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第18話:美湖、覚醒

 それからしばし、アタシとイトーの実力は伯仲していた。


 悪の幹部と戦えているアタシが凄いのか、勇者と聖女の娘を相手にしているイトーが凄いのか。

 装置の制御室の中は拳打と蹴撃で満ちていた。


 突きを出せば捌かれ、蹴りを放てばいなされる。

 あっちの攻撃もまだ防げる範囲だけど、こんなヤツらに張り合われるとは……。


 しかし、それは唐突に訪れた。


 遠くから聞こえてくる、ひときわ大きな破壊音。徐々にこちらに近づいてくる……?

 そしていよいよ――


「とおっ!」

「ぐあぁああッ!!」


 壁をぶち壊して入ってきた二人。

 幹部らしく、ちょっと宝石とかが付いた全身タイツのエガシラと……、


「だから、なんでお前は全裸なんだよ、アッシュ!!」


 そう、よりによって敵地の真ん中で全裸になっているアッシュ。


 全裸に光の大剣。

 マジかよ。全身タイツ教会よりキワモノが身内にいたよ。


「やや、ココアさん! 安心してください。風紀に配慮し、見えてはいけないところには、七色に光る石を貼り付けています! コレが砕けないうちは大丈夫です!」

「そうじゃなくて! 服を着ろよ! パンツだけでもいいから!」


 アタシ達がそんな会話をしている最中に、アッシュに吹き飛ばされたエガシラを介抱するイトー。


「エガシラ、大丈夫ですか……?」

「くっ、”魂の器”を着こなすこの俺がここまで……まさか、女神の騎士がこれほど強いとは……」


 憎々しげにアッシュをにらむエガシラ。

 それに対し、いつもの感じで笑うアッシュ。


「あっはっは! 自分、魔法が使えない分、武術だけは磨き抜きました! 貴方の攻撃など当たりません!」

「そんなカッコでそんなものを振り回して喜ぶか、変態が……」

「あ、それはお互い様だと思います!」


 そう、アッシュの言うとおり、エガシラも武器を持っている。

 アッシュの光の大剣とは対照的に、赤黒い大斧。


「アッシュ、あの斧は……」

「女神様の魔法を阻害する効果があるようですね! なのでエガシラだけは、少し手こずっています。他は全員牢獄に飛ばしてしまいましたが!」

「そうか、じゃあ……この二人をどうにかすれば、勝ちだな!」


 このとき、アタシは油断していた。

 勝てると思っても、実際に勝つまでは、いつでも負ける可能性は大いにあるのだ。


「……ん?」

「やや?」


 美湖の入っているカプセルが光っていた。

 そしてイトーの楽しげな声。


「ごめんねココアちゃん。さっき、『もう少し』って言ったのはウソ。もう洗脳は始まっていたのよ。コレまでのは単なる時間稼ぎ」

「このクソ……」


 まんまと出し抜かれて歯がみするアタシと、輝くような笑顔を見せるエガシラ。


「おお、遂にこの世界での同志第一号が誕生する……!」


 カプセルの光が収まり、美湖の姿が再び見える。

 見た目は、何も変わっていない。


 ゆっくりとカプセルの蓋が持ち上がり、そこから美湖は緩やかに立ち上がった。


 その顔は最近全然見なかったほど穏やかで、どこか神々しいようにも見える。


 まさか、本当に――


「お、おい、美湖……」


 アタシが声をかけると、美湖はこちらを向いて微笑んだ。


「大丈夫だよ、ココちゃん。私、やっと分かったの。本当の自分が……」


 その様子を見て、エガシラとイトーは歓喜した。


「おお、成功した! でかしたぞイトー!」

「ふふ、当然です。私の理論に間違いはありませんから」


 コイツら、人に変な洗脳かけやがって……!


「おいフザけんな! 元に戻せコラ!」


 アタシはエガシラとイトーに詰め寄る。

 しかし、その間に美湖が手を差し出し、やんわりと止める。


「み、美湖……」


 美湖は戸惑うアタシから、エガシラとイトーに向き直り、声をかける。


「古田さん、堀見さん……」

「同志美湖! ようこそ我らが『教会』へ! 歓迎するぞ! そして俺の真名はエガシラだ、これから共に歩む仲間として、よろしく頼む!」

「私の真名はイトーって言うの。貴女が本心をさらけ出す手伝いができて、嬉しく思うわ」


 勝手なことを抜かす二人は握手でも求めるように手を差し出す。


 人に変な性癖付与しといて何言ってんだ。

 ムカついたアタシが割り込もうとすると――


「やや。ココアさん、大丈夫なようですよ?」


 と、アッシュに止められる。


「あ? 何がだよ?」


 ダチがクソな信仰宗教未満のところに加わろうとしてるんだぞ。

 現に、美湖はエガシラの方に手を差し出し……、


「いい加減にして!!」


 バッチイィイイイン!!! と、思い切り引っぱたいた!


