さえあれば地図を眺めている様子を、群れの仲間たちは気にしていたらしい。
「気になるなら行けばいい」と言わんばかりの空気を感じる。
多分私が通常個体とは異なることを分かった上で「大丈夫だ」と思ってくれているのだろう。
数年、森で暮らした私はもう立派な成鳥だ。
これを機に、独り立ちしてもいいかもしれない。
鑑定やステータスを見る限りそこそこ強いはず。
群れのみんなで人里にふらりと現れては、馬鹿騒ぎをして街を荒らすのにはドン引きだったが、なんだかんだで同族には優しいハルピュイア。
体が大きくて、かぎ爪を持つハルピュイアの私を迫害したりいじめたりしなかったのは、そんなところがあるからだろう。
人間に迷惑をかけるのはごめんだが、私はこの群れが好きだ。
だからここから離れるのが惜しい。
それでも私はこの世界を見たい。
隣で獲物を食べていた母に向き直った。
明け方。
母にだけ伝えて離れるつもりだったが、いつのまにか群れ全体に伝わっていたらしい。
森の入り口付近で母との別れを惜しんでいると、いつのまにか群れの仲間全員がいた。
ぎゃあぎゃあと鳴きながらも、その顔は寂しそうだ。
朝日が完全に顔を出した頃。
私はシェイオ大森林の東に向かって飛び立った。
目的地は帝国の向こう側にある国、「ルッタ王国」だ。
別れを告げて、大きな翼で羽ばたけば高度は上がっていく。
地上から見つからないように雲に紛れて飛ぶことにしたのだ。
朝焼けの空から青色に変わるほどの時間を飛び続けていれば、帝国中心部の空だ。
ハルピュイアは鳥の魔物ゆえにとても視力がいい。キロ単位の高さのはずなのに鮮明に見える。
圧倒的な軍事国家だ。塀というべきか、城壁の数がすごい。こりゃ確かに大国。
これで人間至上主義なんだからなぁ…。
種族間のいざこざとか事情はよく分からないが、仲良く生活してほしい。そこに魔物が入っているかは別だけど。
しばらく飛べば、帝国の上空を通過して、どこの国にも属さない平原に出た。
この平原は国家間の輸送や移動で使われる道路のようだ。点々と馬車のようなものがある。
街道からそこそこ離れた平原へ降り立つ。
平原ゆえに、自分が乗っても大丈夫そうな頑丈な木は見つけられなかったが、近くに泉がある。
休憩をしよう。
水を飲んで寝転がる。
鳥の体で寝転がるとマヌケな姿になるのはご愛嬌だ。
森は常に薄暗くて霧が立ち込めていた。そんな風景とは正反対の明るい、平穏そのものだ。
柔らかな風が体を撫でる。
しばらく横になっていると眠くなってきたが、遮蔽物がない環境で寝るのはまずい。いつ敵に襲われるかが分からないからだ。
眠気に耐えて、翼を広げて飛び立った。
ルッタ王国まで、目と鼻の先だった。
・・・・・
帝国で貸し出し奴隷としてレンガを運ばされたり、街道整備やらで酷使された数年。
ひ弱な体は過酷な環境で死ぬことはなかった。
背が伸びて、筋肉がついた。それでも貧相に見えるのは自分が奴隷だからだろう。
そして珍しく、「禍の子」としてすぐに売り払われることはなかった。
その代わり、工事用の道具の代わりに剣が渡された。
なんでも戦争をするらしい。
帝国は年がら年中どこぞの国と小競り合いをしているが、奴隷まで軍人として使うのは流石に笑いが込み上げる。
帝国の連中は「国のため」などと言っているが、軍人ではなく、使い捨ての駒以下の扱いをするつもりだろう。
戦場に送られれば地獄だった。
まともな装備無く、無駄死にしていく奴隷。
爆撃の魔法でなすすべなく散っていく。
散々「死んだ方がマシだ」と思っていたが、戦場で死ぬのはごめんだ。
だから死ぬ気で剣を振るった。剣術の心得がないが自分が生き残るために。
そして、戦場で過ごしていたある日、爆撃魔法で爆破した破片がちょうど首輪に当たった。
自分を奴隷として、貸し出し奴隷として拘束し続けていた首輪が壊れたのだ。
帝国はこの首輪で奴隷を管理するが、かなり杜撰だ。
家畜以下なのだから管理する必要を微塵も感じていないのだ。
それに加えて、数多の奴隷が投下されている戦場は、その生き死にを一々把握して管理するわけがない。
首輪が壊れたことで、自由の身になった。奴隷の紋は消えないがそんなことはどうでもいい。
そこからは無我夢中で戦場をかけ、眼前のモノを切り続け逃げた。
帝国が戦場にしたルッタ王国のとある市街地。
激戦だったゆえに、人っこ一人見当たらず、それどころか死体が転がっている様だ。
家の残骸をひっくり返して食物を貪り、井戸の水を飲んだ。
奴隷の人生の中で一番美味しかった。
腹にたらふく入れた後、冷静になった頭で考える。
ここからどうするべきか。
残骸の街で、大きなハルピュイアと出会う数日前のことだった。
・ルッタ王国
チェザニル帝国と同様大森林の東側に位置する国。帝国と同様人間至上主義を掲げる。それゆえに帝国との折り合いが悪く、長らく戦争を続けていたが、王国側が負けたことで属国となる。市街地のほとんどが戦場となった為、国としての機能は名前だけとなった、廃墟と死体が広がる不毛の土地。
・平原
チェザニル帝国とルッタ王国の間に広がる長閑な平原。他の国へ行くための街道が整備されている。それゆえにここを戦場にすることは禁止されている。




