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森妖精の国

リペリシオン王国、中央教会。

仮執務室。


「隊長!冒険者として潜んでいた邪神崇拝者の身元が割れました!」


「そうか!如何だったんだ!?」


「クリミア聖王国の使節団にも確認を取りましたから間違いありません!奴らは以前聖王国で反聖女王を掲げていた聖王国の民達です!」


「…………馬鹿な」


火竜(レッドドラゴン)従来以前、クリミア聖王国では二分された宗教観の違いから内乱が起こっていた。

災厄とも似た火竜(レッドドラゴン)により聖王国は壊滅的な被害をうけ、その復興に追われるうちにいつの間にか内乱はおさまっていたと聞き及んでいたが……今回捕まった者たちの多くがその反乱分子達だった。


クリミア聖王国の内乱がおさまったのは火竜(レッドドラゴン)従来の副産物ではなく、そもそも内乱を引き起こしていた反乱分子がまるまるリペリシオン王国に移動していたからだったのだ。


「……無理を通して使節団を呼んだ甲斐があったな。」


「自国の復興中であるクリミア聖王国から王城の復興支援を募るなんて……普通あり得ないですからね。」


捉えた邪神崇拝者達は皆こぞって聖王国訛りがあった。

そのことに違和感を覚えたリリア・フォードリアスがデューク司祭やリトス司祭と相談し、“復興支援”のお題目でクリミア聖王国から使節団を派遣してもらったのだ。


「しかし……“宗教観の違い”がまさか邪神信仰だなんて夢にも思いませんでした。」


「聖王国としては自国からそんな連中が出てきたとあっては大恥だからな……内乱の詳しい説明をしてこなかったことにも納得がいく。」


「はい……しかし、妙な証言をする者もおりまして……」


「妙な証言?」


「はい……なんでも、内乱を起こしたのも改宗したのも……全部獣人(ビーストマン)の女王に言われたから実行したんだとか……詳しく吐かせようとはしているのですが、それ以上のことは……」


「……確かに妙な証言だな。」


如何してクリミア聖王国の民が他国の女王の言うことを聞かなくてはならないのだろうか……?それも、あんな熱心に……リペリシオン王国に入り込むという間者(スパイ)じみたことまでして……


「……クリミア聖王国の反乱分子以外に捉えた邪神崇拝者は全員獣人(ビーストマン)だったな?」


「はい。」


リリア・フォードリアスは眉間に皺を寄せて考え込む。

急激に存在が顕になり始めた邪神崇拝者……今までその要因は“傀儡(くぐつ)のアリス”と呼ばれている魔族が人々を惑わせているのだと考えていた。

……しかし、どうやらあの魔族()()が原因ではないようだ。


獣人(ビーストマン)の女王……いったい何を企んでいるんだ。」


リリア・フォードリアスの疑問が解消されるのはまだ先の話になるだろう。



木々の間を澄んだ空気が通り抜けていく。

その空気と共に大地を駆けていく人物がいた。


「おや、ラエルノア。今日も花畑に行くのかい?」


「ええ!今日は新しい種を植えてみるの!」


「そうかい、くれぐれも気の外には出ないようにな。」


「わかってる!」


流れるような白に近い金髪を三つ編みにした少女は道すがら出会った男性と軽く挨拶をして目的の場所へと急ぐ。

その場所は様々な種の花が一年中枯れることなく咲き乱れる花畑であり、“抜け道”を使用した人々の出入り口になっている場所だ。

故郷に帰ってきた同胞が一番最初に目に映す景色が綺麗な花畑だと素敵……そんな想いのもとラエルノアが管理している花畑。

おかげか、国の森妖精(エルフ)にも帰ってきた森妖精(エルフ)にも好評であり、「この花畑を見ると故郷に帰ってきた感じがする」と褒めてもらえるほどだ。


しかし、彼女の研鑽は尽きることない。森の外にいる同胞がいる以上、日々彼女の邁進は行われていく。

……そして、今日も彼女の頑張りが報われるのだ。


「へぇ……見ない間にまた賑やかになったんじゃない?こよ花畑。」


聞き覚えのある声が木々の間から抜けてくる。

青緑の瞳、絹のような金髪。“沈黙の音色”を意味する名前とは裏腹に、お喋り好きな同胞が300年ぶりに帰ってきた。


「ディネリント?」


「ラエルノア。ただいまー」


なんとも軽い再会の挨拶。

それもそうだ。300年などたいした年数ではない…………しかし、彼女が森の外に出ていた300年はいつもの300年とはだいぶ毛色が異なるのだ。


「ただいまー……って!ディネリント!身体は大丈夫なの!?怪我とかしてない!?魔王との戦いは大変だったでしょう!?闇妖精(ダークエルフ)に襲われなかった!!?」


ラエルノアはディネリントに駆け寄ると、身体の隅々を確認する。

高位森妖精(ハイエルフ)達の帰還申請を無視してずっと外にいたのだ。よっぽどの事情があったに違いないはず……


「お……落ち着いて……恥ずかしいから……」


心配するラエルノアをよそに、ディネリントは彼女をぐいっと引き離す。

ディネリントの後ろをよく確認すれば、何人かの人間(ヒューマン)がまじまじとこちらを見つめていた。


「あらやだ……私としたことが……初めまして、私は“夏の陽”のラエルノア。皆さんが勇者一行ですよね?友達がお世話になりました。」


「え?」


ラエルノアの発言にクリス・ケラウスは思わず疑問を口にしてしまう。

しかし、驚き、動揺したのはクリス・ケラウスだけではない。ディネリント以外みんな一様に面くらった表情を浮かべていた。


「いやいや……勇者たちはとっくに寿命で死んじゃったよ。」


「え!?でも魔王が討たれたのってついこの前……」


ディネリントは腰に手を当てて深いため息をつく。

これが時間感覚のズレだ……ディネリントのように長く人間社会で過ごしたならともかく、幾年も大きな変貌のない故郷(アールヴ)にいたのでは絶対に覆ることのない認識のズレ……。


人間(ヒューマン)の寿命は私たちよりずっとずっと短いって知ってるよね?」


「え……短いとは聞いたけど……まさかそこまで?」


「ははは……まぁいいや……ラエルノア、早速で悪いんだけどアノーリオン元老に取り継いで貰えないかな?」


「お祖父様に……?うん、それは構わないけど……」


ラエルノアは少し戸惑った素振りを見せると、ディネリントの耳元に口を近づけさせる。


「あとで外でのお土産話聞かせてね?」


ラエルノアはそう言うと、森妖精(エルフ)の国中心にある大樹の元へ駆け出して行った。

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