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疑い

昆虫人(インセクトイド)の数、だいぶ減ってきたな。」


「うん、この調子なら後は堕犬精(コボルト)悪童鬼(ゴブリン)を始末すれば何とか……」


ロザン・リクレイとトト・ルトラが魔物たちを始末しながら話をしている。それだけ余裕が出てきたことの証左だ。

その間にも、インターバルが経過したクリス・ケラウスがまた《敵視》を発動し、城壁を走っていく。

既にパターン化された動きで迫り来る魔物を処理していく。

首無し騎士(デュラハン)が守護している城壁門の穴の方に集まっていた魔物達も、クリス・ケラウスの誘導と聖騎士達のバリスタ掃射により少なくなってきた。

魔物達の残党は既に城壁の穴から離れた箇所に移動しており、それに伴って聖騎士達も魔物が残っている方面のバリスタへと移動していた。


首無し騎士(デュラハン)もそちらへ移動して残党狩りに参加しようと考えたのだが、自分が移動した後に魔物が城壁の穴から侵入するかもしれないと考えると、その場を離れることはできない。

必然的に首無し騎士(デュラハン)と聖騎士達の距離は離れていき、彼らの視界から首無し騎士(デュラハン)の姿は見えなくなる……

首無し騎士(デュラハン)の注意も城壁外へと向けられており、()()()()()()()は疎かになっていた。


その隙をが、傀儡(くぐつ)のアリスからの接近を許してしまったのだ。


急に動かなくなる自身の身体に首無し騎士(デュラハン)は動揺する。

やがて立っていることもままならなくなり、そのまま地面に倒れると、頭はコロコロと転がって身体から離れ、自身の身体と傀儡(くぐつ)のアリスを見つめるようにして、ちょうど止まる。


「現代の魔道具って便利ねぇ……こんなの、戦争中に開発されてたら、勇者に滅ぼされる前に敗走していたかもしれないわぁ」


彼女の手には値札がつけられたままの魔道具が握られており、電気を(ほとばし)られせている。

自分の身体がビクビクと痙攣しているところを見るに、その魔道具で麻痺を付与されたのだと判断した。


「貴様ぁ……っ」


首無し騎士(デュラハン)は自身の中で沸々と怒りが湧き出てきていることに気がつく。

それと同時に自分の身体から黒い炎が発火し、身を包んだ。その現象を直視だ首無し騎士(デュラハン)は、自分が考えたとおり、やはり黒い炎は自身の怒りの感情と連動していることを確信する。

しかし、それが良くなかった。

黒い炎と自分の感情の因果関係に気が付き、冷静に分析してしまった首無し騎士(デュラハン)から炎が急激に鎮火していってしまう。


「あらあら……慣れって怖いわよねぇ?こうして続け様に対面して、私の顔も見慣れてしまったかしらぁ?」


「ふ……ふざけるなっ!」


アリスの発言を否定して、首無し騎士(デュラハン)は黒い炎を発現させようと努める。

しかし、怒ろうと意識すればするほど、首無し騎士(デュラハン)はかえって冷静になってしまう。

その様を見透かしたように傀儡(くぐつ)のアリスはニヤリと笑い、麻痺して動けない首無し騎士(デュラハン)の身体を担ぎ上げた。


「……知ってる?死体って、“物”扱いなのよぉ?」


脈絡なく発せられた言葉に首無し騎士(デュラハン)は戸惑い、思わず「何を……」と聞き返してしまう。

予想通りの表情と反応が返ってきだことが面白かったのか、アリスはさらに口角を歪めると、手のひらを地面にかざす。


「だからぁ……こんなこともできるわけなのよ。」


すると、傀儡(くぐつ)のアリスがかざした地面から穴が()()()()

掘られたのではなく、文字通り()()()()()()。穴の中には日の光が届いていないのか、一寸も見えぬ暗闇で中を確認することができない。

しかし、首無し騎士(デュラハン)はその光景に見覚えがあった。


無限格納空間(インベントリ)…………っ!」


「ご明察……勇者の専売特許を私が再現してあげたわぁ。勇者(オリジナル)と違って見よう見まねで再現した別物だから性能は劣るけど……名付けて自由収納空間(アイテムボックス)と言ったところかしらぁ?」


