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第11話:誘い

「チッ……なんだよ、アイツ……」


 美湖が出て行った後、アタシはふてくされてジュースサーバーからコーラを拝借してヤケ飲みしていた。

 美湖に突き飛ばされた部分がなんだか重苦しい。


そんな感じでイライラしていると、アタシの正面の席に誰か座った。

 一瞬、美湖が戻ってきたのかも、と思ったけど違った。


「こんにちは。ココちゃん、だったかしら。少しお話ししない?」


 ……さっき美湖と話してた女子大生のヤツだった。堀見だっけ。

 ぱっと見は無害そうだが、美湖が親との問題から逃げているのも、コイツが甘やかしているからじゃないか。


「構わねえよ。こっちは文句しか言わねえけどな。あと、本名は早来心愛だ。早来さんと呼べ」

「あ、そうだったの。ごめんなさい、ふふっ」


 目一杯にらみつけてやったが、堀見は何とも思っていないようだ。

 むしろちょっと上品に笑っている。


「……やっぱり怒ってる? 美湖ちゃんのこと」

「そりゃあな。アンタらが唆してるようにしか見えねえよ」


 相当敵意を込めて言ってやったつもりだが、やっぱり堀見には何の変化もない。


「そっか、大事な友達なんだね。美湖ちゃんも、よくあなたのことを話してたわよ?」

「ハッ、悪口ばっかりだったろ?」

「それだけ、あなたには、ありのままの自分を受け入れて欲しかったのよ」


 知った風な口で微笑む堀見。


「ダチだから言わなきゃいけねえこともあんだろうが」

「そう? 悪いところも含めての友達じゃない?」

「悪さの程度によるな。家族と一生向き合わない、なんてことになったら、ぜってー後悔するだろうからな。アタシは『逃げるな』って言うぞ」

「でも、そういうことを指摘するのも辛くないかしら?」

「……」


 クソ。痛いとこ突きやがる。


「実際、今日まで何もしてなかったんでしょう? 美湖ちゃんに対して」

「……気が変わったんだよ、うっせーな」

「そう……ココアちゃんは自分にも厳しいひとなのね」

「黙れ。生暖かい目で見んな」


 言葉の上では褒めているようにも聞こえるが、堀見の見透かしたような目が気に入らなくて、アタシは目を逸らした。

 すると、堀見はゆっくりと、それでいて畳み掛けるように言ってきた。


「今、ちょっと無理してない? もう少し、肩の力抜いてもいいんじゃない? 何かと楽よ。自分の悪いところも、ありのままの自分として受け入れられると」

「……」


 確かに、それは楽かも知れない。


 不覚にもそんなことが頭をよぎったアタシに、堀見は突然こうも言ってきた。

 軽く手を叩いて、あたかもいいアイデアを思いついたかのように。


「あ、そうだ。いっそのこと、ココアちゃんもウチに入らない?」

「はァ!?」


 何言ってんだコイツは!?


「そうすれば、美湖ちゃんが本当に望んでいることが何かも分かるし、ココアちゃんも、自分では気づいていない自分の本音に気づくかもしれないわよ?」


 表面上は親切に、アタシの顔をのぞき込んで提案する堀見。

 しかし、なんだかその目の奥には別の魂胆が透けて見える気がした。


 そして何より、若干上から目線なところがムカつく。

 実際、年上の大学生なんだけどさ!


