七つのチカラ
リぺリシオン王国内にあるとある宿屋。その一室に、ジャック達は集まっていた。
「なるほどねぇ……まさか魔族の残党だなんて……それに邪神崇拝も……」
ジャック達から事情を聴いたディネリントは頷きながら情報を咀嚼する。
彼女の方はリぺリシオン王国への支援団についていく形でクリミア聖王国から帰ってきたそうだ。なんでも王城が崩落したという話を聞いた時点で、首無し騎士達が関わっているのは間違いないと踏んでいたようだが、現状は彼女の想像を優に超えていた。
「はぁ……まさか魔王因子を二つも所持することになるだなんて……あの子はどうして変なのを引き寄せてしまうんだか……」
情報を咀嚼しきった様子のディネリントが大きなため息を吐く。
その様子をみたクリス・ケラウスがずっと気になっていたことを彼女に質問した。
「あの……その魔王因子っていうのは何なんですか?」
「そうそう、それ俺も気になってた。」
「なんだか名前だけでも仰々しいというか……物騒な名称だよね。」
クリス・ケラウスの質問を皮切りに、ジャック以外の面々が口を開く。
ディネリントは、説明していいものかと逡巡するが、ここまで関わってしまったのだから、隠している方が危ないかと判断して説明する。
「魔王因子っていうのは……勇者が魔王を滅ぼしたときに、散らばった破片……魔王が所持していたとされる七つの特殊能力のことを指すわ。」
「特殊技能が七つ!?普通特殊能力は発現しても一つまでじゃ……」
「発現すること自体が珍しいから、そう捉えられても仕方がないけれど、複数所持している者も存在するの。実際に魔王は七つ所持していたし、私達勇者パーティはそのチカラにだいぶ苦戦させられたわ……正直、勇者の加護と聖女の祈祷がなければ私達人類には手も足も出なかったでしょうね。」
勇者の加護……効いたことがある。ジャックの集めた情報によると、聖なる神々に寵愛された勇者に授けられた聖なる力のことだという。神を称え、祈祷しなくとも、神々の奇跡とされる聖属性のチカラを行使することのできるというもの。
あらゆる疫災を跳ね除け、邪悪なるものを打ち消すという退魔のチカラ。
ジャックは勇者が伝説視されていく中で噂に尾ひれはひれが付き、それに便乗した教会が教義を広めるために利用したのだと考えていたが、どうやらそうではないようだ。
ここに、生き証人がいるのだから。
「”憤怒の炎”は私の防壁でもなんとかなったし、”傲慢の権能”で統率された魔物たちは戦士が蹴散らしてくれた。けれど、”色欲の芳香”は種族関係なく魅了して催眠状態にしてくるから聖女の浄化が必要不可欠だったし、”嫉妬の涙”は聖女の祈祷だけじゃ間に合わずに全員の基本性能が引き下げられ続けて最終的に芋虫みたいになってたかもしれない……勇者の加護で祈祷なしに奇跡を行使できたからなんとかなったんだよ。」
四つの魔王因子について一気に説明をしたディネリント。その四つだけでも破格の能力過ぎて、魔王という存在がどれほど強大だったかを理解する。
四人で一体を相手どったが……ここまで聞くと、よく四人だけで相手どれたと思う。
しかし、ディネリントの話はまだ続いていく。
「地味に厄介だったのが”怠惰の安寧”ね。少しでも攻撃の手を緩めると、傷を修復されてしまうから勇者と戦士の猛撃が要だったし、木属性系統である体力強化の魔法は途切れさせることはができなかった。”強欲の触腕”は触れられるたびに技術や魔法をランダムで奪い取られて相手に行使されてしまう……幸い聖属性で防げば何とかなったから、ここでも勇者と聖女の支援が不可欠だった。”暴食の歯牙”は取り込んだものの基本性能をそのまま魔王の基本性能に上乗せしてきて……使役していた魔物や魔族を取り込み続けて、戦いの中で強くなっていった。これは戦士が露払いをし続けてくれていなかったら、絶対に倒すことが出来なかった。」
ディネリントが語った内容は一つの能力だけでも破格の性能を証明していた。
そして……なおのこと、そんな化け物を討伐した勇者パーティが異常だったということも……最終戦争を経験していない現代の我々では到底太刀打ちできないだろう。
「そんなのが世界に散りばめられたってのに、300年間調べも回収もしてなかったのか?」
「いや、そんなことないよ。私が世界各国を転々としていたのは知ってるでしょ?でも300年間、全く兆候はなかったのよ。私が初めて目撃したのはイライザの”憤怒の炎”ね。」
「それと同時期に現れ始めた邪神崇拝者と魔族の生き残りである傀儡のアリス……出来過ぎてるな。」
「その魔族とは何度か交戦したことがあるよ。魔王の最側近で、心酔しているようでもあったから……魔王復活を目論んでいても不思議はないかな。」
「だからクロスライトさんを執拗に狙ってたのかな。目的はうちに眠る魔王因子だった……」
「…つーことはよ、その”傲慢の権能”?を宿してる首無し騎士の人の頭部も、奪いに来るんじゃないか?」
ロザン・リクレイの推測に、その場にいた誰もが頷く。そして、その推測を補足するようにディネリントが続けた。
「そして、魔族である傀儡のアリス本人は出向かずに邪神崇拝者を差し向けてくるだろうね。自分だと、操られてしまう危険性があるから。」
「……でも、王都に潜んでた邪神崇拝者はもう一網打尽にされていると思いますけど……冒険者ギルドにいた奴らは勿論、王都中を聖騎士が捜索していますから……」
クリス・ケラウスのいう通りだ。この一件以来、聖騎士たちは蜘蛛の子一匹逃がさないように、嶋名子になって捜している。
邪神崇拝者だと判明した人物たちは次々に連行されて……
「…………まて、聖騎士に連行された奴らはどうなってるんだ?」
「え……?そりゃお前、牢屋にぶち込まれて………」
「違う、牢屋の場所だ!首無し騎士は王城の牢屋が壊滅したから中央教会にある聖騎士隊の牢屋に隔離されていた!もう王城は復旧してると思うか!?」
「そんなはずないわ……クリミア聖王国の使節団が付いたのはつい今朝がたで……」
「じゃあ……いま、邪神崇拝者とクロスライトさんは同じ建物内にいる…………!?」
全員があわただしくその場から席を立つ。
立ち上がる勢いに負けて倒れた椅子があるほどだ。
「こうしちゃいられない!!すぐに教会に行かないと!!」
「僕らも行きます!!」
一行は中央教会に急行する。
全てが手遅れになる前に…………




