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第16話:動きやすくはあるけども

 アッシュは自転車の乗り方は知っていても、交通ルールはまだ分かっていなかったらしい。

 ものすげえスピードでぶっ飛ばしやがった。

 日本の自転車は壊れにくいのは本当らしい。


 そのおかげで、わずかな『破片』の反応があった廃工場には、あっという間に着いた。

 辺りには、コンクリートブロックやさびた鉄骨、古びた重機などが放棄されているような感じで並んでいる。人が利用している感じには見えない。


 しかしアッシュは言う。


「やはり、人が出入りしている痕跡がありますね」

「そうなのか?」

「はい。ヤツらだけで20~30人はいます。その数で生活していると、痕跡を隠すにも限界があるのでしょうね」

「なるほど」


 そう言いながらも、アタシは妙な感覚を覚えていた。

 妙なことに、ウチにいるような安心感がわずかにあるのだ。アッシュが言う生活の痕跡をアタシも無意識に感じているのだろうか?


 アッシュは辺りを見回す。


「外に見張りとかはいませんね……まあ、ここを拠点にしていることがバレてはいけないので当然ですが。ちょうどいい、中の様子を覗いてみましょう」

 二人してこっそりと建物の側面に回り込み、窓から中を見てみると――

「うわぁ…………」


 マジでいたよ、全身タイツ軍団。

 特撮ものの、悪の戦闘員みたいなやつらが大勢。実際見ると怖えなコレ。


 ヤツらはちょうど、誰か偉いヤツの話でも聞いているかのように整列している。その視線の先にいるのは――


「古田……」


 集団の前で、先日見たチャラさもどこへやら、古田がふんぞり返って演説でもしているように見える。

 その傍らには堀見の姿もある。


「フルタ?」


 アッシュが意外そうな声を出したので説明する。

 あれがアタシのダチをたぶらかしている古田逸郎とかいうヤツなのだと。


「なるほど、こちらではそう名乗っているようですね」

「そういえば、古田を見たときなにか言ってたな?」

「あれはヤツの本名です。『エガシラ・スリムフィット』と言い、『ぴっちり教会(ガチ勢)』の幹部です」


 すげえ名前。

 タイツ着るために生まれてきたようなもんじゃねえか。むしろ本家より面積が増え――


「う~む、ヤツら、相変わらずのことを言っていますね」

「ん?」


 アッシュがそう言うので、アタシも聞き耳を立ててエガシラの演説を聴いてみた……。


『諸君に問う、俺たちの悲願は何だ!?』

『『『全ての人に、全身タイツを!!』』』

『そうだ! 俺たちの叡智は、自分自身の形をありのままに表し、なおかつその全てを包んでくれる”魂の器”とも言える衣服、全身タイツを作り上げた!』


 ……全身タイツって、そんな崇高なモノだっけ……?


『しかし世界に、本当の自分を受け入れられない人々のなんと多いことか! それでも俺は、そんな人々を全て救いたい! ありのままの自分でよいのだと! 悪いところもみな、温かく包んであげようと! 全身タイツによって!』


 ……最後の一言さえなければな~。


 しかし、室内の連中の琴線には激しく触れているらしい。

 『エガシラ様万歳!』とか叫んでいるヤツもいるし、なんなら目に涙を浮かべているヤツまでいる。


 エガシラの熱弁は続く。


『諸君らも知っての通り、災いに巻き込まれた俺たちはこの世界に飛ばされてしまった! しかし、俺たちは正しかったが故に幸運でもあった! 見ろ!』


 エガシラがそう言って、堀見(これも偽名なんだろうな)に目を向けると、堀見は手に持った何かを掲げて構成員に見せている。

 遠くからでははっきり見えないが、それはほのかに光る樹の枝のようだ。


「おいアッシュ、あれ……」

「はい、あれが『世界樹の破片』です。本当に連中の手に渡っていたとは……!」


 アッシュにとっては最悪の事態が発覚し、歯がみしてしている。


『俺たちは偶然、世界樹の破片と同じ場所に飛ばされた! 同志諸君とも散り散りになることも無かった! そして、この世界、この国の素晴らしさよ!』


 エガシラは段々と恍惚としているような顔になってきた。


『この国では、全身タイツを着た英雄たちの物語を作り、子供達によい教育を、しかも無償で施している!』


 特撮ヒーロー番組はそういう目的じゃねえよ!


