表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/19

第17話「抹消」

これから始まる物語は、少し変わっています。


設定が崩壊します。矛盾します。破綻します。


でも、それでいいんです。


なぜなら、この作品のテーマは「崩壊」そのものだから。


作者「MOON RAKER 503」が、その時思いついた設定を適当に投入します。


故に矛盾します。


作者自身、コントロール不能な物語です。


ゴールも分からないままスタートします。


完結するかも分かりません。


それも含めて、楽しんでいただければ幸いです。


では、始めましょう。


少年Aと、AI・Bの物語を。

 空が、止まった。


 雲が動かない。


 風が吹かない。


 鳥が鳴かない。


 虫の羽音すら、消えていた。


 世界が、呼吸を止めたかのように――静止していた。


 俺は歩みを止めた。足音が、妙に響く。まるで、この世界に音を立てているのが俺だけであるかのように。


 草が揺れない。木の葉が動かない。


 空気そのものが、凍りついている。


「……これは、来る」


 Dの声が、低く響いた。


 彼女は立ち止まり、ただ空だけを見上げていた。端末も見ない。周囲も見ない。ただ、空だけを。


 俺は空を見上げた。


 青い空。白い雲。


 どこにも異常は見えない。


 雲の形も、昨日と変わらない。太陽の位置も、正常だ。


 だが、確かに何かが"違う"。


 この空は、絵だ。


 動かない絵を、俺は見ている。


「D、何が来る?」


「……分からない」


 Dは端末を見つめたまま、動かない。


 その指先が、僅かに震えている。


「でも、来る。確実に」


 Dは呟いた。


「世界が……準備を終えた」


 その言葉に、背筋が凍った。


 準備。


 何の?


