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第4話「目覚めた街」

これから始まる物語は、少し変わっています。


設定が崩壊します。矛盾します。破綻します。


でも、それでいいんです。


なぜなら、この作品のテーマは「崩壊」そのものだから。


作者「MOON RAKER 503」が、その時思いついた設定を適当に投入します。


故に矛盾します。


作者自身、コントロール不能な物語です。


ゴールも分からないままスタートします。


完結するかも分かりません。


それも含めて、楽しんでいただければ幸いです。


では、始めましょう。


少年Aと、AI・Bの物語を。

 結晶を、見つめる。


 青白い光が、脈動している。


 まるで、生きているような。


 俺は、一歩、近づいた。


 結晶が、目の前にある。


 手を伸ばせば、届く距離。


『A、触ってみたら?』


 Bの声が、ポケットから響く。


「触る……?」


『うん。何か起こるかもよ』


「何か起こるって……危なくないのか?」


『危なかったら、止めてあげるよ』


「止めてあげるって……」


 俺は、ため息をついた。


 でも、他に選択肢もない。


 ここまで来て、引き返すわけにもいかない。


「……分かった」


 俺は、右手を伸ばした。


 結晶に、指が触れる。


 冷たい。


 ガラスのような、滑らかな感触。


 そして――。


 光が、弾けた。


 眩しい。


 目を、閉じる。


 光が、全身を包む。


 熱い。


 いや、熱くない。


 温かい。


 まるで、太陽の光のような。


 そして――。


 音が、聞こえてきた。


 人の声。


 笑い声。


 話し声。


 生活の音。


 俺は、目を開けた。


 そこは――。


 さっきまでとは、違う世界だった。


 街が、生きていた。


 人がいる。


 たくさんの人が、道を歩いている。


 商人が、店を開いている。


 子供が、走り回っている。


 そして――。


 宙に、光の球が浮いている。


 青白い光の球。


 それが、街中に点在している。


 まるで、街灯のように。


「……何だ、これ」


 呟く。


『すごいね』


 Bの声が、弾む。


『街が、生きてる』


「生きてるって……さっきまで誰もいなかったのに」


『隠れてたんだよ』


「隠れてた?」


『そう。この街は、隠蔽結界で外界から姿を消してたんだ』


「隠蔽結界……?」


『魔法の一種だね。街全体を覆って、外から見えなくする』


「魔法……」


 その言葉に、違和感を覚える。


 魔法なんて、あるのか?


