奴隷
奴隷の話。ちょっときついかもです。
帝国によって競り落とされた奴隷は、帝国につくとまず心臓部に焼印を施される。
その焼印は帝国の紋が刻めれている。
魔術的な要素は何一つないただの焼印であるが、それが奴隷たちにとって最も惨めな気持ちにさせる。
仮に帝国の奴隷という身分から脱しても、胸の焼印は重度のやけどとなり、中級以下のポーションや生半可な回復魔法では治すことはできない。
そもそも帝国の奴隷となった以上、その身分から脱することはできないが。
そうして焼印を施された奴隷はその後、帝国内で再び競りにかけられる。
そうして一個人、もしくは組織の所有物となり帝国での生活が始まる。
家畜のように貨物の馬車で運ばれる奴隷の中に少年がいた。
長く伸びた耳、褐色の肌。黒い髪は中途半端な長さで不揃いに切り揃えられている。紫の瞳は生気がなく虚ろだ。
それはダークエルフの少年であった。
ダークエルフはエルフの間からごく稀に生まれる存在だ。
生まれつき魔力が高く身体能力に優れるが、そもそもの存在が希少ゆえに、「禍の子」として存在を否定されやすい。
「禍の子」というのはあくまでも伝承でしかなく、根拠は存在しない。
「普通」の国ならばすでにダークエルフへの偏見はすでに存在しない。
それほどまでに古い伝承なのだ。
それでも「伝承」に固執する、盾にして差別をする者は多い。特に懐古主義、伝統を尊重する国では特に顕著だ。
少年もその「伝承」に固執する国の、「伝承」に固執する両親から生まれた。
教会に預けるわけでも遠くの親戚に預けるわけでもなく、ある程度育った頃に少年を「奴隷」という身分に落とした。それが何よりの証明であった。
馬車の中では、焼印を施されて痛みに呻く者、帝国に買われ絶望の涙を流す者、三者三様の絶望が満ちる馬車の中でその少年は不自然なほどに落ち着いていた。
涙どころか瞳の揺らぎ一つない。
それもそのはずで、少年は奴隷としてその年で何度も売りに出されては買われるのを繰り返していた。
買った先の主人の家で次々と不幸が起こり、気味悪がった主人の親戚や関係者がまた奴隷商へ売りに出す。
おかげで奴隷市場の者からも顔を覚えられる始末。
おかげで競りりでの売り文句は「禍の子」となった。
もはやただのおとぎ話でしかないその呼び名を面白がった者が競りり落とし、不幸に見舞われる。そしてまた奴隷商に売られる。
幾度も繰り返せば希望は見出せなくなる。
今回の競りでも「禍の子」として売りに出された。また物好きが格安で競りり落とすだろうと考えていた。
しかし運が悪かった。
今回は帝国の人間がいたのだ。
東の帝国、チェザニル帝国での奴隷の扱いは一際酷いと聞く。
競りに出されたほとんどの奴隷を、その資金力を持って競り落とした。その様子は競りというより買い占めに近いものだった。
そうして買われた奴隷の中には当然、少年が含まれていた。
・・・・・
帝国内での競りを得て買われた場所は、帝国内にある「貸し出し奴隷」の店だった。
「貸し出し奴隷」とは、依頼者の条件に当てはまる奴隷を貸し出す商売のことだ。
奴隷を買うほどではないが、人手が欲しいという時に利用される帝国独特のシステム。
手頃な値段でさまざまな奴隷をさまざまな用途で使うことができる。
仮に酷使して死んでしまっても違約金を払うだけで済む。
帝国の民にとっては、娼館と並ぶ娯楽の一つだ。
自信満々に自分を買った男が言っていた。
そんなことはどうでも良かった。
自分はそこでいろんな「人」よって借り出された。
ある時は、自分の美貌を引き立たせるためのアクセサリー。
ある時は、魔力を供給するための装置。
ある時は、慰み者。
ある時は、芸を仕込まれて人前で披露する。
ある時は、犬のように四つん這いで過ごした。
ある時は、憂さ晴らしのために、振るわれる拳と足をただひたすらに耐えた。
ある時は、貴族の狩りの「獲物」として山を駆け回り、矢を背中に受けた。
ある時は、
ある時は、
ある時は、
ある時は、
ある時は、
ある時は、を何百も繰り返した。
これだけ酷使されても死なない自分は運がいいのか悪いのか。
傷を受けても、魔力の高いおかげでかなり早く傷が癒える。
魔法や身体能力にものを合わせて、使って脱出しようにも、貸し出し奴隷のところでつけられた首輪から電撃が発せられる。その電撃は死に至る。
そうやって死んだ奴隷は何人も見た。電撃をくらって体中の穴という穴から体液を垂れ流して息絶えるのだ。
目の前でそうやって死なれたら試す気にもなれない。
首輪のセンサーに引っかからないほどの微力な魔力で、指と指の間に静電気を出す。
ある人物に貸し出された時に、面白がって魔法の使い方を仕込まれた。
なんの役にも立たないと思っていたが、貸し出されない時に入れられる牢の中の暇つぶしになる。
指の間に走る静電気を、小さな火、小指の先程度の土クレ、かすかな風、ぼんやりと灯る光、薄暗い闇へと変えていく。
人間への、自分を奴隷へと落とした同族たるエルフへの憎悪が止まらない。
この褐色の肌でなければどれだけいいことか。
自分は必ずここから、奴隷の身分から脱する。
そして魔法を学ぶ。魔法を使って生活をする。冒険者がいい。復讐もいいが、やはり自由に生きるのがいい。
もう何者にも縛られるものか。
そのためには何がなんでも「貸し出し奴隷」であるこの首輪を外さなくては。
どうすればいいか見当もつかないが。
そういえば、この間貸し出された先の主人が「戦争をする」といっていた。年中周辺の国と小競りり合いをしている帝国だが、今回の戦争はかなり大規模らしい。
戦争に借り出されれば、戦争の混乱に乗じて逃げ出せるかもしれない。
そんな考えが頭をよぎった。
その瞬間に手を止めていた罰として、背中に鞭を打たれたのを思い出して背中が痛んだ。




