再接触
「…………いっそ、地中深くに埋めてしまうのは如何だろうか?」
「いや……それだと巨大芋虫などの地中に生息している魔物に捕食されるような事態が起きかねない……貴女の話では、二つの目の魔王因子は保持者を殺したことから受け継がれた節があるというじゃないか。」
「そうだな……ううむ……」
首無し騎士が隔離されている部屋の中にて、リリア・フォードリアスと首無し騎士が真剣に話し合いをしている。
話し合いの議題は、如何にして首無し騎士を消滅するかという物。
「細かく……それこそ粉微塵にしてしまうのは如何だろうか?いくら不死者でもそこまでいけば……」
「下級不死者の動死体でさえも同じように粉微塵にして魔物反応が消えなかったという報告があるのよ?上位不死者の貴女なら尚更その確率が高いわ。」
「そ……そうか……」
首無し騎士が頭を悩ませて提示する内容は悉くリリア・フォードリアスに却下される。
自身の消滅方法を自身で考える不死者というのはなんとも奇妙な図だ。
「…………難しいな。」
「もともと対抗手段が限られていた存在でったにも関わらず、その対抗手段が無力化されてしまったのだから、難しくないわけがない。」
やはり、あの一件以来、リリア・フォードリアスの口調には若干の棘がある。
人類の脅威になりつつある存在に対して、フレンドリーに接することなど無理なのは承知しているが、首無し騎士としてはソレがとてつもなく寂しかった。
せっかく、友となることが出来たと思っていたのだが……
二人で話し合いをしていると、突然リリア・フォードリアスの背後の扉からノック音が聞こえてくる。
「隊長。」
「なんだ?」
「クリミア聖王国から戻られたディネリント様が参られてます。」
「…………わかった、すぐに行く。」
部下の聖騎士の呼びかけにリリア・フォードリアスが立ち上がる。
「席を外している間に、何個か考えておくよ。」
「ああ……」
リリア・フォードリアスは首無し騎士をおいて部屋を後にする。
首無し騎士とて本当は消滅を望んでいるわけではない。
聖属性以外で滅ぼされればまたあの永遠に続く暗闇に放り出されるのだ、耐えられるとは思えない。
だが、そうな我儘を言っている場合ではないのだ。
首無し騎士にとっては、自分のせいで誰かが犠牲になることの方が耐えられない。
それなら、あの永劫の暗闇に落とされた方が幾分もマシなのだ。
・
リリア・フォードリアスが中央教会の応接間に到着すると、ディネリントがリトス司祭と話し合いをしている最中だった。
ディネリントの隣にはジャックとクリス・ケラウスが椅子に腰掛けており、ロザン・リクレイとトト・ルトラがその椅子の後ろに立っている。
リトス司祭の隣にはデューク司祭の姿があり、二人の話し合いには目もくれず、部屋に持ち込んだ資料に目を通していた。
今現在、このリペリシオン王国の国政を行っているのは、王城崩壊時に城にいなかった貴族達だ。そのまとめ役をデューク司祭が担っている。
その中でこの話し合いのためにわざわざ顔を出してくれたのだろう。それだけ、元勇者パーティの魔法使いの言は無視できないということだ。
「やぁ、来たね聖騎士隊長。」
「ご無沙汰しております、ディネリント様。」
リリア・フォードリアスが入室し、リトス司祭達が座っている椅子の後ろに立ったところで、ディネリントが喉を鳴らす。
「さて……じゃあ改めて言うけど、イライザの頭を私たちに預けてくれないかな?」
「……今なんと?」
ディネリントの発した言葉を、リリア・フォードリアスは思わず聞き返してしまう。
「今、この教会には邪神崇拝者たちが収容されている。そんなところにイライザを置いてたんじゃ、いつまた強奪されるかわからない。」
「…………それは承諾しかねます。彼女はここで……殺しますから。」
ディネリントの申し出をリリア・フォードリアスは毅然とした態度できっぱりと断る。その殺すという単語を聞いた瞬間に、ジャックは思いっきり机を拳で殴った。
「アンタ……それ本気で言ってんのか?」
「本気だ。」
「はっ!!友達ってのも所詮口だけか!!存在が危険だと判断したら即座に切り捨てんのかよ!!」
「それが彼女の望みだ。」
「はぁ!?」
怒り心頭になったジャックをまっすぐ見つめてリリア・フォードリアスは話を続ける。
「……彼女は不死者になりながらも、騎士道を失わなかったまごうことなき騎士だ。そんな彼女が人類の脅威になり始めている自分を看過できるわけがない。……その証拠に、先ほども私と共に自分が消滅する方法を思案していた。ならば私は友として、一切の情を捨てて彼女を葬らねばならない!」
「ふざけんな!!あいつはあの永劫の苦しみってやつをずっと怖がっていたんだぞ!?」
「他者が苦しむくらいなら自分が苦しんだ方が幾分もマシだ!!」
「てめぇ!!所詮他人事だからそんなことほざけるんだよ!!」
ヒートアップして椅子から立ち上がったジャックをクリス・ケラウスが抑えている。
しかし、当然ながらそのクリス・ケラウス本人も、後ろの二人も納得のいっている表情ではない。
当たり前だ。リリア・フォードリアスとて本心では納得などしていない…………だが、自分が首無し騎士と同じ立場に立たされたなら、迷うことなく彼女と同じ選択をするだろう。
「…………それで?その消滅させる方法は思いついたのか?」
酷く落ち着いた声が一瞬にして静寂をつくりだす。
その声の主は、先ほどまで資料に目を通していたデューク司祭だった。彼は紙の束を机の上に置き、視線をあげている。
「…………いえ、未だにこれといった案は浮かんできていません。」
「それでは仕方がないな。そうやって手をこまねいているうちに、また邪神崇拝者に奪われないとも言い切れない…………沙汰が決まるまではディネリント殿に預けてもいいのではないか?」
「しかし!!外に持ち出す方が危険です!!もしまたあの魔族が……」
「あの魔族が種撃してきてしまったらどのみち我々に対抗は難しい。それに比べて、勇者パーティの大魔法使い殿が危険物を守護してくれるのなら、この教会よりも強固な防壁となるだろう。」
デューク司祭はそれだけ語ると、深いため息を吐いて席を立ち、部屋を後にした。
「デューク司祭は自分の雇った冒険者の中に邪神崇拝者が紛れ込んでいたことに責任を感じているんだよ。警備を多く雇ったところで、その警備の中に間者がいたのでは意味がないってね……。」
「……ですから、今後は我々聖騎士のみで」
「正直言うとね、私も同じ考えだよ。勿論、聖騎士たちを疑っているわけでも軽視しているわけでもない。でも、先の王城崩落で多くの王国兵士が犠牲になり、その穴埋めを聖騎士が行っているのが現状だ。どうしても人手不足だし、多忙を極めればその分クロスライト殿の警備に穴が空く……なら、信用できる強靭な個に保護を頼んだ方が確実だと思ってね。」
リトス司祭は諭すような口調でリリア・フォードリアスに語り掛ける。
彼女も納得したのか、それ以上反論することは無く、ジャックに向き直った。
「……あくまで預かってもらうだけだ。確実な消滅方法が浮かび上がり次第、イライザ殿の頭は返却してもらうからな。」
リリア・フォードリアスの言葉にジャックは返答することなく、ただ勝ち誇ったような表情を彼女に向ける。
「あのー……預かるのは一応アタシなんだけどぉ」
ディネリントのがおずおずと手をあげたのはしばらく間が空いてからだった。