「余計なお世話だ。アタシは十分、自分のしたいようにしてる」


 アタシはそう吐き捨てて、イベント会場を後にした。


   ×   ×   ×


 翌日、アッシュの探索の方は順調に進んでいた。

 親父の宝箱の素材が本当に世界樹由来のものだったから、魔法テレビに新しい反応が表示されたのだ。

 しかも、今回は複数。アッシュは今、それぞれがどのような場所なのかを調べている。


 その間にアタシが何をしていたかというと――


「………………」


 ベッドに寝転んで、ボーッとしていた。


 少し……昨日の美湖との一件で気が抜けてしまった感じだ。


 見知らぬヤツらと一緒にいるのは確かだけど、犯罪に巻き込まれている感じではない。


 両親との関係から逃げているとは思うけれど、それをアタシがはっきり指摘した以上、これからどうするのかは美湖が決めることだ。


 そういった安心感とか、脱力感とかを抱えながら、動画サイトを流し見していると、あっという間に時間がが過ぎる。15時頃になってからやっと、冷蔵庫の中身が少ないのを思い出す。


 食材を買いに行かなきゃいけないのはダリぃけど、こういう気分のときは――


「なんかウマいもん作って食うに限るな」


 肉だよ、肉。肉食おう。

 アタシは部活帰りの運動部みたいなことを考えながら、商店街へ出かけた。


   ×   ×   ×


 そして食材を買い込んだ帰り道、家と商店街のショートカットになる公園。

 なんだか気分がコロコロ変わっているみたいに思われるだろうが、アタシは割と上機嫌で歩いていた。


 肉屋で珍しくいい豚ロースの厚切りが安く手に入った。今晩はこれでアスパラとかニンジンとかを巻いて揚げよう。梅肉と大葉とか入れてもいいかもな。


 考えたら腹減ってきたな。朝昼、めんどくさがって食わなかったからなー。

 アッシュの飯も適当に作っちまった。頑張ってるのに悪いことしちまったな。


 ……そこで、ふと考えてしまった。美湖のヤツは、どこで誰とメシを食ってるだろうか。


 普段のアイツは、自分の嫌いなものが混ざってても、気を遣って何も言わずに頑張って食べるヤツだった。今はありのままの自分で、とか言ってたから、「これは食べたくないですー」とか言ってるかもな。


 なんて少し憂鬱が戻ってきたとき、とうとうアタシの目の前に現れた。

 公園の反対側から、5人の若い男が。

 真ん中の茶髪ロン毛男はなんだかヘラヘラしているが、他の4人からは、なんとなく敵意を感じる。


 そして、その茶髪男が話しかけてくる。


「ちィッス! キミ、ココアちゃんだよね? ミコちゃんからよく聞いてるよ~」


 チャラい口調でいきなりアタシと美湖の名前を口にした。


 …………そうかそうか、コイツが古田ってヤロウか。


「いや~、マジかぁ~。ミコちゃんは悪口言ってばっかりだって言うから怖いコかと思ってたけど、メッチャちっちゃくてカワイイじゃ~ん」

「……」


 アタシは返事をせずに軽くにらみつける、ついでに相手の観察。


 軽薄そうな雰囲気のワリには体格はガッシリしている。動作も姿勢もフラフラしているのに、どこか芯が通っているように感じる。あまり比較には出したくないが、普段の親父がこんな感じだ。


 だとしたら、コイツ格闘技でもやってるのか?

 どうやら油断できない相手のようだ、とか思ってたら、古田の後ろにいた、さらに体格のいいモヒカンがアタシの目の前に近づいてきて、


「おいガキ、アニキが話しかけてるってのに無視すんじゃねえよ!」


 とすごんでくる。

 アニキってなんだ? こいつは古田の弟分かなにかか?


 その弟分の肩を古田はポンポンと叩き、


「まあまあ、いきなり声を掛けちゃったら、普通は警戒するでしょ」

「ですがアニキ、コイツ堀見のアネキにもナメた口聞いたって話ッスよ!」


 ……そうか。昨日の話が伝わっているのか。っていうか最近のサークルでは「アニキ」とか「アネキ」とか呼んでるのか? コイツだけか?


