第3話:異世界死にゲーYOUの駅前散策
10:00
アタシとアッシュ、家を出て駅前へ向かう。
10:15
駅前到着。周囲の店で売っているものとか説明しながら歩く。
10:40
交番を見て警戒するアッシュ。中にいるサツのオッサンの制服が武装しているように見えたらしい。あれが犯罪者を取り締まる『警察』だと教えると、それを騎士の一種と勘違いしているアッシュが「このあたりで一番質の良い武器屋を教えていただけませんか?」とか質問してしまい、シャレにならんくらい怪しまれる。
11:00
マンホールを発見したアッシュが、盾の材料に使うとか言って蓋を引っ剥がそうとするので必死こいてとめる。プチ騒ぎになったので逃げる。
11:15
駅前のショッピングモールに逃げ込む。しかし、衣類売り場でアッシュが「そこに隠れている怪しい奴! 何者だ!?」とか言って試着室のカーテンを開けてしまったので、再び逃げる。ちなみに中にいたのはジジイだった。
11:25
ショッピングモールを出てドラッグストアに入る。ちょうどいいので、今後お世話になるだろう頭痛薬と胃薬を買い足すことにする。そして、ここは薬を売っている店だと説明すると、アッシュのアホは「石化を防止する薬をください!」とか言い出し、不審な目で見られる。
11:45
銀行の、なにもない普通の壁を見たアッシュが、「この先、幻の壁の予感……」とか言いながら壁を叩きまくる。当然警備員が駆けつけ、マジで怒られる。
で、今12:00。
「お前、この短時間でよくここまでトラブル起こせるな!?」
人目を避けるためにカラオケの個室に入り、ここ2時間のフラストレーションをぶちまけるアタシ。
「いや~、自分はいたって普段通りにしているだけなのですが……まあ、これも『旅の粗大ごみ』と言えるのではないでしょうか!」
「ある意味正しい言い間違いをするんじゃねえ!!」
はあ……まさか異世界の騎士がここまで問題児だとは……。このペースでボケ倒されるとアタシの体がもたないぞ。
半日ですでに満身創痍なアタシの前で、アッシュは食事を注文するタブレットに興味津々だ。
「ここは、いったいどのような場所なのですか? 個室制の酒場のようなものですか?」
「大体あってる。メインはほら、そこの機械で音楽を流して歌うことだ。この店はメシも食えるけどな」
言いながら、アタシはアッシュの持っているタブレットをひったくってカレーと唐揚げを注文する。食わなきゃやってられるか。
「お前もなんか食う? ちょうど昼だし」
「そうですね……では、この『コブサラダ』と『ナシゴレン』というのにします!」
なんか若干女子っぽいチョイスだな……まあいいか。
そして頼んだメシが来る間は、さっきまでのアッシュの行動の何がいけなかったのかを解説する時間となった。
アタシの説明にいちいち驚いているところを見ると、アッシュは本当にこの世界のことを何もわかっていないのだということがよく分かった。
「っていうかさ、普通こういうのって、ある程度こっちの世界のこと勉強してから来るもんなんじゃねえの?」
「自分もそう思いますが、女神様は現地で活動しながら学習しろとおっしゃっていました! おん・ざ・じょぶ・とれーにんぐ? とか言うらしいです!」
「それ絶対、自分が仕事したくないから言ってるだけだろ……」
とか言ってる間にメシが届く。アタシたちはまだ一曲も歌ってないけれど、店員は特に不思議そうな表情を浮かべることもなくテーブルに皿を並べていく。最近は完全に食事目当ての客も多いのだろう。
ただ、アタシの前にコブサラダとナシゴレン置いて、アッシュの方にカレーと唐揚げを置きやがった。女子高生がカレーに唐揚げ食っちゃいけないのか。釈然としない。釈然としないが、まあ不問としてやる。アタシは器の大きい人間なのだ。
「ココアさん、その揚げ物おいしそうですね! ひとつください!」
「却下だ」
× × ×
カラオケ飯を食い終わった後は探索の続きだ。今回は、アッシュがむやみやたらに他人に話しかけることがなくなったのでトラブルも激減した。よい傾向だ。この調子で頼むぞアッシュ君。
そして駅前の施設を一通り案内し終えて、今15:30。学校帰りの学生たちがちらほら目につき始める。
「ココアさん。何やら同じような格好をした子供たちが多いですが、士官候補生か何かですか?」
「いや、ただの学生だ。この国じゃ、普通の学校でも決められた服装をさせられることが多いんだよ」
「ココアさんは学校に通っていないのですか?」
「……一応、籍を置いてはいる。気が向かない限り行かねえけど」
