秘密の抜け道
「なぜ私はこのような扱いを受けている……」
不服そうな声音で首無し騎士が呟く。
今現在、彼女はパーティメンバー全員から監視されながら運ばれていた。それも小さな箱型の檻に入れられて……まさに晒し首状態である。
「救世主願望持ちのお馬鹿さんはすぐに極端な結論を下しかねないからね。」
「みんなで見張ってる必要があります。」
「極端な結論って……そもそも頭だけでは如何しようも……」
ディネリントとクリス・ケラウスに反論しようとする首無し騎士。しかし、その語気は弱々しく、自信なさげだ。
中央教会で自分の処分方法を検討していたことをディネリントにとジャックに咎められてからずっとこの調子である。
「…………助け舟出さなくていいのか?」
「いいだろ、自業自得だし。」
「ちょっと可哀想になってきたんだけど……」
ロザン・リクレイ、ジャック、トト・ルトラの男性陣は女性陣を眺めながらそんな話をする。
時折、首無し騎士がジャックに視線を送っているが、三人とも気が付かないふりをして野営の準備をしていた。
そもそも心配をかけさせておいて、あれぐらいで済まして貰えているだけ温情だろう。
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「さて……じゃあ改めて、活動方針のおさらいをしておこう。」
焚火を中心にして円になるように座り、発言したクリス・ケラウスを注目している。
今現在、彼らはリぺリシオン王国からはなれ、ディネリントの故郷である森妖精の国へと旅の足を運んでいる。
最終戦争以前から生きている高位森妖精達から魔王因子や魔族についての詳しい知見を伺いに行くためだ。勿論、リぺリシオン王国中央教会の了承を受けている。
…………それともうひとつ、ジャックには目的があるのだが……。
「森妖精の国はできるだけ外界との接触を避けているけれど、同じ森妖精であるディネリントが身元を保証すればみんなも足を踏み入れることが出来ると思う。」
「森妖精の国に行くなんて、ちょっとワクワクするね。」
「うん……ソレと、ちょっと緊張してる。」
「ビビることあるか?」
見な各々森妖精の国へと赴くことへの心境を吐露していく。
それも無理はない……森妖精の国から森妖精が出てくることはあっても、人間が森妖精の国へと赴いたというのは聞いたことがない。
あっても、ソレはほとんどお伽話で語られている物が多く……どの森妖精も自国へ入る方法を頑なに語ろうとしないため、森妖精の国がどこにあるのか、どうやって赴くことが出来るのか、誰も知らないのが現状だ。
そして、森妖精の国がある大森林に不用意に近づけば闇妖精と森妖精間での争いに巻き込まれかねない。
故に森妖精の国がどんなところか誰も知らないのである。
「それで……どうやって大森林を安全に闊歩する気なんだ?」
「ん……?いや?大森林になんて入らないけど?」
ジャックの質問にディネリントはきょとんとした表情で即答する。何を当たり前のことを聞いているんだ?と言わんばかりの顔だ。
「大森林になんて不用意に入ったら森妖精と一緒に行動してる人間なんてすぐに闇妖精に捕まって捕虜にされるにきまってんじゃん。」
「……え?」
「長命種に捕まったらひどいよぉ~?時間間隔が違い過ぎて、最短期間の交流でもみんなおじいちゃんになっちゃうかも……」
「えぇっ!?」
ディネリントの脅かしに、クリス・ケラウスがわかりやすく動揺する。そこには先ほどまで好奇心に目を輝かせていた彼女の姿は微塵もなく、牢屋の中でしわがれていく自分を想像して恐れおののいているのがよくわかる。
そんな様子のクリス・ケラウスを見て、首無し騎士が深いため息を吐いて口を開いた。
「茶化してやるな……つまり、大森林を経由しないで森妖精の国へ入国する方法があるんだろ?」
「その通り!みんなには私がいるからね、ちょっとした”抜け道”を通っていくよ。」
ディネリントはにやりと笑うと、「じゃあ、詳しくはまた明日ね。」と一人そそくさと就寝してしまう。
抜け道とは何なのか、それじゃあ結局大森林を経由するのは変わらないのではないかと様々な疑問が浮かび上がってくるのだが、答えを知っている当の本人が眠りについてしまったため、疑問は起床されることなく、全員夜明を迎えることになる。
・
「だいたいここら辺までくれば大丈夫かな?」
夜が明け、日も高く上った頃。どうやら目的の場所に到着したようで、ディネリントが腰に両手を当てて立ち止まる。
「ここ……?」
トト・ルトラは疑問のあまり、声に出して問いかけた。
それもそのはず、その場所とはリぺリシオン王国近郊にある小さな森で、昨晩野営した場所からさほど離れていない個所であったからだ。
当然、目的としていた大森林へも全く近付いておらず、どれだけ好意的に解釈しても”着いた”とはとらえられないのだ。
全員から疑いの眼差しを向けられているディネリントであるが、当の本人は気に留めている様子もなく「まぁ見ててよ。」と笑顔で語るのみ。
「_____________。」
すると、突如ディネリントは森に向かって何かを言い始める。
”何か”というのも、感覚的にそれが”言葉”であることを直感するのだが、はっきりと喋っているようだというのに、何と言っているのか聞き取ることなどできず、またどうやって発語しているのかもわからない。
そんな奇妙奇天烈な”言葉”をディネリントは発音し、周囲の空気へ……森へと語りかけているのだ。
「なんだなんだ?」
「空気が……」
始めに異変に気が付いたのはロザン・リクレイ。次点でトト・ルトラだった。
風など拭いていないはずなのに木々がざわめき、揺らめいて……地面が移動している……。
いや、地面が移動しているのではない。木々の根が移動し始めているからそう錯覚しただけだ。
木々が移動している時点でありえない話なのだが…………
「なんだ……?周囲の木に顔が……?あの木からは誰か……少女が生えている……?」
ジャックの持つ籠の中から首無し騎士が可笑しなことを言い始める。彼女の見ている方向をジャックも確認してみるが、人面樹も木から生えている人も見つけることが出来ない。
しかし、ディネリントは感心したような表情を首無し騎士に向けると、「へぇ……イライザは認識できるんだ!」と話し始める。
「気に顔が付いているのは樹木人、木から生えているように見えるのは女樹妖精。どの森にもいる妖精なんだけど……私達以外で彼らを認識できたのは矮人達を除いてイライザが初めてかも」
ディネリントの話を聞いて、ジャックは個人的に抱いている仮説に対してかすかな希望を覚える。
矮人もかつては”土の妖精”だとされていた種族だ。その両種族しか認知できない妖精を認識することが出来た首無し騎士も、やはり妖精とされてきた首無し騎士なのではないか?
そのことを確かめるためにも森妖精の国で高位森妖精の知見をぜひとも聞きたいものだ。
ジャックがそんなことを考えている間に、周囲の木々は移動を完了したようで、一切動かなくなる。
木地が移動した個所。ディネリントの目の前には、淡く光る道が形成され、先が見えないほど一直線に伸びている。
「さぁ、この道を通れば森妖精の国……”アールヴ”に直行できるよ!」
そういうと、ディネリントはみんなを誘導するように腕を振り、さっさと歩き始めてしまう。
クリス・ケラウスやトト・ルトラも戸惑いこそしたが、ジャックやロザン・リクレイにせかされるようにして”抜け道”を歩き始めた。
彼らが抜け道へ入り、しばらくすると、また木々は静かに動き始めて……出来上がった道をきれいさっぱり隠してしまう。
そこに先ほどまで一本の道が出来ていたなど、誰も認知できず……ただただ鬱蒼とした森が広がっているだけだった。