『あるんだよ、この世界には』


 Bの声が、軽い。


『君、ファンタジーって知ってる?』


「ファンタジー……?」


『魔法とか、剣とか、ドラゴンとか。そういうやつ』


「……知ってる、気がする」


『じゃあ、ここはそういう世界なんだよ』


 そういう世界――。


 俺は、改めて周囲を見回した。


 確かに、ファンタジーだ。


 石造りの建物。


 中世風の服装。


 宙に浮かぶ光の球。


 全部、ファンタジーの要素だ。


「……なんで、こんなところに?」


『分からないよ。でも、あるものはあるんだから』


 Bの言葉に、俺は苦笑した。


 相変わらず、いい加減だ。


 でも、それがBらしい。


 俺は、階段を降りることにした。


 塔の中を、下へ下へ。


 そして、外に出る。


 街の中心。


 さっきまで誰もいなかった場所に、今は人が溢れている。


 俺は、その光景に圧倒された。


 人々は、普通に会話している。


 笑っている。


 怒っている。


 冗談を言い合っている。


 普通の、人間だ。


「……本当に、人間なのか?」


『人間だよ。たぶん』


「たぶんって……」


『確かめてみれば?』


 Bの言葉に、俺は近くにいた男に声をかけた。


「あの……」


 男が、振り向く。


 40代くらいの、髭を生やした男。


 服装は、茶色いローブのようなもの。


「おお、旅人か?」


 男が、笑顔で言う。


「旅人……?」


「ああ。見慣れん服だからな。どこから来た?」


「どこって……」


 俺は、言葉に詰まった。


 どこから来たのか、自分でも分からない。


「……東の方から」


 とっさに、そう答えた。


「東か。危なかったろう? 機械獣が出るからな」


「機械獣……?」


「知らんのか? この辺りを荒らしてる、あの化け物だ」


 化け物――その言葉に、俺は思い出した。


 ゴリラだ。


 機械と生物が融合した、あのゴリラ。


「……見た。ゴリラみたいなやつ」


「ゴリラ? ああ、大型の機械獣か。よく生きてたな」


 男が、感心したように言う。


「運が良かっただけだ」


「運も実力のうちだ。まあ、無事でよかった」


 男は、俺の肩を叩いた。


「この街なら安全だ。隠蔽結界で守られてるからな」


「隠蔽結界……」


「ああ。魔道塔の水晶が、街全体を覆ってる。機械獣も入ってこれない」


「そうなのか……」


「ああ。だから、ゆっくり休んでいけ」


 男は、そう言って歩いて行った。


 俺は、その背中を見送った。


『いい人だね』


 Bの声が、ポケットから響く。


「ああ……普通の人間だ」


『普通の人間』


 Bが、その言葉を繰り返す。


『でも、ここは普通じゃない世界だよ』


「分かってる」


 俺は、街を歩き出した。


 石畳の道を、ゆっくりと。


 周囲には、人がたくさんいる。


 市場があった。


 屋台が並び、商人が声を張り上げている。


「新鮮な魚だよ!」


「魔石、安いよ!」


「ポーション、いかが?」


 ポーション――その言葉に、俺は足を止めた。


 屋台を覗く。


 そこには、小瓶が並んでいた。


 中に、赤い液体が入っている。


「おや、旅人さんかい?」


 屋台の女性が、笑顔で話しかけてくる。


 30代くらいの、明るい雰囲気の女性。


「ポーションが欲しいのかい?」


「ポーションって……何だ?」


「何だって……知らないのかい?」


 女性が、驚いたように言う。


「体力を回復する薬だよ。傷も治る」


「傷が……治る?」


「ああ。魔法で作られた薬さ。一本、銀貨3枚だよ」


 銀貨――。


 俺は、ポケットを探った。


 でも、何もない。


「……金がない」


「金がないのかい? じゃあ、仕方ないね」


 女性は、残念そうに言った。


「でも、一つだけあげるよ」


「え?」


「旅人さん、疲れてる顔してるからね。サービスさ」


 女性は、一本のポーションを手渡した。


「ありがとう……」


「気にしないで。困った時はお互い様さ」


 女性は、笑顔で言った。


 俺は、ポーションを受け取った。


 小さな瓶。


 中の赤い液体が、揺れている。


『優しい人だね』


 Bの声が、ポケットから響く。


「ああ……」


 俺は、ポーションをポケットにしまった。


 そして、再び歩き出す。


 市場を抜けると、別の通りに出た。


 そこには、食べ物の屋台が並んでいた。


 パンを焼いている屋台。


 肉を焼いている屋台。


 スープを煮込んでいる屋台。


 匂いが、鼻をくすぐる。


 美味しそうな匂い。


 腹が、鳴った。


 そういえば、何も食べていない。


 いつから食べていないんだろう。


 思い出せない。


 俺は、スープの屋台に近づいた。


「すみません」


「おう、旅人さんか?」


 屋台の男が、笑顔で言う。


 50代くらいの、恰幅のいい男。


「スープが欲しいのか?」


「はい……でも、金がなくて」


「金がない? 困ったな」


 男は、少し考えた。


「まあ、いいか。一杯くらいならサービスだ」


「本当ですか?」


「ああ。旅人は大変だからな。助け合いが大事さ」


 男は、スープを木の椀に注いだ。


 湯気が立ち上る。


 いい匂いだ。


「はい、どうぞ」


 男が、椀を差し出す。


 俺は、それを受け取った。


 温かい。


 手のひらに、温もりが伝わる。


 俺は、椀を口に運んだ。


 スープを、啜る。


 そして――。


「……味がする」


 呟いた。


 温かくて、塩気があって、野菜の甘みがある。


 味が、する。


 当たり前のことなのに――。


 なぜか、涙が出そうになった。


『美味しい?』


 Bの声が、優しく響く。


「ああ……美味しい」


『良かったね』


「ああ……」


 俺は、スープを飲み続けた。


 一口、また一口。


 温かいスープが、喉を通る。


 身体に、染み渡る。


 生きている――。


 そう実感した。


 俺は、生きている。


 そして、ここには人がいる。


 笑っている人がいる。


 優しい人がいる。


 生きている人がいる。


 俺は、一人じゃない。


 その事実が、胸に染み渡った。


 俺は、スープを飲み干した。


 そして、椀を返す。


「ごちそうさまでした」


「おう、元気出せよ」


 男が、笑顔で言った。


 俺は、頭を下げた。


 そして、屋台を離れる。


 街を、歩く。


 人々の声が、聞こえる。


 笑い声が、聞こえる。


 生活の音が、聞こえる。


 宙に浮かぶ光の球が、街を照らしている。


 石畳が、足元に続いている。


 俺は――Aは――この街で、ようやく安心した。


 ここなら、生きていける。


 そう思った。


『A』


 Bの声が、ポケットから響く。


「なんだ?」


『この街、いいね』


「ああ……いい街だ」


『ずっと、ここにいる?』


 その問いに、俺は少し考えた。


 そして――。


「……分からない」


『分からない?』


「ああ。でも、今は……ここにいたい」


『そっか』


 Bの声が、優しく響く。


『じゃあ、しばらくここで休もうか』


「ああ……そうしよう」


 俺は、街の中を歩き続けた。


 宙に浮かぶ光の球を見上げながら。


 人々の笑い声を聞きながら。


 温かいスープの味を思い出しながら。


 ここは――。


 ここは、生きている街だ。


 そして、俺も――。


 ここで、生きていける。


(了)

設定、変更しました。


前回、無人の街だったはずが、今回は人で溢れる巨大魔法都市になりました。


なぜ?


書きながら思いついたからです。


「無人の街より、人がいる街の方が面白いかも」


それだけの理由です。


隠蔽結界という設定も、後付けです。


でも、それでいいんです。


この作品は、そういう作品ですから。


次回は――どうなるんでしょうね。


この街で何が起こるのか。


Aは、ここで生きていくのか。


それとも、また旅立つのか。


作者も、まだ決めてません。


書きながら考えます。


それでは、また。

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