第13話:久しぶりだけど、まあまあ似合うかな?
さて、翌日。アッシュはいつも通り探索に出かけている。
そしてアタシの方も……行動開始だ。
やっぱり、あの手のかかる幼なじみは、古田たちに任せてはおけない。
しかし今の美湖に何を言っても聞く耳を持ってはくれないだろう。
そのために、そもそも古田たちがどういった活動をしているのかを調べることにした。
美湖のヤツが今も本音で笑えていないことが分かった以上、古田たちのサークルが本当にいいものなのかどうか怪しくなってきた。
まずはネットで調べるところからだ。確か、『道走国際大学・サブカル研究会』だったっけ。
ムカつくヤツの名前は覚えておく習慣があってよかった。
そしてSNSで検索してみると、まあ熱心にご活動してらっしゃるようで、画像が出るわ出るわ。
古田や堀見やそのほかのヤツらも。
戦隊ヒーローが好きなヤツらが集まっているらしく、なんだかそういうコスプレをしている画像が多い。美湖が写っているのも少しだけ混ざっているのが心配だ。後でイヤな目に会わなきゃいいんだが。
しかし、SNSやWEBだと大量の画像が出回っているのに、大学のサイト紹介のページには『サブカル研究会』という名前はなかった。
非公認のサークルなのか? それともSNSとかで使っているのは通称みたいなものか?
ちゃんと調べて見ると、ありきたりなサークル名の割に、目立った活動をしているのは3ヶ月前くらいからだ。歴史のあるサークルとかじゃない。なのにメンバーだけは20人以上いるとか書いてある。
なんか、思ってたより怪しい。
……どうする? 大学に凸して聞いてみるか? いや、それじゃあアタシの方が不審者じゃないか。どっかで古田たちの話が聞ければ――
と、古田たちの画像とにらめっこしていて気がついた。アタシがよく行く商店街は、道走国際大学に近いこともあり、そこの学生もよく来る。あそこの中華料理屋とかラーメン屋のおっちゃんたちはおしゃべり好きだから、大学生ともよく話すかも。
ちょっとコソコソ調べ回るみたいで気が引けるけど、ひとつ、やってみますか。
アタシは久しぶりにイヤーカフを着けて商店街へ向かった。
× × ×
……女子高生が昼前からひとりラーメンって、ありだろうか?
ほら、前から流行ってるだろ? 『孤独の流儀』みたいな感じで……あれ、違ったっけ?
まあいいや。
アタシは商店街のラーメン屋にメシ食いがてら、聞き込みしに来ていた。
久しぶりの濃厚煮干しスープの旨味を堪能しながら、大将に聞いてみる。
「大将~、この間、駅前でコスプレのイベントやってたの知ってる~?」
まだ会社勤めの人の昼食ラッシュにもなってなかったので、大将は気前よく答えてくれた。
「おお、知ってるぞ。なんのカッコしてたのかは分かんねえがな」
「前からそういうヤツらいたっけ? 大学のサークルだかなんだかで、最近やたらコスプレ軍団見る気がするんだけど」
世間話の振りをしてアタシがそう聞くと、大将は首をひねった。
「確かにそういうヤツ、最近になってよく見かけるようになったな~。ま、俺は他人様に迷惑掛けないならそんなカッコしててもいいけど。中にはマナー分かってないヤツも混じってんだよなあ……」
大将はどこか吐き捨てるように言った。それはよくある若い世代への非難にも聞こえたが……、
「なんかあったの?」
「最近まであまり見ないヤツだったんだけどね、やたら周りの子に声かけんだよ。『ウチのサークルに参加しませんか~』ってさ。それこそ、高校生とかにも」
「……ソイツら、どんなヤツだったか覚えてる?」
「ああ、なんかモヒカンにしてるヤツとか、茶髪のロン毛のヤツとかだったな」
古田たちじゃねえか! 色んなヤツに声かけて回ってたのか!
