第14話:おそらく未来の黒歴史
その日の夕方、帰宅後。
リビングでアタシは思案していた。
美湖以外にも、古田たちに声を掛けられていたヤツがいた。
いや、古田たちが見境無く声を掛けて回っていたことから考えると、それ自体は別に不自然じゃない。腹は立つけどな。
詩緒が声を掛けられたのが4ヶ月前、古田たちのサークル活動が活発になる少し前だ。
ただ、その時の古田たちの話がおかしい。今の大学のサブカルサークル見たいな感じと全然違う。
その時の古田たちが詩緒に話しかけた、と言うより語りかけたことは、
なにやら、「あなたは、もっとありのままの自分をさらけ出したいと思いませんか?」とか、「偽りの自分でなく、本当の自分を受け入れてくれる仲間が欲しくないですか?」とかいう話だったらしい。
チャラい見た目で、しかし神父の様に穏やかに語る古田の姿がキモすぎて印象に残っていたんだとか。
アタシはそれを聞いて、逆に古田たちがどういうヤツらなのかイマイチ分からなくなった。
怪しいとは思っていたけど、ただのサブカル研究会じゃないのか?
そうしてアタシが考えているうちに……、
「ただいま戻りました!」
と、アッシュが風呂場から帰って来たので、アタシは一旦考えを止めて晩メシの支度にかかった。
× × ×
誰かが行き詰まってしまいました。
歴戦の人は言いました。
『風呂入って寝ろ』。
その通りにしても、古田たちが一体どういう集団なのかは分からない。
詩緒も古田たちに声を掛けられていたことが分かった翌日の昼食後、アタシは古田たちのSNSを見ながら、もう一度直接殴り込んでやろうかと考えていた(比喩表現だ、今のところはな)。
一方アッシュは、『魔法テレビ』で次の探索場所を女神と話し合っていた。
ただ、そのうち女神のヤツがこっちにちょっかいかけてきた。
「ここ数日、ココアちゃんとお話していないですが、ちゃんと生きていますか?」
「生きてるようっせーな! 今、忙しいんだからほっとけ!」
よくない返事だった。
そう言ってこの女神が放っておくはずがない。
「忙しいって、何してるんですか?」
「ココアさん、最近なんだか考えてばかりいるように見えます。なにかお困りごとですか?」
女神に続いてアッシュまでこちらの様子を尋ねてくる。
アッシュは100%善意で訊いてきてるから、突っぱねづらい。しょうがなく事情を話すことにする。
「いや、ダチが最近つるんでる連中なんだけどさ、イマイチ怪しいって言うか、目的が分からねえって言うか、信用できるヤツらなのか分かんなくてさあ……」
「どんな方々なのですか?」
「ん、こんなヤツら」
と言ってアタシは、古田たちのコスプレSNS画像をアッシュ達に見せた。
そういや、アッシュたちの目からしたら、このコスプレの戦隊ヒーローとかってどう映るんだろう?
なんて思ったアタシ。
その予想通り、アッシュと女神は物珍しそうにコスプレ画像を見ていたのだが――
「ん? この者たち、どこかで……」
「……! 女神様、彼ら、『教会』です! この男も『教会』の幹部、エガシラです!」
古田たちの姿を見て、なにやら騒ぎだしたアッシュと女神。
「何だ何だ、どうした?」
そしてこちらを見る、今まで無いほど緊迫した表情のアッシュ。
「ココアさん! この者たちは、自分たちの世界から来た敵対組織の一員です!」
「なにィ!!??」
このコスプレ軍団、異世界人かよ!?
想像の斜め上の展開に驚くアタシに、アッシュは話を続ける。
「以前、こちらの世界に来たと思われる組織についてお話ししたことを覚えていますか?」
「あの、くだらない思想抱えた連中だろ? 覚えたくもなかったけどな。コイツらがそうだってのか?」
アタシの問いに、アッシュはなぜか申し訳なさそうな表情になった。
「いえ、あのときお話しした組織とは別の、やっかいな連中です。まさか、ヤツらもこちらに渡ってきていたとは……」
「それで、ヤツらはどんな連中なんだ? 何をしようとしてるんだ?」
重要なのはそこだ。
今のところ無事っぽいが、美湖にどんな危機が迫ってるのか。
詰め寄って尋ねるアタシに、アッシュは真剣な表情で、こう答えた。
「彼らの目的は……全人類の『全身タイツ化』です……!」
「クソ、マジか……ヤベえな……って、はい?」
アッシュの真顔に流されたリアクションしちゃったけど、今変なワード出なかった?
