第7話:ダチ共とハンバーグ
そして翌日。アッシュは海へ、アタシは家で情報収集。
っていうかアタシにはそれくらいしかできない。
『破片』や敵対組織の詳細をアッシュや女神に聞き、それっぽい情報がないかネットやSNSを見て回る。
『破片』の方はどうだか分からないが、聞いた限り敵対組織は変なヤツらばっかりだ。それならどこかしらにアップされてんじゃないか。
いや、別にアタシだってそんなもん見たくはない。見たくはないが、なにか成果を上げなければあの女神に煽られっぱなしなのが腹立つ。
なので、ネットを漁るのと同時に、「ヒマ。面白いこと・変わったこと急募」とか言ってダチ共にそれとな~くチャットしてみる。美湖は当然除く。
とはいうものの、ダチ共にはあまり有益な情報は期待していない。『世界樹の破片』がどうとか、異世界の変態組織がこうとか、詳しく説明できないからだ。
そんなわけで、返ってくるのは下らない話ばかり。
最たるものは、普段は真面目な美湖が最近学校をサボり気味だということ。
……本当に下らない。どうせアタシの忠告も無視して、あの怪しい男と遊び回っているんだろう。
その間もダチ共、有陽・弓果・詩緒・望水は言いたい放題を続けている。
有陽:『まさかミコが真っ先に彼氏つくるとはね~』
望水:『想定外……』
詩緒:『ココア、ミコ取られたw』
弓果:『ココア氏の心中はいかほど』
心愛:「どーでもいい」
望水:『……嫉妬?』
詩緒:『www』
有陽:『ココアとミコ、幼稚園からだもんね~』
心愛:「そんなんじゃねえ」
望水:『と、言いつつも……』
弓果:『美湖はアタシの嫁』
詩緒:『美アタ嫁w』
望水:『MAY……』
詩緒:『M・A・Y!! ww』
望水:『MAYからのNTR……』
弓果:『ココア氏「アタシの方が先に好きだったのに!」』
有陽:『NTRってなに?』
望水:『心愛の新たな境地のこと……』
心愛:「マジでシバくぞ」
有陽:『ねえ、NTRってなに~?』
……はあ。
別に嫉妬しているわけじゃない。
アタシがイラついてるのは、彼氏作って遊び回ってるってのが、美湖にとって『逃げ』だからだ。
アイツは今、逃げている。自分の家族から。
美湖には姉貴がいる。小さい時からすげえ頭のいい姉貴が。今は東京の有名大学の、しかも法学部とかに行っているらしい。
アタシなんかは「あ~、頭の出来が違うんだろうな~」くらいにしか思っていないが、美湖はどうにも、自分もそうならなければいけないと思っているっぽい。
実際、美湖の両親は、美湖にも期待していた。
でも美湖は、学業・スポーツ・習い事、どれにおいても飛び抜けて優秀なわけではなかった。
そして美湖の両親は、そんな美湖に失望したらしい。それが美湖には辛かった。
アタシも何度も相談に乗ったし、励ましたつもりだ。「そんな勝手な期待に応えてやることない」くらいは言ってやった。
しかし、この後の美湖が取った行動はさっきも言ったとおりだ。
両親と話すでもなく、ケンカするでもなく、ナンパで出会ったらしい古田とかいうチャラ男とフラフラしてるだけ。
明らかによくない。ただの現実逃避だ。
だから一度、ガッツリと文句言ったやったら、
「ありのままの私を受け入れてくれるのは古田さんだけ!」
「ココちゃんには、私の気持ちなんて分からないよ!」
……だってさ!
幼稚園の時からつるんできてんのに、気持ちが分からないわけねーだろうがボケ。
そんなやり取りを繰り返してたら、とうとう何しても無視するようになりやがった。
アタシだけじゃなく、ダチ連中全員に対してもだ。
『私は全てを【スルー】する』……ってか? あのドアホ。
もう知らん。
アタシはスマホをテーブルに投げだして目を閉じた。
× × ×
夕方、アタシは買い出しに出ていた。
イラついていた気分を料理で紛らわそうとしたのに材料がなかったからだ。
今晩はアタシの怒りをぶちまけた牛挽肉のハンバーグにするつもり。今手にぶら下げているのはそのための生け贄だ(ちゃんと肉屋で買ったやつだからな)。
ククク、この哀れな肉塊をどう料理してやろうか。なんて言葉通りなことを考えながら駅前を歩いていたら――
「あー、ココアちゃんだー」
「野生のMAYが飛び出してきた……」
……さっきチャットしてたダチ共とはち合わせた。っていうかだれがMAYだ。
「はは! ココア、マジでぼっちだな!」
言動、髪型、服装、全てがザツな海老原詩緒。
「もー、そんなこと言っちゃダメだよー」
雰囲気がゆるい、そして動作が遅い三空有陽。
「しかし、ココア氏が傷心なのも事実なようですな。ぬふふ」
『にちゃあ……』と陰湿な笑い方をするメカクレ女子、市門弓果。そして、
「今は、二人の試練の時。私たちは、見守りましょう……」
すました顔でよく分からんことを言う、日本人形みたいな黒髪の柿沼望水。
コイツらは、どうもアタシが美湖のことを心配している、ということにしたいらしい。
