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エピローグ:バカな話だと思うだろう?(事実そうです)

 工場からの脱出後、ひとまず美湖を休ませた後、アタシ達は詳しい事情を説明した。


 異世界から『世界樹の破片』なんてものが地球に飛んできたこと。

 それらを探すために、女神陣営と、向こうの世界の悪の組織的存在がこちらに来たこと。

 実はアッシュ達の世界の人間であったアタシの家を、探索の拠点としていること。

 そして美湖は今回、悪の組織のひとつに利用されかけていた、ということ。


 美湖はどの話にも驚いていたが、もはや当事者だ。

 今回巻き込んでしまったことについて、アッシュからも、当然女神からも丁寧な謝罪を受けた。


 あのクソ女神が謝罪するとか、そっちのほうが災いを引き起こすのではないかと思ったが、美湖としては、


「女神様、綺麗な人だね。優しそうだし」


 ってことだった。

 今回のことでよく分かったが、美湖には人を見る目がないらしい。今後は気を付けねばなるまい。


 本当は、美湖を自分の家に帰らせたいところだったが、今日だけはアタシと一緒にいたいということなので、泊めてやることにした。


 穏やかな顔で眠る美湖の顔を見て、ようやく一安心した。

 敵のくだらなさを思うとぐったりするところもあるが。


 アッシュの方も、敵勢力に打撃を与えたことと、何より『世界樹の破片』をひとつ回収できたことで、いつもより一層生き生きしながらアタシに話しかけてきた。


「いや~、ココアさん! 本当によかったですね!!」

「分かったから、もう少し声小さくしろよ。美湖、起きちまうだろ」

「や、すみません……」


 慌てて声を潜めるアッシュ。


「まあ、でも無事でよかったのはマジでそうだな。『ぴっちり教会』なんかより、その後で工場崩れた方がヤバかったからな」


 服が挟まって動けないのに瓦礫が降ってきたときは死んだかと思ったからな。


「や、そう言えば、なぜあのとき服を着ていなかったんですか?」


 思い出したくないことを聞いてくるアッシュ。


「別に脱ぎたくて脱いだんじゃねえよ……」


 と、アタシはアッシュと合流するまでの話をした。

 気のせいだとは思うが、避けるのが間に合わなかったアタシの体を瓦礫がすり抜けたことも含めて。


 それを聞いたアッシュはなぜかとても嬉しそうな顔で、多分過去イチ、意味分からないことを言い出した。


「ココアさん。それが、ローリングしたときの無敵時間ですよ!」

「はあ!? バカ言うな。第一、最初に降ってきた瓦礫には当たったんだぞ!」


 そう。アタシの体を瓦礫がすり抜けたのは、二度目に降ってきたやつだけだ。


「それは、ココアさんが服を脱いだことで装備重量が軽減され、無敵時間が付与される範囲に達したということです!」

「だ・か・ら! この世界にそんな現象はないんだって! お前だって、車にブッ飛ばされてたじゃねえか!」


 だが、アッシュの言うことには、


「ココアさんの場合は、この家の影響だと思います! 『回生の光柱』から発せられる女神様の力を吸収したことで、自分たちの世界の法則が適用されるようになったのではないでしょうか?」

「いやウソだろ!?」


 アタシ、あのクソ女神の力で助かったのかよ!


「ちなみに、今の自分のローリングにも無敵時間は付与されるようになりましたよ? 体が、ふたつの世界の法則両方に慣れる必要があるみたいですね!」

「だからお前も、エガシラと戦ってるときに全裸だったのか……」

「そうです!」


 満面の笑みで答えるアッシュに頭痛がした。


   ×   ×   ×


 アタシも美湖も、高校へは行くようになった。


 アタシは美湖とのケンカが原因だったから当然だが、美湖は違う。

 両親との関係がうまくいっていないことは変わっていない。


 でも、学校からの帰り道に美湖は言った。


「もう大丈夫だよ。お父さんにも、お母さんにも、言いたいこと言ってみるし、これからはやりたいことやってみる。どうなるかは分からないけど、ココちゃんだけは味方でいてくれるって分かったから」

「お、おう……」


 その通りだ。

 いや、その通りなんだけど……そこまではっきり言われると、すげえハズいぞ。


「それに、アッシュ様に恥ずかしい生き方はしたくないし……」

「…………え?」


 ……アッシュ、『様』?


