第15話:移動手段とは、召喚するものだ
幸い、美湖の家は近いので自転車に乗ることもない。
息は切れたが、アタシは5分も掛からずに到着した。しかし――
「誰もいねえ!」
そうだ、美湖の家は共働きだった。親父さんとお袋さんの番号も知らない。
「あー! どこ行ってんだよ、あのアホ!」
イラ立つアタシに追い打ちを掛けるような声が、アッシュの方から聞こえてくる。
「ん~、ココアちゃんピンチなんですか? 助けてあげましょうか?」
「こんなときになんだよクソが……!」
アッシュのインベントリに入っている水晶から女神の声が聞こえてくるのだ。
アッシュがそれを取り出すと、案の定、これ以上無いほどニヤけてもったいぶった表情の女神の顔。
しかし、今は神にもすがりたい気分なのは事実だ。
できれば選択肢は欲しかったが。
「やや、どうされましたか、女神様!」
「ふふふ。たまには私も、神らしいところを見せなければいけないと思いまして」
普段から見せろよ。
そう思ったが、あえてツッコまずにアタシは女神の言葉を待った。
「ミコとやらの居場所ですよね? それならば街の西側、少し遠くの方にいますよ」
「何で? 根拠は?」
せっかくの情報ではあるのだが、アタシは相手が相手であるだけに疑った。
こちらの世界まで探知する能力があるなら、とっくに『破片』とか『組織』とかを見つけているはずだ。
「お忘れですか? 私、神ですよ? 時間があれば、そちらの技術の解析はできます」
「それがどうしたんだよ」
「そしてですね? ジェローの『魔法テレビ』を私の方から遠隔操作できるようになったのです!」
どや顔の女神。早く本題に入れ。
「で、今やっと『魔法テレビ』の検索が終わったのを見ているのですが、街の西側に、広くぼんやりした反応がありまして……」
「広くぼんやり? 詳しい場所は分かんねえのかよ?」
「そこまではわかりませんね~」
大風呂敷広げた割にはざっくりとした情報だったが、無いよりはマシだ。
それでも範囲が広すぎる。どうにかして美湖か古田たちの場所を割り出す方法はないか?
そう考えているアタシの前で、アッシュは何か思いついたようだった。
「街の西側と言えば、なにか大きな建物に『破片』のわずかな反応がありましたね」
大きな建物? 確かあの辺りには倒産した会社の工場跡地があったはずだが……。
「考えたくありませんが、『ぴっちり教会(ガチ勢)』がすでに『破片』を手にし、その力を利用しているとしたら……」
いよいよ美湖がヤバいじゃねえか!
「街の西か……遠いな、クソ」
タクシーを捕まえるか、最悪、親父のバイクを勝手に――
そうアタシが早まろうとしたときだ。またしても女神が自己主張してきた。
「そこでまた私の出番です!」
「というと?」
「実は拠点にあるものを、アッシュのところに転移させる機能を追加したのです!」
「おお、それは便利ですね! さすが女神様です!」
「それはつまり、ウチの物を勝手に使うということだな」
マジでウチを何だと思ってるんだ。
「まあまあ、今は非常事態ってことで。移動手段、必要なんでしょう? 転移しましょうか?」
「よし、じゃあ自転車頼む! ウチの車庫に入ってる二輪の乗り物だ!」
「は~い」
よし、とりあえずコレが最速の手段か。
アタシたちの目の前の地面に、直系3メートル程もある魔法陣が現れ、淡く金色の光を放ち始める。
そして、そこから徐々にその姿を顕わにする……!
……自転車だけどな。自転車の召喚って初めて見たわ。
そこで、ふと気づいた。
「あ、自転車の鍵ってどうなってるんだ?」
「それは召喚した際に、自動で解錠される仕組みになっています」
「ん、分かった」
それじゃ駐輪したときに鍵を掛けられないワケだが、今は追求しないでおく。
そして、無事に自転車の全体が出てきたのはいいんだが……デカい。
「コレ、親父の自転車じゃねえか……」
「あら? 大きい方がいいと思ったのですが、何か問題が?」
「……かねえんだよ……」
「え、今なんて……?」
「届かねえんだよ! 足が!」
できれば言いたくなかった指摘をすると、「あっ……(察し)」見たいな顔をしている女神。
「そうですよね、ココアちゃんは足が短いですもんね……」
「その言い方は止めろ! 背が低いだけだ!」
絶対にワザと言っているだろ、お前……!
「とにかく、アタシの自転車をよこせ! 早く!」
アタシが大分イラつきながらせき立てると、今度はなぜか女神もむっとした顔になる。
「まあ、そうやすやすと神の助けを請うなんて、ココアちゃんはちょっと図々しくありませんか?」
「お前が言うんじゃねえよ! ……って、こんな言い合いしてる場合じゃねえから、早く!」
「あ、この転移魔法は、一日一回しか使えません」
ほぼキレかけのアタシに向かって、あっけらかんと言う女神。
つかえねーな、コイツ!
それならもう、タクシーでも探して行くしかないかと思ったら、今度はアッシュが言い出した。
「それでは、自分がココアさんを乗せていきます!」
「え、お前、自転車乗れるの?」
「はい、ジェロー様に教わり、最近乗れるようになりました! 探索にも使わせてもらってます!」
そうか。アッシュなら親父と体格が似てるからな。
「よ、よし、頼む! 案内はアタシがするから!」
「了解です!」
と、自転車にまたがるアッシュ。見た感じ、本当に乗り慣れてるみたいだ。
打開策が決まったのはいいのだが……、そうなるとアタシが荷台に腰掛けて、アッシュの背中にしがみつく感じになるわけで――
「あら、なんだかいいですね。こういうのは『青春』と言うのでしたっけ? うらやまし~ですね~、女神を差し置いて~」
「う、うっせー黙れ」
この状況でなおもからかう女神をいなしつつ、ついにアタシとアッシュは美湖の元へ走り出した。




