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第10話:霧の向こうのご友人

 結局、親父が昔に隠した宝探しごっこの、後片付け程度の成果しかなかった夕暮れ、家の倉庫にゴムボートを片付けているアタシとアッシュ。

 アタシは恥ずかしいような情けないような気分だった。


 アッシュは何とも思っていないようだが、アタシにしてみりゃ、身内がバカやったせいで海の底まで関係ないヤツを潜らせていたに等しい。


「あー……アッシュ。悪かったな、今日は」

「やや、何のことですか?」


 意外そうな顔でこちらを振り向くアッシュ。

 本当に何とも思ってねえのかよ。逆に謝りづれえよ。


「いや、泳げないのに、海の底をムリヤリ探すようなことしたじゃん。あのクソオヤジのせいで」


 しかし、アッシュはやっぱり首をひねるばかりだ。


「誰かのせい、というならば、そもそも自分たちの世界で起こった災いが原因ですし……別にココアさんが気に病む必要はないかと」

「そうかも知れねえけどさ……」

「まあ、どのみち自分は、自分の使命を果たすのみです!」

「お前、ポジティブだよなー……」

「ありがとうございます!」


 若干皮肉を混ぜたアタシの言葉にも、あっはっは、と笑うアッシュ。

 美湖のやつもこれくらい前向きなら、両親からの期待がどうとか言って悩むことも無かったんだろうな、と思ったその時。


 スマホが振るえた。見ると、有陽からの着信だ。

 電話なんて珍しいな。まあ、とりあえず出るか。


「おー、有陽か? どした?」

「あ、コ、ココアちゃん? アッシュさんと一緒のところを邪魔しちゃったらごめんね?」

「いらねー心配すんじゃねえよ」

「そ、そう? じゃあ、あのね、今、ミコちゃんが……」


 と言って有陽が話した内容。


 美湖が、変な格好をした連中と一緒に、どこかへ行こうとしている。


「私も自信ないんだけど、あれ、ミコちゃんだと思うんだけど、いつもみたいな服じゃなかったから……」

「ど、どこだ!? どこで見た!?」

「その、駅の東側の……」


 あのバカ、何か変なことに巻き込まれてんじゃないだろうな!


「アッシュ、悪い! ちょっと出かける!」

「やや、どうしました?」


 倉庫にゴムボートをしまっていたアッシュが、顔を覗かせる。でも、説明しているヒマはない。


「野暮用だ!」


 アタシは引き剥がす勢いで玄関のドアを開け、壁に掛けてある自転車の鍵をひったくるように手に取った。


   ×   ×   ×


 そしてたどり着いた、有陽が言っていた『変な格好』をした人が集まる場所。


「コスプレのイベントだったか……」


 駅近くのビルのホールは、アニメやマンガのキャラの格好をした人と、カメラを構える人、その光景を周りで見ているひとでごったがえしていた。


 とりあえず、なんか犯罪っぽいものじゃなくて安心したけど……美湖のヤツ、ここで何してるんだ? 有陽も「知らない人たちと一緒にいた」って言ってたけど、まさか古田とかいうヤツと一緒じゃないだろうな。


 ……いや、多分そうなんだろうな。美湖ん家、こういうの好きそうじゃなかったし、美湖自身もそんなに社交的な方じゃない。少なくとも、アタシの知る限りは。


 古田たちとつるむようになって変わったのか? それとも、アタシが知らなかっただけか?


 ……なんだか、改めて腹が立った。どちらにせよ、ただの現実逃避にしか思えない。

 今のアイツがどんななのか、この目で確かめて、場合によっては文句言ってやる。


 アタシは人の海原の中に踏み出した。


   ×   ×   ×


 美湖は意外と早く見つかった。

 近くの大学のマンガ研究サークルかなんかの運営を手伝っているらしく、笑顔で看板を持って、写真撮影したいヤツらが並ぶ列の整理をしていた。確かに有陽が言うとおり、いつもとは違う格好で。


 コートと肩当てや手甲を組み合わせた騎士の格好。兜まではしていないが。


 その衣装には見覚えがあった。確か、人気のソシャゲ『ブラッドスピリット』に出てくるキャラだったはずだ。アイツがあのゲームやってたところは見たことないんだが……。


 ……いや、こうやって突っ立っていても仕方が無い。アタシは意を決して美湖に話しかけた。


「……よお、何してんだ、こんなとこで」

「……そっちこそ」


 美湖はたちまち、客向けの笑顔から一転して不機嫌な顔になって返事した。


 ……少なくとも返事はしてくれたことに、若干安心しかけた。


「有陽から、お前が変なカッコして変なヤツらと一緒にいるって聞いたんだよ」


 アタシがそう言うと、美湖は一瞬だけ意外そうな顔をした。

 ……が、すぐに仏頂面に戻り、


「心配して来たとか言うの? 今さら?」


 なんて言ってきた。


「うっ……」


 今さらなのは確かなのでそこには言い返せず、アタシは言葉につまった。

 すると、


「あら、指原さん、お友達?」


 サークルの大学生なのだろうか、ちょっと背が高くて穏やかな感じの女性が出てきた。この人はメイド服を着ている。スカート丈の長い、本格的な?デザインのヤツ。


 美湖は彼女に、慌てて説明する。


「すみません、堀見(ほりみ)さん。この子は、その、同じ学校の……」


 堀見さんと呼ばれたソイツは事情を察したのか、にこりと笑って、こう提案してきた。


「それじゃあ、指原さん。先に休憩取る? その間に少しお話ししてきたら?」

「いえ、そんな大事な話じゃないので……」


 美湖は遠慮したが、堀見は、


「まあまあ、学校へも最近行ってないんでしょう? お友達ともちゃんと話した方がいいわよ」

「……分かりました。それでは、お言葉に甘えます……」


 なんとなく優しげな目でアタシを見ながら、明らかに気乗りしていない美湖に休憩を促し、結局アタシ達は撮影スペース裏の休憩スペースで向き合った。


   ×   ×   ×

 そして、アタシ達意外誰もいない休憩スペースで、アタシと美湖は向き合っている。

 とりあえずさっきから気になっていたことを聞いてみた。


「お前、そんなゲームしてたっけ? 親父さんとお袋さん、ソシャゲとかいい顔しなかったろ」

「アイツらには内緒で最近始めたの。古田さんが面白いって教えてくれたからね」


 ……でたよ、古田。

 アタシは自分の心がささくれ立ったのを感じた。


「ふん、ずいぶん仲が良いみたいだな。古田ってやつとか、このサークルの連中とか」

「そうだよ。皆さんや古田さんのおかげで、私はずいぶん助けられたんだから」


 美湖は本当にこのサークルが気に入っているらしく、いやにはっきりそう言った。


「……家の方はどうしてんだよ。親とは話してんのか?」

「してない! 大人の勝手な期待とか、お姉ちゃんとの比較とか、もううんざり! これからの私は、ありのままの姿で生きるの!」

「それでこのサークルに参加してるってワケか? ただ現実逃避してるだけなんじゃないだろうな?」


 少し口調がとげとげしくなっていくことを自覚しながら、とうとうアタシは言うべきことを言った。

 しかし、


「それでもいいもん! 古田さんなら、ここの皆さんなら、どんな私も受け入れてくれる! 人の悪いところばかり見て、文句言ってるだけのアンタとは違う!」


 そう言うと、美湖はひときわ鋭くアタシをにらみ、


「もういいでしょ!? ほっといて!」


 とアタシを突き飛ばし、休憩スペースから出て行った。

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