「ぶぎゃッ!!」


 にこやかな顔から一転、無様な声をあげてブッ倒れるエガシラ。


「あ、貴女なにを……!」


 驚くイトーに対して美湖はブチ切れ始める。


「それはこっちのセリフよ! もうろうとしてただけで全部聞こえてたんだから!」

「しかし貴女はずっと、ありのままの自分でいたがっていたじゃない! そうでなければ、あれだけ全身タイツとの共鳴率は……」

「共鳴率がなんだか知らないけど! 私はただソシャゲの話できる友達が欲しかったし、アレス様のコスにもちょっと興味があっただけ! 何よこの格好!? 服どこ!? 服返してよ!?」


 思惑通りに行かずにうろたえるイトーに、フラストレーションをぶちまけるようにたたみかける美湖。


 『アレス様』って誰だ? ソシャゲの推しキャラかなんかか?


「美湖のやつ……洗脳効いてないのか……?」


 アタシが不思議に思っていると、アッシュがそれを肯定してくる。


「はい。ミコさんには、洗脳魔法に掛かったときに出るような、姿勢や視線の不安定さがありません。なぜ掛かっていないのかは、自分にはわかりませんが……」

「あの様子を見る限り、ホントに大丈夫っぽいな」

「ですね」


 アタシ達の目線の先には、イトーを掴んでガクガク揺さぶっている美湖の姿があった。

 洗脳が効いていなかったのなら、安心した。


 ここで、アッシュがアタシにA4サイズの布袋を渡して、頼み事をしてきた。


「ココアさん。すみませんが『破片』をこの保管袋に入れておいてください。自分のインベントリに転送されますので。自分はエガシラとイトー、その他の残りを送還してしまいます」

「おー、分かった」


 アタシはアッシュから袋を受け取り、装置に収まっている『世界樹の破片』に近づく。

 それは最近よく見る魔法陣の上にのせられていた。


 淡く輝く樹の枝。虹色にも見えて、すげえ幻想的。あの女神の世界にはふさわしくないくらい。

 もしかして、コイツが美湖を洗脳から守ってくれたんじゃないかとさえ思う。


 それを、なんとなく丁寧に、感謝しつつ保管袋に入れた。

 雑に扱うのは仁義にもとる気がしたからだ。


 これで美湖も、『世界樹の破片』も無事だった。良かった。


 しかし、そう思うのはまたしても早かった。


 美湖に気絶させられていたはずのエガシラが、起き上がっていた。

 そして、忌々しげに叫ぶ。


「ああ、クソ! この世界でも、俺たちの祝福を受け入れないのか! 愚かな人間どもめ!」


 お前はどっかの世界の邪神かなんかかよ。


 正直、ここまでの展開でアタシは少し危機感を失っていた。

 しかしエガシラは最後の最後に、悪の組織っぽいところを見せてきた。


「お前達を道連れに、全てを無に帰してやる!」


 そういったエガシラが取り出したのは、何らかのスイッチに見えた。

 こんな状況で登場するスイッチなど、相場が決まっている。


「ヤバい! アッシュ、エガシラを止めろ!」

「了解です!」


 アッシュの光の大剣を、エガシラは赤い斧で受ける。

 しかし、鉄塊のような特大の剣を振り回せるアッシュの膂力をしのぎきることはできなかった。

 防御した姿勢のままエガシラは吹き飛ばされ、壁に激突する。

 すぐさま追撃するアッシュ。

 しかし、


「エガシラ!!」


 美湖と言い争っていたはずのイトーが割り込み、エガシラをかばってアッシュの一刀を受ける。

 そのまま、ぼんやりと光りながら、イトーの姿は薄くなっていく。

 これが魔法による強制送還なのだろう。


「ああ……戻らなければいけないのね……あの、私たちが、私たちのままでいられない世界に……」

「イトー……! クソ、何でどいつもこいつも、俺たちを受け入れてくれないんだ……!」


 憎しみのこもった声で吐き捨て、スイッチを押してしまうエガシラ。


 聞いたことのない大きさの爆発音に、工場が揺れた。

 辺りの電気が一斉に落ちる。


「うおおッ!?」

「きゃっ!!」


 いきなり薄暗くなった部屋に一瞬で、床、壁、天井、いたるところに亀裂が走る。

 そして、アッシュとエガシラのいる床にも大きなヒビが入り、崩落……!


「やや?」

「クソ!!」

「アッシュ!!」


 アッシュとエガシラは階下に落ちた!

 慌てて覗き込むが、暗くて下の様子が見えない!