「そ、それでどうした?」
思わず食いついてしまったアタシに、大将は驚いたみたいだが、続きを話してくれた。
「ど、どうしたって……他のお客さんの迷惑になるから止めてくれって言って、そしたら止めたよ。なんかヘラヘラしてたけど」
「アイツら……」
イラ立ちを隠すことを忘れていたアタシを見て、大将は心配そうな顔をした。
「ココアちゃん、なんかあったのかい?」
いけない、心配掛けさせてしまった。アタシはとりあえず適当にごまかすことにした。
「ああ、いや。実はウチの高校でも、生徒に声を掛ける不審者の話が出てたからさ。そのモヒカンと茶髪がそうかは分からないけど」
学校サボってたのにそんなこと言っちまった。アタシの適当な話にも大将は大きく頷き、
「最近、目立ちたいのかは知らんけど、そういうヤツが増えてんのかねえ。ココアちゃんよお、今は親父さんもお袋さんもいねえんだし、何かあったら俺らに相談するんだぜ?」
「サンキュ。そんときゃ、こき使わせてもらうぜ」
生意気なアタシの言動に、陽気に笑う大将。そして、
「そういやココアちゃん、その耳の飾りはなんだい? 最近、流行ってんの?」
カラスのイヤーカフを指して、そう訊いた。
「ああ、これ? まあ、なんていうか、気分転換的なもんだよ。ごちそうさま」
× × ×
ラーメン屋を出たアタシは、そのまま和菓子屋、惣菜屋、魚屋などで聞き込んで回った。「最近変なヤツ多くね?」って聞き回りながら。
その答えは決まって、「最近知らない大学生が増えた」「なんか若いヤツらが他のヤツに声かけて回ってるのを見かける」といった感じだ。
そして実際、いた。
本当に古田のサークルのヤツかは分からないが、よりによって交番の前で勧誘をしていたらしい。サツのオッサンたちの注意をヘラヘラしながら聞いていた。
美湖もあんな感じで声を掛けられてたのかと思うと、すげえ腹が立った。
× × ×
さらに翌日。
アタシはもう、古田たちが活動しているところを直接目にするべく、駅前広場に張り込んでいた。
最近着なくなった服を引っ張り出し、お袋のファッショングラスを借用し、髪型はなれないポニーテールにし――
早い話が、変装していた。
そうなんだよ。アタシの顔、古田たちには割れてるんだよ。
だから直接話しかけることも、話しかけられるようなことも避けるべく、広場を観察できるカフェとか、本屋とか、ハンバーガーショップなんかを転々としていた。
そうすると、今まで気づかなかったけど、商店街のおっちゃんたちが言うように、若いヤツが他のヤツらに声を掛けて回っているのが頻繁に見られた。
そして、古田本人もいた。
まだ高校生だからイマイチ分かんねえけど、サークルってそんな風にメンバー集めるもんなのか?
疑問に思ったアタシは広場に出て近づき、古田がどんなことを言って勧誘しているのかを聞こうと試みた。
そして、見つかってしまった。
「ほらー、やっぱりココアちゃんだよ~」
「うわー、お前、メガネ似合わねえなー……って、なんか耳にも着けてね?」
学校終わりの、有陽と詩緒にな。よりにもよって、目立ちたくないこんなときに。
「ちょ、ちょっとお前ら、こっち来い……!」
アタシは慌てて、二人を物陰に引っ張り込んだ。
「ど、どうしたの、ココアちゃん……?」
「いいから少し黙っててくれ……!」
アタシは古田の注意をひいていないか、こっそりと伺う。
そして、そんなアタシを戸惑いの目で見る有陽と、面白がってそうな詩緒。
「ん、あの男がどうかしたのか?」
「そうだよ! だからちょっと引っ込め!」
アタシに続いて首を出そうとした詩緒を引き戻す。
「なーんで、そんなコソコソしてんだよ~」
ニヤニヤしている。どこかの女神と気が合いそうだ。
一方、有陽の方は、
「あ、もしかしてあの人が古田さん? ミコちゃんの彼氏の」
「お前、こういうときだけカンがいいな……!」
こういうヤツにヘタなごまかしは効かない。
大人しくアタシが認めると、いよいよ詩緒は興味を前面に押し出してきた。
「なんだよ~、やっぱお前も気になってんじゃ~ん! そんな変装までしてさ~」
バシバシとアタシの肩を叩きながら笑う詩緒。
「それでこそココアだぜ~! これぞ、MAYからのNT……」
「うっせーよ擦りすぎだろ殺すぞ」
しつこいアホを一発シバく。
「でも、ココアちゃんの気持ちも分かるよ~」
と、有陽の方はゆるく笑いながらアタシに同意してくれる。
「SNSだと元気そうな写真もみるけどさ、やっぱり私もちょっと心配だもん」
その有陽の言葉に、詩緒は反応した。
「ん、美湖たちの写真?」
「そうだよ~、古田さんたちのサークルがアップしてるやつ。これとか」
そして有陽のスマホに表示される、古田や堀見たちが戦隊ヒーローのコスプレをしている写真。
端の方に美湖も写っている。
例の、明るい笑顔で。
それをのぞき込む詩緒。
「おー。何だ、あいつコスプレとかしてんじゃ……ん?」
何かを思い出したような顔になる。
「どうした?」
「いや……コイツ、前に話しかけられたことあったな……」
そういって詩緒が示すのは、古田。
「マジかよ……!」