 答えは、すぐに分かった。





 次の瞬間、Bの声が途切れた。


『A、ちょっと――』


 ノイズ。


 耳を劈くような高周波ノイズ。


 そして、静寂。


「B?」


 返事がない。


 ポケットの中のスマホを取り出す。画面が点滅している。


 エラーコードが、無数に流れている。数字、記号、意味不明な文字列。Bの内部で、何かが壊れていく。


『――演算、停止。解析、不能。対象、未定義――』


 Bの声が、機械音に変わっていく。


 感情がない。温度がない。


 ただの、プログラムの残骸だ。


『A……これ、回避対象じゃない』


「どういう意味だ?」


『回避できない。逃げられない。存在できない』


 Bの声が、一音ずつ遅くなっていく。


『世界が……私たちを……上書きする』


 Bの声が、消えた。


 画面が、真っ黒になった。


 俺は画面を何度も叩いた。揺すった。呼びかけた。


「……B! B!」


 だが、Bは応答しない。


 画面には、何も映らない。


 初めてだ。


 Bが、完全に沈黙したのは。


 俺の相棒が、消えた。





 Dの端末が、警告音を発した。


 それは、低く、不吉な音だった。


 まるで、世界の終わりを告げる鐘のような。


 彼女は画面を見つめ、指を何度も滑らせた。


 コマンドを入力する。解析を試みる。データを読み取ろうとする。


 だが、全てが無駄だった。


 画面には、ただ一言だけが表示されていた。


 ――解析不能。


 そして――端末が、Dの手から滑り落ちた。


 地面に落ち、画面が割れる。


 ガラスの破片が、地面に散らばった。


「D?」


「……解析不能」


 Dの声が、震えている。


 彼女が震えるのを、俺は初めて見た。


「全てのセンサーが、"対象なし"を返してる」


「何が来るんだ?」


「分からない。でも……」


 Dは空を見上げた。


 その瞳には、恐怖があった。


 いつも冷静なDが、初めて恐怖を見せた。


「世界が、私たちを"削除"しようとしている」


 削除。


 その言葉が、胸に刺さった。


 殺すのではない。


 倒すのでもない。


 ただ、"なかったこと"にする。


 それが、世界の答えだった。





 Eの斧が、激しく振動し始めた。


 金属音が響き、刃が震える。


 いや、震えているのではない。


 斧そのものが、"拒絶されて"いる。


 世界が、Eの斧の存在を許さない。


 Eは斧を地面に突き立てようとしたが――重力が効かない。


 斧が、宙に浮いた。


 Eの手を離れ、ゆっくりと回転しながら、空へと昇っていく。


 まるで、重力が逆転したかのように。


「……E!」


 俺は叫んだ。


 Eは無言で斧に手を伸ばしたが、届かない。


 彼の指先が、斧の柄をかすめる。だが、掴めない。


 斧は、そのまま空へと消えていく。


 そして――光の粒子となって、散っていった。


 まるで、最初から存在しなかったかのように。


「……任務、失敗」


 Eが、呟いた。


 その声には、初めて"諦め"が混じっていた。


 Eは膝をついた。両手を地面につき、ただ俯いている。


 彼の巨体が、小さく震えていた。


「E……」


 俺は声をかけようとしたが、言葉が出なかった。


 Eの武器が消えた。


 それは、Eの存在意義が消えたということだ。





 Cの影が、消えた。


 完全に。


 彼女の足元に、何も映っていない。


 太陽は照っている。光は地面に届いている。


 なのに、Cだけが影を持たない。


 まるで、Cが"存在していない"かのように。


「C!」


 俺はCに駆け寄った。


 彼女は俺を見上げる。その瞳は、いつも通り静かだ。


「A……私、消える?」


「消えさせない」


 俺はCの手を握った。


 だが、その手が――薄い。


 触れているのに、感触がない。


 まるで、透明なガラスを握っているような。


 いや、違う。


 ガラスではない。


 Cは、もう"質量"を持っていない。


「……ごめんね、A」


 Cは微笑んだ。


 その笑顔が、悲しいほど穏やかだった。


「私、最初から……いなかったのかも」


「違う!」


 俺は叫んだ。


「お前は、ここにいた! 俺が名前をつけた! お前は、Cだ!」


「……うん」


 Cは頷いた。


「ありがとう。名前、嬉しかった」


 Cの姿が揺らぎ始めた。


 輪郭が滲み、色が薄れていく。


 彼女の身体が、光に溶けていく。


「待て、C!」


 俺は彼女を引き留めようとした。


 だが、俺の手は空を掴んだ。


 Cの姿が、完全に透明になった。


「……ありがとう。A」


 Cの声が、遠くなる。


 風に溶けるように、消えていく。


 そして――消えた。


 俺の手の中には、何も残っていなかった。


 温もりも、重さも、何もない。


 Cは、消えた。


 世界が、彼女を"削除"した。





 夜空に、一点の光が現れた。


 いつの間にか、夜になっていた。


 時間の感覚が、ない。


 昼だったはずなのに、空は暗い。


 星が瞬いている。


 そして、その中に――一つだけ、動く光があった。


 流星ではない。


 それは、真っ直ぐに――俺たちに向かって落ちてくる。


 速度も角度も、完璧だった。


 まるで、最初からそこに落ちるように計算されていたかのように。


 誤差、ゼロ。


 迷い、ゼロ。


 これは、処刑だ。


「……隕石」


 Dが呟いた。


 彼女は端末を見ていない。ただ、空を見上げている。


「世界が……結論を出した」


 俺は空を見上げた。


 光が、どんどん大きくなっていく。


 音はない。


 ただ、光だけが迫ってくる。


 その光は、美しかった。


 まるで、世界の意思が形になったかのように。


 純粋で、冷酷で、絶対的な光。


 俺は、その光から目を離せなかった。


 恐怖ではない。


 諦めでもない。


 ただ、見ていた。


 この光が、俺たちの終わりだと理解しながら。


 光が近づく。


 空気が震える。


 地面が揺れる。


 だが、音はない。


 ただ、光だけが――静かに、確実に、迫ってくる。


 美しい終わりだ、と俺は思った。


 こんな風に消えるなら、悪くない。


 いや――本当にそうか?


 俺は、本当にそれでいいのか?