 いかにも三下っぽいイラつき方をしているモヒカンを古田は宥める。


「そこはさ~、きっとココアちゃんの方にも誤解があるっていうかさ~、ウチがどんなサークルかまだ知ってもらってないだけだと思うんだよね?」


 モヒカンに対しても古田は軽い話し方をしている。しかし、


「だからちょーっと、口挟まないでおいてね。マジで」

「あ、うす……すんません」


 ……最後の方は、僅かな圧力を感じた。

 そして古田はモヒカンを脇にどかし、アタシに向き直る。


「じゃ、改めましてココアちゃん。オレが『道走国際大学・サブカル研究会』の代表、古田逸郎です。ヨロシク~」

「……アタシに何の用だよ」


 古田の自己紹介に返すことも無く、突っぱねるようにいうアタシ。

 しかし古田は、そんな態度にも何の反応も示さない。昨日の堀見も似たような感じだった。


「いや~、堀見からさ~、ミコちゃんのお友達がミコちゃんを心配してるって聞いてさ~。このままじゃよくないな~と思って。いっぺんキミとお話したかったんだよ~」

「……話ってなんだよ」

「いやね? 昨日堀見も言ってたと思うけど、ウチはさ、ありのままの自分をさらけ出して、それをみんなで受け入れて、楽しくやってこうってサークルなワケよ。昨日みたいに、イベントにも参加したりしてね」


 パッと聞いただけでは、そこそこいい感じのサークルに聞こえる。美湖が現実逃避に使っていなければの話だが。

 表情を変えないアタシに古田は話し続ける。


「ココアちゃんは疑ってるみたいだけどさ、ミコちゃん、本当に楽しそうにしてるんだよ? 昨日もやってたけど、最近はコスプレがちょっと楽しいみたいでさ~。ほら、これ最近の写真」


 そういって古田は頼んでもいないのにスマホの画面を見せてきた。

 そこには、戦隊ヒーローのスーツを着た美湖が、他のヤツらと一緒にポーズを決めていた。その顔は、明るく笑っている。


 ……認めたくはないが、楽しそうだ。最近、美湖がこんな笑い方をしたところを見たことがない。


「ミコちゃん、楽しそうでしょ? だからさ、ココアちゃんはちょっと誤解してると思うのよ。というワケで、一回ウチに来てみなよ。ぜーったい、楽しいからさ」


 と言って、古田のヤロウはなれなれしくもアタシの肩に手を置き……かけたところで、アタシはその手をバシッ! と振り払った。

 なんだか色んな意味でムカついたからだ。


 途端に、今まで後ろで見ていただけの男たちが声を上げる。


「お前! 古田さんが誘ってくださってるのに、何だその態度は!」

「ナメてんのか!?」

「俺らは正しいことをしてるんだぞ!?」

「俺らはなぁ、お前が見捨てた、お前のダチも助けてやってんだ! 分かってんのか!?」


 4人は前に出てきて、アタシを取り囲む。ソイツらの顔には、イラ立ちと……何だろう? 少し、おびえのようなものが混ざっている。


 そして古田は、今度はコイツらを止めない。むしろ薄ら笑いを浮かべてすらいる。


「まあまあココアちゃん、ホントにさ、いっぺんウチに来てみなよ? もしかしたら、その肩肘張った人生観、変わるかもよ?」


 ……さっきから聞いていればコイツら、なんでアタシを誘っている? 何か企んでるのか?


 とか考えていたら、そこに別の男が走り込んできた。なんだか慌てている。そして古田に近づき、


「ヤツが近づいてきています……」


 と言うのが聞こえた。ヤツってなんだ?

 その報告らしきものを聞いた古田はちょっと面倒くさそうな顔をした。


「あ~……まあ……今見つかっちゃうのはちょーっと早いかな~……」


 そして古田は、


「今日はこのくらいにして戻るぞ~、準備もあるしな~」


 と、また気の抜けた感じで言い、他の男たちを連れて去って行った。


「ココアちゃ~ん。また会おうね~」


 なんて手をヒラヒラさせて、女神とは違うウザさを残しながら。


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