大樹
「ここが……森妖精の国……。」
首無し騎士達の眼前に広がるのは、一面の緑。吸い込む空気は限りなく澄んでおり、街と空輸うの重苦しさを一切感じない。この環境の中で走り込みをしたならばどこまでも走っていけそうだ。
しかし、その清い空気とは裏腹に森妖精達の視線は鋭く、睨むような目つきで首無し騎士への不信感をあらわにしていた。
排他的というので有名な森妖精達ではあるが、おそらくジャック達だけで赴けば彼らの視線は幾分か緩和されていたことだろう。
全ては浮上の存在である不死者が聖なる空間であるこの地、アールヴに入り込んだからこその視線だ。
その証拠に、四方から「何故不死者がこの国に……?」「ディネリントが連れてきたのか?」という声がひそひそと聞こえてくる。
「やはり私を連れてきたのは……」
「それ以上言ったら怒るぞ。」
「まぁ、いつものことだしね。」
「そのうちこいつらもわかってくれるだろ。」
首無し騎士が言葉を言い終わる前に、各々が慣れたように発言する。
どうにも首無し騎士の後ろ向き思考は治る気配がない……それどころか旅を進めるたびに酷くなっていくように感じる。
これは生来の性格の問題なのだろう……要するに、責任を一人で背負い込みすぎるのだ。
彼女一人のせいでもないことを、自分のせいだと思い込む……これも一種の美徳なのかもしれないが、こうも頻繁だと疲れる。
正直、イライラする。
ここで、ジャックは違和感を覚えた。
首無し騎士の弱音の吐露を一蹴していると、周りで噂している内容が少し変わっていることに気が付く。「あの不死者しゃべらなかったか?」「もしかして……首無し騎士?」「魔王の影響を受けなかった個体がいたのか?」と首を傾げている。
魔王の影響とは何なのだろうか。何故、頭だけの状態の彼女が首無し騎士なのだと即座に判断できたのだろうか?
疑問に思ったジャックは此方を見て話している森妖精に話を聞いて見ようと思った。
「さぁ、着いたよ。ここがアールヴの中心、精霊樹だ。」
ジャックが離れようしたのと同時にディネリントが立ち止まる。
聞き耳を立てて噂話を聞くことに集中していたせいで、目的地に辿り付いていることに気が付かなかった。
「遠目から見た時は、そういう形の建造物だと思ってましたけど……これ、本当に生えてる樹じゃないですか?」
「そ!この大樹には一対女樹妖精が宿っているの。樹齢10億年は優に超えている私たちの象徴。」
「樹齢10億年!?」
途方もない数値にその場にいた全員が驚愕する。想像が出来なさ過ぎてただただ大樹を見上げるしかない。
「まぁ、彼女に比べたら私達なんて幼子もいいとこよねぇ。」
「幼子どころか最早点でしょ……」
クリス・ケラウス自身、自分が何を言っているのかわからない。しかし、衝撃が強すぎて頭が回らないのだからしょうがないではないか。
「ささ、中で元老が待ってるはずだから、さっさといこう。」
一行はディネリントに促されるまま大樹の中へと足を踏み入れる。
大樹の中は暗くどんよりとしている……なんてことはなく、明るくてほんのり暖かい。
周囲をよく観察してみると、壁と言っていいのか……木々の側面に生えている苔がやんわりと柔らかい光を放っていた。
「よく帰ったね、ディネリント。」
大樹の内部を見渡していると、不意に優し気な声が聞こえてくる。
声の主はジャック達の真正面に立っていた初老の男性だ。白い長髪を自然に流しており、毛先を木細工の髪飾りでまとめている。
その男性の隣には、森妖精の国入り口でみんなを出迎えてくれたラエルノアと呼ばれた女性がいた。
「ただいま、おじさん。」
「ああ、おかえり……それと……」
男性はディネリントに挨拶をすると、改めてジャック達に向き直る。
「皆さんもよくお越し成された。私は”太陽の息子”アノーリオン。このアールヴで元老を務めさせてもらっている高位森妖精だ。」
「あ……これはご丁寧に……クリス・ケラウスです。」
「ロザン・リクレイっす。」
「トト・ルトラです……」
「ジャック」
「私は……」
首無し騎士が自己紹介をしようとした途端に、アノーリオンが目を見開く。
すると、珍しいものを観察するように、まじまじと観察し始めた。
「あ……あの……」
「これは……まさか私達以外に魔王の影響を受けなかった者がいようとは……!」
籠越しの視線とはいえ、首無し騎士は戸惑い、口ごもる。そんな彼女を庇うかのように、ジャックは籠を引っ込ませてアノーリオンをにらみつけた。
そのジャックの様子をみて、アノーリオンはコホンと軽く咳払いをすると、「おっと……申し訳ない」と取り繕う。
「どうしたの……?」
「いや、ディネリント……彼女はおそらく首無し騎士だよね?」
「そ……そうだけど……」
「そうか……あれらは全て不死者になってしまったと思っていたが……まさか妖精のままでいられた首無し騎士が生き残っていたとは……」
「……っ!どういうことだ!!」
妖精の首無し騎士。
ジャックが抱え込んでいた疑問を口にされ、軽く取り乱す。その様子に面食らった様子のアノーリオンが少し戸惑いを見せると、ディネリントがフォローを入れる。
「彼は……ジャックはある文献で”妖精とされる首無し騎士もいるって知ってから、ずっと調べてたのよ。彼女……イライザのために。」
「そうか……魔王が顕現したのはディネリントが生まれた年のことだからお前が知らないのも無理はない。そう……あれは1800年前のことだ。」
アノーリオンはポツリポツリと語り始めた