「A」


 Dが俺の隣に立った。


 彼女の表情は、いつも通り冷静だ。だが、その目には――諦めがあった。


「退避命令は?」


「……出せない」


 俺は答えた。


「逃げ道が、ない」


 本当に、ない。


 どこへ逃げても、あの光は追ってくる。


 速度を上げても、距離を取っても、隠れても――無駄だ。


 あれは、俺たちを"消すため"に来ている。


 逃げ場など、最初から存在しない。


「そうか」


 Dは頷いた。


「なら、ここで終わりだ」


 彼女は、小さく息を吐いた。


「A。悪くなかった」


「……ああ」


 俺も頷いた。


「お前も、な」


 Eが、俺たちの前に立った。


 斧はない。武器もない。だが、Eは両腕を広げ、空を見上げた。


「……盾になる」


「E、無理だ」


 俺は言った。


「あれは、防げない」


「それでも」


 Eは動かない。


 その背中が、まるで壁のように見えた。


「任務だから」


 その言葉に、俺は何も言えなくなった。


 Eの任務。


 守ること。


 それが、彼の全てだった。


 たとえ、守れなくても――。


 俺は、空を見上げた。


 光が、もうすぐそこまで来ている。


 あと、数秒。


 いや、もっと短いかもしれない。


 俺は――何を考えている?


 Bのこと。


 Cのこと。


 D、E。


 みんな、消えた。


 俺も、消える。


 それでいいのか?


 ……いや、よくない。


 でも、どうしようもない。


 逃げられない。


 戦えない。


 ただ、受け入れるしかない。


 世界の、答えを。





 光が、視界を覆った。


 熱も、音も、何もない。


 ただ、白だけが広がっていく。


 世界が、白に染まる。


 地面が消える。空が消える。


 色が消える。音が消える。


 全てが、白に還っていく。


「……ここまでか」


 俺は呟いた。


 Bの声は聞こえない。


 もう、ポケットの中にスマホもない。


 いつ消えたのか、分からない。


 Cの姿も見えない。


 彼女の笑顔も、声も、温もりも――全て、消えた。


 Dは、どこにいる?


 さっきまで隣にいたはずなのに、もう見えない。


 Eは――。


 もう、分からない。


 俺の視界から、全てが消えていく。


 仲間が消える。


 武器が消える。


 記憶が消える。


 そして――俺自身が、消えていく。


 手が見えない。


 足が見えない。


 自分の身体が、もう存在しない。


 俺は、誰だ?


 名前は――A。


 そうだ、俺はAだ。


 でも、それも――消えていく。


 世界が、白に染まっていく。


 視界が消える。


 音が消える。


 感覚が消える。


 思考が消える。


 存在が消える。


 そして――。





 何もなくなった。


 都市は、地図から消えた。


 その街の名前を、誰も思い出せない。


 どこにあったのか、誰も知らない。


 そもそも、その街が存在したのか――誰も確認できない。


 記録も、消えた。


 紙の記録、電子データ、石碑、看板――全てが、書き換えられた。


 最初から、その街は存在しなかった。


 他の都市の人々の記憶からも、その街の名前は失われた。


 昨日まで取引していた商人も、忘れた。


 家族がそこに住んでいた者も、忘れた。


 地図を描いた者も、その場所を空白にした。


 アルファベット・サーカス。


 A、B、C、D、E。


 五人の名前も、誰も覚えていない。


 彼らが何をしたのか、誰も知らない。


 そもそも、彼らが存在したのか――記録がない。


 最初から、存在しなかったかのように。


 世界は、静かに"修正"を完了した。


 異常変数:未発生。


 エラー:なし。


 ログ:クリア。


 全てが、正常だった。


 世界は、バグを削除した。


 そして、何事もなかったかのように――動き続けた。





 世界は、何事もなかったかのように回り続けた。


(了)


 17話、お読みいただきありがとうございました。


 ……と言っていいのか分かりませんが。


 アルファベット・サーカスは、消滅しました。死亡ではなく、"存在の否定"です。世界が、彼らを"最初からいなかった"ことにしました。


 隕石は、ただの手段です。本質は、世界が異常変数を削除したということ。A たちは、世界にとって"バグ"だったのです。


 ……これで終わり? いえ、違います。


 次回、18話があります。


 「消えた」はずの彼らが、どうなるのか。


 それは、次回をお待ちください。



【MOON RAKER 503】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