第17話:ココアちゃん、やっとバトる
工場の廊下は薄暗かった。
まあ、利用していることがバレてはいけないのだから、灯りが漏れるようになっている訳もないのだが。
アタシは息と足音を殺しつつ、人がいないか注意を払って進む。
もし、曲がり角の向こうにすぐ敵がいたら?
もし、後ろから近づかれているのに気づかなかったら?
こんなことを考えるのはゲームの中だけだった。でも今は違う。
美湖の将来が掛かっているのだ(黒歴史意味で)!
進んでいるうちに、派手に何かが壊れる音が轟いた。
続いて、大勢のわめく声、怒声、悲鳴。
そして「女神様の騎士、アッシュ参上!」の名乗り。どうやら、アッシュが突入したみたいだ。
騒がしくなったから、相手がアタシに気づく可能性も低くなったはずだ。
アタシは次々と部屋を覗いていき、装置を探す。
1階にはない。
2階でもない。
一向に見つからないことへの焦りが頂点に達しようとしたとき、3階の奥にひときわ大きな、白い鉄製の扉が見えた。
その下の隙間からは、いくつものケーブルが這い出ている。
ここだ!
そう直感したアタシはダッシュで突っ込み、ブチ破る勢いで扉を開け放つ。
すると、いた。
美湖が。
カプセルの中に。
……全身タイツ姿で。
「うわぁ…………」
ダチのこういう姿、きっついわー。
いや! いやいや! 引いてる場合じゃない!
美湖が『かっこガチ勢』にされてしまう前に、なんとか装置を……!
そしてアタシが美湖の入っているカプセルに走り寄った瞬間、
「あら、ダメよ。邪魔しちゃ」
聞き覚えのある声とともに、ソイツは隣の部屋から入ってきた。
「堀見……」
そうだった。さっき、美湖とコイツが一緒に映像に映ってたっけ。
加えて、他の構成員も4人出てきた。
外から覗いていたときはよく見えなかったが、構成員の格好は、ハートを包み込む両手のマークが入った黒い全身タイツにブーツ。
しかし、堀見の格好は少し違う。
黒一色なのは変わりないが、革にも似た光沢のある素材でできている。実際に見たことはないが、ライダーススーツってこんな感じなんだろうか?
とにかく、
「おい、堀見。お前も幹部ってヤツなのか?」
思いっきりにらみつけながら言うアタシ。それに対しておどけながら堀見は言う。
「分かってるとは思うけど、『堀見』っていうのはこの国に合わせた偽名よ。本当の名前は『イトー・インサイド』っていうの。崇高な教えを広めるための技術開発を担当しているわ。よろしくね」
「よろしくしねーよボケ」
「つれないわね。でも、そんな貴女も全身タイツは包みこんでくれるわ。どう?」
「過去イチいらねえ誘いだな」
前会ったときも思ってたが、礼儀正しいフリしながら、相手を見下したような目をしている。
コイツが何を考え、エガシラと一緒に何を美湖に吹き込んだのかと思うと腹が立つ。
堀見、いやイトーの勧誘を拒否したアタシの周りを構成員が囲む。
コイツらも全身タイツ戦闘員とやらと見ていいだろう。
「なんだ? ただの女子高生相手に4人がかりか?」
「それはそうよ。勇者ジェローと聖女カロリーナのご息女サマですもの」
バレてるのか。
「ちなみに、今騎士アッシュが暴れているのが陽動だっていうのも分かってるわよ。狙いはこの装置よね?」
「そーだよ。あとお前たち全員ブッ殺すことな」
「あら怖い。じゃあ私は装置の最終調整を続けるから、ココアちゃんの事はお願いね、お前達?」
そう言いながら、イトーは隣の部屋に引っ込んでしまう。
そしてイトーの部下らしき戦闘員たちは、一斉に返事をする。
「「「「イエス、ユア・タイトネス!!」」」」
うわキモっ。
そして、
「イトー様のご慈悲を拒否する愚か者め! 痛い目にあってもらおう!」
とか、いかにも下級の戦闘員じみたことを言って襲いかかってくる。
アタシを甘くみてるな。
まあ、見た目はホントに小娘だからな、アタシ。
しかしアタシは、小さい頃から親父から武術を仕込まれている。
一対多数を想定した近接格闘術。
他の流派の何にも似てなかったのが疑問だったんだが、まさか異世界の流派だったとは。
ともかく、それを存分に活かさせてもらう。
殴り込んできた一人目の突きを引きつけて右斜め下に回避。すれ違いざまに左肺の裏に掌底を打ち込んでひるませ、足をかけて引き倒す。
時間差で突っ込んできた二人目の腕をくぐり、同時にその腕を掴み、相手の背中側に捻る。そして関節の痛みに動きを止めたソイツを三人目の方へ突き飛ばして動きを阻害。
次に、これまでのアタシの動きを見てとまどったアホの四人目を背負い投げ。倒れている一人目の上に落とす。これで一人目は動けないだろう。
今度は二人目と三人目が同時に捕まえようとしてきたので、アタシから見て左から来る二人目の腕を上に捌きつつ、そのまま肘で相手の顎を打ち抜く。
そしてソイツの体を掴んで軸にし、跳躍しながら空中で体の向きを変え、反対側から来た三人目の頭を蹴り落とす。コレで二人目と三人目は沈む。
最後に、背負い投げされて呻いていた四人目の顔を蹴り飛ばして終了。
弱い。
正直、街の不良たちの方が強かった。
親父に「そうだ、武者修行しよう!」とか言われて不良グループを潰して回ったのが懐かしい。
「おいイトー! 装置止めろブッ殺すぞ!」
喰い足りないアタシは、昂ぶりのまま隣の部屋への扉を蹴破る。
するとパソコンをいじっていたイトーが、ちょっとだけ憂鬱そうな顔で振り向いた。
「はあ……もう少しでお友達を楽にしてあげられるのに、どうして邪魔するのかしら?」
「『楽』と『楽しい』は違えからだよボケ。しかも、逃げた結果『楽』に行き着いた場合はな」
正直、アタシ自身がそうだったからな。
「アタシは美湖にそうなってほしくないからな。邪魔させてもらうぜ」
「そう……じゃあ仕方ないわね」
そしてイトーはゆっくりと立ち上がる。
「ちょうど、デスクワークにも飽きてきたところだったし」
その自身ありげな表情。『変わった格好をした人こそ実力者が多い』説を思い出させる。
ハハ、強敵の予感……。