高校にはもう1か月近く登校していない。一人暮らしを始めてからだから、親父とお袋も知らない。
もともと不登校気味だったわけじゃない。勉強もそこまで嫌いというわけではないし、ダチとつるむのは好きだ。
でも今は少し事情が違う。そのダチの顔を見たくなくなったから。ぶっちゃけケンカ中なのだ。
あの日、アタシの忠告を全然聞かないで教室を出ていったあの分からず屋、いっぺん痛い目でも見ればいい。
そんなモヤモヤを抱えながらアッシュの質問に適当に答えつつ歩くアタシ。しかし、歩くのを止めた。
道の向こう側から、その分からず屋が歩いてきたからだ。
指原美湖。近所に暮らす幼馴染。
向こうもこっちに気づいたっぽく、足を止めてアタシをにらんでいる。
「……」
「……」
「おや、ココアさん、どうしました? お知合いですか?」
アタシと美湖を見比べながら声をかけてくるバカアッシュ。お前は空気が読めんのか。
でも、アタシと美湖がにらみ合っていたのも数秒のこと。美湖は、ふん、と鼻を鳴らしてアタシたちとは別の方向に歩いて行ってしまった。
「声をかけなくてよかったのですか?」
「いいんだよ、あんなやつほっとけば……もうアタシ疲れた。帰るぞアッシュ」
「了解です!」
× × ×
……そして夜。アタシはリビングでぼーっとしながら動画サイトを眺めていた。アッシュはここにはいない。
いったんウチに帰ってきた後、陽があるうちに海岸の方を探索したいと言い出したから、暗くなったらかえって来いと言って好きにさせることにした。あの辺りならトラブルもそうそう起こらないだろうし。
しかし、アッシュはなかなか帰ってこない。腹減ったから先に晩メシは食べてしまった。
はて、困った。今日は色々あって疲れたし、そろそろ風呂入りたいんだけど……玄関のカギは当然締めてある。アタシが風呂入ってる間はアッシュを閉め出すことになってしまうんだが……ま、いっか。しばらく待たせれば。
風呂に湯を張って、のんびりつかるアタシ。でもそうしていると、どうしても美湖のことが頭に浮かんでくる。ムカつく。
アタシと美湖がケンカになった原因は、美湖が大学生のサークルに混ざって遊び歩き始めたことだ。
特に、古田逸郎とかいう男になついている感じがある。
別に、そのまま彼氏彼女になること自体は何とも思わない。
問題は、美湖がサークルに混ざるようになった切っ掛けだ。
どうやら家に帰りたくなくなり、外で一人でいたところに、古田に声を掛けられたのが始まりらしい。
アタシも美湖の両親のことはよく知っている。別に毒親とかじゃない。
だから、美湖の方にも悪いところがあるんじゃないかと思った。
当然、アタシはそのことを美湖に忠告した。連中とは、よく考えて付き合えって。両親との間になにか問題があるなら、解決すべきだって。
でも美湖はアタシの話に耳を貸してくれなかった。
古田に何を言われたのかはわからないが、自分を必要としてくれるのは古田だけだ、と美湖は言っていた。それは美湖を手なずけて、いいようにするつもりかも知れないとアタシがいうと、ついに美湖は怒り出し、売り言葉に買い言葉でケンカになり、現在に至る。
加えて、あのアホ騎士の面倒までみることになってしまった。
本当は、せっかく広い家に一人暮らしなのだから、好き勝手にダチ呼んで遊んだりダべったりしたかったのに、何もかも台無しである。
湯船に浸かってそんなことを考えていると、そこでようやく気付いた。
風呂場の隅の方だけ光ってる気がする。よくよく見てみると、明らかに床から光の柱っぽいやつが立ち上っている。
なんか、こう、いかにも勇者とか召喚されるみたいな感じで……と思ったら、その中にぼんやりと光が集まり、人の形を成していき……、
「ただいま戻りました! ココアさん!」
全裸アッシュ登場。
「ギャアアアアアアア!! てめ、一体どっから、てか、なんで風呂場に!? 出てけ!!」
乙女の入っている風呂場に全裸ワープとか、誠心誠意ブチ殺してやろうかこいつ。
「いや~、海辺の断崖を探索していたのですが、足を滑らせて海に落下し、また溺死してしまいました! あっはっはっは!」
アタシが投げつける洗面器やシャンプーのボトルを頭に食らいながら笑うアッシュ。
「だからなんだ!? 出てけ!!」
「このような場合、女神様が拠点に設置した『回生の光柱』で復活できるのです!」
「それがなんで風呂場にあるんだよ!? っていうか出てけ!!」
「ココアさんが微妙に嫌がる事をすることで、こちらの探索が早く終わるように協力させる狙いがあるらしいです!」
「お前んとこの女神、サイコパスだろマジで!?」




