第4話:魔法派生のテレビ
「おいKETSU、異世界の女神の殺し方を教えろ」
『すみません。よくわかりません』
言ってみただけだ。スマホのAIに分かるわけがない。
風呂に入って少しはさっぱりしたかったのに、クソ女神とアホ騎士のせいで台無しである。
その二人は今、魔法の水晶が写す映像越しに今日の報告をしている。
女神は美人だし、アッシュは行動がアレなだけでイケメンだ。絵にはなってるのが腹立たしい。
「……なるほど、やはりそううまくは見つからないようですね。引き続き探索をお願いします、アッシュ」
「はい! お任せ下さい!」
「ココアちゃんはどうしていますか?」
女神のちゃん付けに怖気がした。そしてその問いにアッシュが応える。
「ココアさんは今、ご自身のおしりと話をしています!」
待て、何だそれは。
「おいフザけんな。尻と話すわけねえだろ」
「やや? しかし確かに、『おいケツ、なんとかかんとかを教えろ』とか聞こえたのですが……」
「あれは、なんかこっちの質問にいい感じに答えてくれる機能の名前だ!」
「や、それは便利ですね。『破片』のありかも教えてくれないものでしょうか……」
「んなことできるわけが……」
と言った瞬間、ひとりでにテレビが立ち上がり、画面に見たことない表示が映し出された。それは砂浜で女神が使った魔法陣によく似ていて、アタシは思わず身構えてしまう。
ウチのテレビは親父が多少奮発して買った、大きいだけの普通のテレビだ。こんな風になったことはアタシも見たことがない。っていうか、どんなテレビも普通ならない。
「やや? ココアさん、これは魔道具だったのですか?」
「い、いや、そんなはずはねえんだが……」
とりあえず、うかつに近づかずに観察してみる。すると、水晶の向こうの女神が思い出したように言う。
「ああ、忘れていました! この家の『デンカ製品』とやらは魔道具に改造してあるから、今回の探索に活用できるとジェローが言っていましたね。これのことだったのでしょう」
「え、何それ。アタシ聞いてないんだけど」
驚くアタシに、女神はあっさりと言う。
「元々は、貴女に近づく男共を監視するための物らしいですよ?」
「うえぇ、マジか……」
本日2度目のドン引きするアタシに対し、アッシュはなぜか感心していた。
「さすがジェロー様です! 護衛対象や敵の位置を把握することは重要ですからね!」
「せめて護衛対象に許可とってからやってくれよ……」
「敵を欺くからにはまず味方から、と言いますし!」
「娘の交友関係に兵法を持ち出すなって……」
とか言っている間に、テレビの映像は切り替わった。それは青一色の背景に、白く細い線が無数に走っている図だった。それらが表すのは、縦横に走る道路、川、海岸線……。
アタシも詳しく見たことはないけど、さすがに分かる。
「これ……この街周辺の地図だな」
「なるほど。これでどうやってココアさんのご友人を監視していたのでしょうか?」
「ヤなこと訊くなよ……見当は付くけど」
地図の中、明らかにウチに印が付いている。
ハートマークが。
試しに、アタシはちょっと歩いてみる。
ハートマークがちょっと動く。
アタシは体の向きを変えてみる。
ハートマークの向きも変わる。
……とりあえず、あのクソ親父は今度会ったら殺すか。
「やや、このマークはココアさんなのですか? では他の方は……」
「こっちだろうな」
そう言ってアタシはテレビのリモコンを手にする。
画面の端に『追跡対象設定』なんてアイコンがあったからだ。それをリモコンで選択してみると……。
「あらあらあら、これはこれは」
「………………」
見覚えのある男子の名前が出るわ出るわ。ぱっと見、アタシと同じクラスになったヤツは全員登録されている。ちょっと楽しそうな女神の反応にムカつく気も起きない。
アッシュはその男子リストを興味深そうに見ている。
「彼らが、ジェロー様が警戒していた対象なのでしょうか?」
「多分な。ここで選択したヤツの居場所が表示されるようになってるんだろ」
「ほほう、では試しにおひとり……」
「止めろ」
アタシはこれ以上、異世界のアホどもからの被害が広がる前に、男子リストを一括で消去する。すると現れるのは、『新規設定』の文字。
「まあ、適当に試してみるか」
アタシはリモコンで『自動車』と入力してみた。
途端に、画面には無数の光点が現れる。それらは地図上の道路の部分を移動しており、おおよそ各家庭にもひとつふたつある。数え切れないほど固まっているのは、確かマンションとか、大きい商業施設のある場所のはずだ。つまり、
「マジで設定したもんの場所が分かるっぽいな」
「おお、それはすごいです! 『破片』や敵勢力の居場所も分からないものでしょうか?」
「アタシとしちゃ、あんまり知りたくもないんだけど……」
アッシュが探索前に言ってたような連中が近くをうろついているのをイメージしたくもない。
だが、本当にいるならとっ捕まえてもらうに限る。仕方なく、アッシュに代わって敵勢力の名前を入力して探していく。
しかし、どの勢力に対しても、『観測データが不足しています』というメッセージが表示されるだけだった。
「なんだ。全然ダメじゃん」
少し拍子抜けしてしまったアタシ。そこで女神が捕捉するように話す。
「まあ、これらの勢力はジェローたちがこちらの世界に渡った後に現れたものですからね。彼も詳しくはないでしょう」
「しかし、ジェロー様も世界樹のことはお詳しいはずです。『破片』なら調べられるのではないでしょうか?」
「そうですね。お願いします、ココアちゃん」
「はいはい」
アッシュと女神(ちゃん付けすんじゃねえよクソが)に促され、今度は『世界樹の破片』と入力するアタシ。すると……、
「んん……?」
「おお、なにか出てきましたね!」
そう。画面の上の方、つまり街の北側にぼんやりと光る円が表示された。あの辺りは山と森になってるはずだ。
「なるほど。存在する可能性のある範囲が表示されているのですね」
多分、女神の言うとおりなんだと思う。ただし、気になる表示がある。
「『信頼度15%』? なんか低いな。自動車のときは全部分かったのに」
「やはり、こちらの世界に合わせて改造した分、私たちの世界のものとは相性が悪いのでしょうね……」
残念そうな顔をしているだけで、どこか白々しい女神に訊いてみる。
「あんた女神なんだろ。魔法で改造しなおすとかできねえの?」
「難しいですね。私はそちらの世界の技術に詳しくありませんので。知るつもりもありませんし」
「一言多いだろ明らかに」
今のところ、アッシュにスウェットを授けたところが一番神っぽかったぞ。大丈夫かコイツ。
「大丈夫ですよココアさん! 大体の場所が分かっただけでも十分です!」
目標がはっきりして意気込むアッシュ。
「っつっても、あの辺り山だぞ。確か道も整備されてないし、アタシも案内できねえよ」
そして、お前が何をしでかすか分からんのが不安でしょうがねえよ。
しかし、アタシの心中を余所にアッシュのやつはのんきなもんである。
「どのみち、危険な場所にココアさんを連れて行くわけには行きませんからね! 山なら自分も慣れていますし!」
「とか言ってるヤツが真っ先に死ぬもんだろ」
「その場合は、また『回生の光柱』で復活します!」
「そうだったなコノヤローめ」
こうして当面の方針が決まり、アタシは風呂でくつろげなくなった。