 イヤな予感が全身を駆け巡り、思わず身震いしてしまった。

 隣の美湖は、なにやら頬を染め、潤んだ瞳で遠くを見つめている。


「私、『運命』ってどういうものか分かったの。アッシュ様が私を助けに来てくれたあのときに……」

「美湖。お前にひとつ、アドバイスを送ろう。考え直せ。やめておけ。引き返せ。不測の事態を……」


 しかし美湖は、アタシの話を全く聞いていない。


「私を抱きしめてくれた逞しい体、うすいタイツ越しに感じるぬくもり、そして優しい声で『これからは自分が貴女を守ります』って……」

「言ってない。そのときアイツ、そんなこと言ってない」


 まさかコイツ、アッシュに……と思った瞬間、アタシはやっと思い至った。


 美湖の推しの『アレス』ってソシャゲキャラがアッシュそっくりだということに。


 そして、アタシの家と美湖の家との分かれ道。

 美湖はやたらキリッした不敵な笑顔でアタシの方を向き、


「私、諦めたりしないから。勝負だよ、ココちゃん!」


 そう言い放ち、颯爽と帰って行った。

 あまりの衝撃に石と化したアタシを残して。


   ×   ×   ×


「いや~、ココアさんが石化したみたいに動かないので、この世界にもバジリスクがいるのかと思ってしまいましたよ!」


 結局、アタシは道ばたで放心していた所を、探索を終えたアッシュに見つけられた。


「う、うっせーよ。むしろバジリスクより厄介なモンと遭遇してたんだよ」


 バジリスクは後ろからシバき倒せば済むからな。目潰しでもすりゃ完璧だろ。


 しかし、まさか美湖がアッシュを……だなんて。

 エガシラに引っかかったことといい、男を見る目もねえなアイツ!!


 最近多い、怒りや呆れの混じったグロッキー状態のアタシに、デリカシー皆無騎士・アッシュがさらに話しかけてくる。


「ココアさん。お疲れのところ申し訳ありませんが、聞いていただきたい話があるのです!」

「なんだよ……」


 そろそろ返事するのも疲れてきたアタシ。

 ちょうど家に着いた。晩メシの支度あるけど、ちょっと一休みして……。

 しかしアッシュは言葉を続ける。


「『ぴっちり教会(ガチ勢)』の件を受け、自分たちが想定していない敵対組織にも対処するため……」

「あー、後で聞くから……」


 そして、アッシュを振り切るようにリビングに入ったアタシの前に――


「あらアッシュ、お帰りなさい。こっちの世界って面白いわね~。この揚げた薄切りイモも美味しいし。なんで肉と野菜の味がするのかしら?」

「……美味……」


 黒くデカいハットにマントを着た若い女と、質素な着物風の服を着た、痩せた中年男がいた。

 二人とも、テーブルでコンソメ味のポテチ食ってる。


「いや誰だ、お前ら!!!」


 叫ぶアタシの後ろから、アッシュが不審者二人に声をかける。


「やや、ディアナ、クヴァン! お久しぶりです!」

「はあ!? どういうことだよアッシュ! コイツら何だ一体!?」


 アタシは振り向いてアッシュに詰め寄るが、このアホは嬉しそうに笑っている。


「先ほど言いかけた話です。女神様の命により、追加メンバーを呼ぶことになりました! 彼らがそうです!」

「何ィ!?」


 驚くアタシを全く気にせず、二人は自己紹介を始める。


「魔術師のディアナ・マーブルストーンよ。しばらくの間、世話になるわね」

「密偵、クヴァン……平に、ご容赦……」


 アタシはいい加減、悟った。


 アタシの日常は、当分帰ってこないらしい。


(第1章 完)


これにて第1章は終了となります。

読んでいただき、ありがとうございました。

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