「ちょっと待て、今なんつった?」
「全人類の『全身タイツ化』です!」
やはり真顔で答えるアッシュ。
「なんじゃそりゃ!?」
「彼らは、全身タイツをこよなく愛するあまり、それ以外の服を着ると体がかゆくなる呪いを世界に振りまこうとしているのです……」
重ねて言うが、なんじゃそりゃ。
よくマジのトーンでそんな名詞を口に出せるな。
「お前らの世界、そんなんばっかだな……」
「や、彼らを甘く見てはいけません! 一生、全身タイツしか着られなくなってもいいのですか!?」
「それは確かに絶対イヤだけどさ!」
アタシにもささやかながらに存在するなにかを失ってしまう気がする。
微妙な気分になるアタシと比べて、以前真面目な顔のアッシュ。
「なので自分としても、ヤツらのような組織は早めに捕らえておきたかったのですが……」
「まあ、他に優先すべき悪の組織がいるとか言ってたけど、それでもさあ……」
驚き、怒り、呆れ。様々な感情が混ざったアタシの言葉に、女神が答えた。
「彼らの思想は行動は、迷惑でありこそすれ、人命に関わるものではありません。私たちの世界では、まだ災いの影響が各所に出ており、どうしても優先すべきものとそうでないものを分ける必要があったのです……」
珍しく申し訳なさそうな顔をしている女神。
「それに、私の世界でそうなるのはイヤですけど、余所の世界でなら、ちょっと面白いかなって……」
顔だけかよ!
「そんなアホ迷惑な思想に巻き込まれる身にもなってみろよ!」
「やや、何かあったのですか!?」
やっと、あって当然の反応がアッシュから返って来たので事情を説明する。
アッシュが悪の組織と呼ぶ連中がこの街にいること。
3ヶ月前からは、大学のサークルを装って人々に声を掛けて回っていること。
そして、美湖がそれに引っかかって、ヤツらと頻繁に行動していること。
「お聞きする限り、ヤツらはこちらの世界で協力者を得ようとしているようですね……」
確かに、アッシュの言うとおりだ。
「協力者、ってつまり……」
「端的に言えば、全身タイツの魅力を広めようとしているのかと……」
うわ、戦隊ヒーローのコスプレが多いのはその前段階ってことかよ……!
そしてアタシは気づいた。
「あ~!! そうだよ! 確かに死にはしないかもだけどさ! これって美湖の社会的なピンチじゃねえか!」
もし、全身タイツではしゃいでいる美湖の姿がSNSとかに流出したら……!
美湖がヤバい。美湖の将来がヤバい。
しかし、また女神がふざけたことを言う。
「でもこの世界では、そういった変わった格好をする人こそが逆に一目置かれているのでは?」
「それはオンラインの、ごく一部の上位者だけだ! とりあえず……!」
アタシは急いで美湖の番号に電話を掛けるが――
「ダメだ。やっぱり出ない……!」
「やや、お友達を保護するのですか?」
「そうだよ!」
ダチ連中に訊いても、学校には来ていないということだった。
じゃあどこに? やっぱり古田のところか?
でも古田のサークルは見せかけのものだったし、まさか大学内に部屋が用意されてることもないだろう。
「あー、もう! 学校サボってどこ行ってんだよ!」
サボってんのはアタシも同じだけど!
イラ立つアタシにアッシュが提案する。
「ジェロー様の『魔法テレビ』で居場所が分からないものでしょうか?」
「それだ!」
いそいでテレビを起動し、追跡検索設定に『指原美湖』と入力する。
すると、画面に変化はあるのだが、『対象検索中』の文字が出たまま一向に美湖の居場所は出てこない。
どういうことだ? 美湖は当然ウチによく来ていたし、親父も美湖のことはよく知っているはずだし、なんではっきり表示されないんだ?
「遅い! ちょっと美湖ん家行ってくる!」
もう直接、家に行った方がいい。近所に住んでてよかった。
アタシはテレビを付けっ放しにしたまま、ダッシュで家を飛び出す。
「自分も行きます! 人々を守るのは騎士の勤めですので!」
「勝手にしろ!」
「はい! ヤツら、『ぴっちり教会(ガチ勢)』の好きにはさせません!」
「やっぱりお前らの世界、頭おかしいだろ!?」
かっこガチ勢って何だよ。
そうしてアタシとアッシュは美湖の家に急いだ。
美湖を『ガチ勢』にしないためにな!!