「アッシュ! 無事か!?」

「や、自分はなんとも! エガシラは片付けておきますので、お二人は避難してください!」


 頑丈なアッシュの体にほっとしたが、アタシ達はそうもいかない。


「逃げるぞ、美湖!」

「うん!」


 アタシは美湖の手を取って走り出した。


   ×   ×   ×


「クソ、大分崩れてるな!」


 廊下に出ても、壁や天井が崩れ落ちて通れないところが多い。

 幸いにも、美湖を探してるときに非常階段の場所は見たから、そこまでいけば……。


「ココちゃん、ゴメンね……こんなことに巻き込んで……」


 逃げている間にも、美湖は謝ってきた。


「いーんだよ、そんなこと。アタシだって、ムカついてほったらかしにしてた部分あったし、お互い様ってことで」

「でも……」


 フォローしても、なお申し訳なさそうな美湖。

 だからアタシは再度言ってやった。


「そうだな。お前が親父さんとお袋さんとちゃんと話しないで、逃げてるってところは今も悪いと思ってるぞ」

「うん……」


 申し訳なさそうな顔で俯く美湖。

 もうちょっと言ってやらなきゃ、ダメか。


「ま、それでもアタシはお前のダチだ。それは変わらねえからな」

「うん、そうだね。私、かなり酷いこと言ったのに、こうして来てくれたもんね。えへへ」


 美湖はやっとこっちを見て、あのだらしない笑顔を見せてくれた。

 そして、気づいたらしい。


「ココちゃん、耳のそれ、やっぱり似合うね。かっこいい」


 訊かれたアタシは、カラスのイヤーカフを見せて、答える。


「当たり前だろ?」


 そして、前方に見えてくる、非常階段の扉。

 あそこまでいけば、外に出られる。


 だが、その扉にたどり着く寸前で、アタシの真上の天井が崩れ落ちた。


 とっさにアタシは転がるように飛んだ。


「うおッ!?」

「ココちゃん!?」


 幸い、瓦礫はアタシをかすめただけだ。


「ココちゃん、怪我は!?」

「痛てて……いや、カスっただけだ。なんともねーよ」


 しかし、鉄骨かなにかに服が挟まってしまい、動きがとれない。マズい。


「待ってて、今……」


 そうアタシに近づく美湖の真上に、大きな亀裂が入っている。

 イヤな予感がした。


「よせ、こっち来んな!!」

「えっ?」


 美湖は自分の危機が分かっていない。

 天井からはパラパラと、コンクリートの欠片が落ちてきている。

 ガラリ、と音がした。


「くッ!!」

「きゃッ!?」


 アタシは美湖を思い切り突き飛ばした。

 幸い、ダンボール箱が積み重なっているところがあったから、そこ目がけて。


 でも、今度はアタシがヤバい。

 服が引っかかってて逃げられない!


 ――この瞬間、自分でもどうかしていたのではないかと思う。


 アッシュに初めて会った日、自動車にはねられそうになったアイツが全裸になって避けようとしたことを思い出した。


 シャツのボタンを引きちぎり、スカートを乱暴に脱ぎ捨てる。

 落ちてくる瓦礫。

 間に合わない。

 頭を抱えて前に飛ぶ。

 でも瓦礫がデカ過ぎる。距離が足りない。

 美湖の悲鳴が聞こえた。

 ヤベえ、終わったかも。そう思った。しかし――


 アタシの体は、瓦礫をすり抜けた。


 その勢いのまま、美湖の目の前に転がり込むアタシ。


「ココちゃん! 大丈夫!?」

「ああ、だいじょう、ぶ……?」


 あれ、今、絶対に大丈夫じゃなかった感じだったんだけど……?


 ちょっと何が起こったか分からず、混乱するアタシ。

 そこにアッシュの声が響く。ちょうど非常階段の向こう側だ。


「ココアさん! ミコさん! 無事ですか!?」

「アッシュ!」


 扉に駆けつけて、開く。

 そこにいた全裸で光の大剣を持ったアッシュを見て安堵したアタシは、やっぱどうかしてしまったのかもしれない。

 美湖はと言えば、顔を赤くしてアッシュから目をそらしている。無理もない。


「エガシラのクソ野郎はどうした?」

「あはは、もちろん牢獄に直行です!」

「だよな」


 そしてアッシュから、もうひとつよい知らせ。


「拠点まで転移できる魔道具がありますので、使ってしまいましょう!」

「マジかよ。超便利じゃん」

「はい! この国では、この格好で出歩くのはよくないみたいですし!」


 ……そりゃそうだ。

 今のアタシらは、下着姿、全身タイツ一枚、そしてほぼ全裸。


「……学習したな。お前」

「ありがとうございます! では、いきますよ!」


 そして身をかがめて、いきなりアタシと美湖、ふたりまとめて抱き寄せるアッシュ。


「ふぁッ……!」


 なんか美湖が変な声だした。アタシもちょっと驚いた。


「なッ……! 離せコラ!」

「すみません。本来は一人用なので、範囲が狭くて……」

「チッ、分かったよ。早くしろ」

「了解です!」


 ……そうしてアタシたちは魔法の光に包まれ、崩壊する工場から脱出。アタシん家に無事帰還することができた。


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