「だから、美湖のことなんてもう知らねーって言ってんだろが」
我ながら無愛想に答えるアタシ。いい加減このやりとりもダルい。
「そーんなこと言っちゃってさー。ホントは心配なんだろ? ん?」
肘でアタシをちょんちょんつつきながら、ウザ絡みしてくる詩緒。
「してねーっつってんだろ。潰してハンバーグの具にするぞボケ」
アタシが高校をサボり出す前は、毎日の様にこんな感じでダベってた。
アタシ・詩緒・弓果あたりがケンカし出すと、決まって美湖のやつが止めようとして……、
って、ヤメだヤメ。もうあんなヤツのことなんか気にすんな。そうアタシが気持ちを切り替えようとして――
「ところでさー、NTRって、結局なんなのー?」
「「「「…………」」」」
ピュアな有陽の質問で会話が途切れたときだ。
「やや、ココアさん!」
「んぁ?」
海へ探索に出ているはずのアッシュが、道の向こうから手を振ってやってきた。
途端に固まるダチ共。
まあ、アッシュのヤツは見た目はイケメン外国人だからな。見た目は。
「や、お買い物中でしたか!」
「ああ。晩メシのための買い出し」
「晩ご飯ですか! 献立はなんですか!?」
「ハンバーグ……じゃ分かんねえか。まあ、肉団子だよ」
「おお! いいですね、楽しみです!」
なんて会話をしてしまったアタシとアッシュ。
……うかつにもほどがあった。
「ちょ、待て! 待て! 待て!! お前ら、どんな関係なんだ!?」
「彼氏!? ココアちゃん、彼氏!? しかもイケメン外国人!?」
「ほう……ココア氏ってば、やりますなあ」
「どの国にも『需要』というのはあるのですね……」
一斉に食いつくダチ共。アカン。
あと望水、『需要』ってどういうことだオイ。
「いや、違う! こいつは、その……親父の遠い親戚で、今ちょっと、えっと、フ、フランスから留学中で……」
「ちょっと留学中で!? ちょっと同じ家に住むことになって!? ちょっとジュテームでモナムールなのか!?」
「というか、今ココア氏のご両親は海外赴任中では?」
詩緒のテンションに弓果が油を注ぐ。
コイツ、余計なことを……!
「じゃあ、それって……!」
アタシとアッシュを見比べ、いよいよ顔を赤くし始める有陽。
「お、お、お赤飯とか用意した方がいいの!? あとはご祝儀!? ノゾミちゃん、どのくらい包むのが相場なのかな!?」
「ええと、確か一般的には……」
完全にいらんことまで考え出す有陽と望水。
「うるっせえよアホ共! そんなんじゃねえっつってんだろ!! そんで、アッシュ!」
騒ぎ立てるダチ共を一喝し、強引に話を変えようとするアタシ。
「お前、今日は海で『仕事』だっつってたろ!? 何してんだこんなところで!?」
すると、今までぽかーんと話を聞いていただけだったアッシュが、急にキリッとした顔になった。
「はい。実は、ココアさんにどうしても話したいことがあって、探していました」
「お、おう。何だよ」
なんだかいつもと雰囲気の違う真面目なアッシュに、おもわずたじろぐアタシ。
「……」
「……」
いつも思ったことをすぐさま口にするアッシュには珍しく、時折アタシから目を逸らしたりして、なかなか続きを言わない。
空が茜色に染まりつつあるなか、向き合って立つアタシとアッシュ。
……なんか、こんなシーンをアニメとかで見たことある。まあ、ここ駅前広場のど真ん中だけど。
そして、
「「「「…………」」」」
ダチ共はそっと距離をとりつつこちらを凝視している。
……まさかコイツら、アタシとアッシュにそういう展開を期待しているんじゃないだろうな。アホくさ。
しかし、アッシュの言うことときたら、
「ココアさん、自分に付き合ってください! 自分にはココアさんが必要なのです!!」
「はァ!!!???」
全く自分のキャラと違うことを言い出した!
え、マジで!? 今までそんな空気、微塵でもあったっけ?
……ん? でもちょっと待て。今コイツ、「自分『に』付き合ってくれ」って言った?
アッシュの言葉の意味が分かりかねているアタシ。しかしダチ共は大騒ぎだ。
「おい、ココアてめえ! やっぱりそういうことなんじゃねえか!」
「やっぱりお赤飯なの!? ご祝儀なの!?」
「ぬふふ。良いものを見た」
「需要ね……」
すっかりいらない誤解をしている。
「あー、うっせえ! そういうんじゃねえってば! おいアッシュ、こっち来い!!」
「や、どうなされました?」
アタシはアッシュの手を引き、とにかくその場を離れようとした。
うるさいダチ共を残して。
「見損なったぞココア! 浮気してるのはお前のほうだったのか!」
「ミコ氏は過去の女なのですな」
「これも若さゆえ……」
あいつら、言いたい放題言いやがって!
でも、アッシュのことを詳しく説明するわけにもいかない。アタシはアッシュを連れて撤退した。
このイラ立ちは、ビニール袋の中の挽肉が引き受けることになるだろう。