『やはり、人々の心には全身タイツに対する潜在的な欲望がくすぶっているのだ!』


 ないないない。

 特撮ヒーローに憧れるのはそういったことじゃない。


『しかし、そんなこの国の人々でさえ、全身タイツを着ようとしない! なぜだ!?』


 エガシラの問いかけに、なんだかニヒルぶった金髪グラサン構成員が『坊やだからさ……』と言っていた。


 ……言わせておこう。アレに触れてはいけない。そんな気がする。


 その一方、エガシラはヒートアップする。


『それは、ルサンチマンだ!』


 ルサンチマンかぁー。


『俺たちの思想があまりにも優れているために、返って嫉妬を生み、認めたくないと考えているのだ!』


 エガシラの訴えに、何人かの構成員が怒りの言葉を吐く。

 『愚かだ……』とか言ってるヤツもいる。


 逆にエガシラは急に、渋く、しかし慈愛に満ちた声音で、こう言った。


『しかし俺は、そんなバカな人々を、それでも愛そう……!』


 オイ待て。

 そのセリフを軽々しくパクってんじゃねえよ。アタシあのジイさん尊敬してんだよ。


『そして俺たちは遂に、世界樹の破片の力を利用し、人々に祝福を与える装置の開発に成功した!』


 そのエガシラの宣言とともに、壁に映像が投影される。プロジェクターだ。


 そこに映るのは、機械だらけの研究室みたいな部屋と、その中央に鎮座する巨大な装置。

 何やら、ちょうど人ひとり入れそうなカプセルみたいなものが接続されている。


 構成員から上がる、どよめきと歓声。


『これは、人々の心に働きかけ、強制的に超絶全身タイツ好き人間にする装置だ! これを使い、この世界に全身タイツ戦闘員を増やし、共に戦う仲間とする!』


 力強く宣言するエガシラ。

 しかし、構成員のひとりがこわごわといった様子で手を挙げる。


『エ、エガシラ様。ひとつ伺いたいのですが……?』

『うむ、質問を許可するぞ。同志よ』

『そういった、いわば洗脳するというのは、教義から外れるのではないでしょうか……? その、それではありのままの自分を受け入れることになっていないというか……』


 ウソだろ! 極めてまっとうな意見でてきたぞ、この集団の中から!


 その意見を聞いたエガシラは鷹揚に頷き、答える。


『よくぞ言ってくれた。正直俺自身も、やりすぎなんじゃないかな~……とは思った』


 思ったのかよ。

 じゃあ作らないでくれよ、そんなモン。


『しかぁし! 全身タイツはそんな俺の悪いところも受け入れてくれるから良しとする! それに、洗脳とはいえ、喜ぶことになるのだからそれで良いではないか!』

『なるほど、それなら良いですね! さすがエガシラ様です!』


 変態集団ただひとつの良心はあっさり納得した。

 全然よくねーよクソボケ共。


 呆れるアタシとは逆に、エガシラの演説はさらに熱を帯びる。


『そして彼女が、この世界における全身タイツ戦闘員の、輝かしい一人目だ!』


 そのエガシラの言葉と同時に映像に入ってくる、堀見と――


「美湖……!」


 美湖のヤツは眠らされているのか、堀見に抱えられたまま動かない。

 エガシラは続ける。


『彼女はすばらしい! ありのままの自分を受け入れる存在を欲しており、全身タイツと非常に高い共鳴率を示した! 彼女に装置を使えば、自分の全てを包んでくれる全身タイツを愛するようになり、この世界で魂の器を広める心強い味方になってくれることだろう!』


「あのクソ……!」


 ぐったりした美湖に好き勝手言われ、アタシはいよいよ我慢ならなくなった。

 しかし、今にも部屋に殴り込もうとしたアタシをアッシュが押さえる。


「おい、何すんだ! 早くしないと……!」

「落ち着いてくださいココアさん。要はあの装置とやらを使えなくしてしまえばいいんです」


 冷静なアッシュの声を聞き、アタシは少し落ち着きを取り戻した。


「そ、そうか。確かにそうだな」

「自分はまだ、ああいった装置には詳しくないのですが……多分、魔力以外の動力源があると思います。それを破壊するのがいいかと」

「じゃあ電気を制御する部屋を見つけて……いや、装置と同じ部屋に発電機があるかも……どのみち、この工場を探し回らないといけないぞ」

「それでしたら……」


 するとアッシュは、何かを言いかけてためらったような顔をした。

 ……前にも見た表情だ。


 こんなときによく使う方法ならアタシにだって分かる。だからアタシから言い出した。


「アタシがこっそり忍び込んで装置の部屋を探す。そんで動力源を破壊する。だからアッシュ、お前は連中のど真ん中に突入してくれ。ちょうどそこから入れそうだしな」


 すぐ近くに鍵のかかっていないガラス窓があったから、アタシはそこを指さす。


「やや、先に言われてしまいましたか。本当は……」


 ちょっと複雑そうなアッシュ。アタシはあえて軽い口調で話す。


「市民を危険に巻き込みたくないってことなんだろ? 大丈夫だって。アイツら、人の命取るような連中じゃないから対処を後回しにしてたくらいなんだろ? それに……」

「それに?」

「ダチをこんな目に合わせたヤツにはやり返さねえときが済まねえ。邪魔するなら、お前もぶっ飛ばすぞ?」


 ニヤリと笑うアタシに対して、アッシュは苦笑した。


「あはは。カロリーナ様の若い頃と同じことをいいますか。参りましたね」


 え……? 若い頃のお袋、そういうキャラだったの?

 ちょっと詳しく聞きたかったけど、さすがに後回しにするアタシ。


 そしてアッシュは、


「では……」


 そう言って手を正面に伸ばすと、もはや見慣れた魔法陣が現れる。

 そこから出ているものをつかみ、引っ張り出す。するとそこには――


「すげえ……なんだそれ」


 アッシュの手にあったのは、まさしく光の大剣。

 刀身から柄に至るまで、全てが光の幾何学模様で構成されている。

 正直、カッコいい。


 カッコいいけど、今アッシュが着てるスウェットとの違和感が……。


「これは女神様がお作りになった、『回生の光柱』と同系統の魔法を使った剣です。斬った相手を問答無用で、私たちの世界の牢獄に転送する力があります」

「これでヤツらをシバき倒せばいいわけだな?」

「そうです。片っ端から元の世界に返してやりますよ!」


 光の大剣を肩に担ぎ、意気込むアッシュ。


「よし、分かった。ホントは古田、じゃないエガシラはアタシの手でぶっ飛ばしたかったけどな」

「ココアさんとミコさんの分は、自分がきっちりお返ししておきます!」

「頼むぞ」


 こうしてアッシュは工場の正面から突入し陽動、アタシは潜入を開始した。


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