アリスは得意げに話すと同時に、首無し騎士(デュラハン)の身体を自由収納空間(アイテムボックス)へと投げ捨てる。

すると、身体は何の抵抗もなくスルリと穴の中へ入っていってしまった。

勇者の使用していた無限格納空間(インベントリ)は生き物を収納することは不可能だった。

性能が劣るという自由収納空間(アイテムボックス)がそれを解消しているとは思えない……“死体が物扱い”だと強調したことを鑑みるに、首無し騎士(デュラハン)の身体は“物”として判別されたのだろう。


「馬鹿も馬鹿なりに役に立ったわねぇ……こうして、貴女を拉致する隙ができた。」


「くっ……ふざけるなっ!」


首無し騎士(デュラハン)が声を張り上げてアリスを威嚇するが、もう既に黒い炎を発する身体は収納されてしまっている。

アリスは首無し騎士(デュラハン)の目から片目から吹きだしている炎を避けるように髪を掴んで持ち上げると、身体と同じように自由収納空間(アイテムボックス)に収納しようとする。


しかし、首無し騎士(デュラハン)の頭を持ち上げた瞬間、城壁の方から飛んできた矢がアリスの腕を射抜き、首無し騎士(デュラハン)の頭は再度地面へと落ちて転がる。

転がった首無し騎士(デュラハン)の頭が止まり、再度定まった視界に入ってきたのは、ボウガンを構えたジャックの姿だった。


「ジャックっ!!」


「…………また邪魔する気ねぇ……坊やぁ……」


アリスが顔を歪めると、自由収納空間(アイテムボックス)から何かが飛び出てくる。

腐臭を放ちながら出てきたその怪物は、明らかに不死者(アンデッド)であり、蝙蝠のような羽をばたつかせながらジャックへと迫っていく。


「くっ!」


ボウガンで応戦するジャックだったが、いくら矢を射っても不死者(アンデッド)が怯む様子はなく、確実に距離を縮めていく。


「やめろっ!!」


目と鼻の先まで接近し、今にも不死者(アンデッド)の汚れた鉤爪がの喉元を捉えようとした瞬間、急に不死者(アンデッド)の動きがピタリと止まる。

その動きが止まった瞬間は、首無し騎士(デュラハン)が静止の言葉を吐いた直後であり、周りにいた誰もが……言葉を首無し騎士(デュラハン)さえも本当に動きが止まると思っていなかったのか、唖然としている。


最初に状況を飲み込んで動き出したのは傀儡(くぐつ)のアリスだった。


「もう二つ目の因子に適応したのねぇ……っ!」


厄介な物を見つめる様に首無し騎士(デュラハン)へと視線を移した傀儡(くぐつ)のアリスは躊躇することなく自身の両耳へ深々と人差し指を差し込んでいく。

耳の穴と指の隙間からは血がダラダラと垂れ流されていくが、そんなことはお構いなしだ。

やがて耳から指を引き抜いたアリスは、微笑みながら血まみれの手を首無し騎士(デュラハン)へと伸ばしてくる。


「やっぱり貴女は必要だわぁ……私と共に神に復讐しましょう。」


「やめろっ!!近寄るなっ!!」


自身に伸ばされる手を拒絶する様な言葉を首無し騎士(デュラハン)が叫ぶと、何者かがアリスの伸ばした手を引き裂く。

その何者かとは、先ほどまでアリスに使役されており、ジャックの目の前にいた不死者(アンデッド)だった。

耳を潰していたせいで、不死者(アンデッド)の接近に気が付くのに遅れたアリスは腕を引き裂かれたものの、すぐに距離をとる。

首無し騎士(デュラハン)も、ジャックも、その不死者(アンデッド)の動きに見覚えがあった。

以前対峙した強大な者(ベヘモット)を操っていた邪神崇拝者に使役された魔物達に酷似している様に感じたのだ。


「…………やっぱり 【傲慢の権能】は厄介なチカラだわ…」


傀儡(くぐつ)のアリスは逃げる様にしてその場から立ち去り、木々の中へと消えていく。


「逃げる気かっ!!待てっ!!!」


逃げ去るアリスに首無し騎士(デュラハン)が叫び声を上げると、意を汲んだように不死者(アンデッド)がアリスの追うように、逃げた方向へ飛び出していく。

考えても見なかった状況だが、身体を奪われたままの首無し騎士(デュラハン)はどうすることもできずにただその光景をポカンと見つめる他ない。


その時、不意に言葉が聞こえてくる。


「今の……見たか………?」


「ああ……あの首無し騎士(デュラハン)不死者(アンデッド)を使役してた。」


その言葉は、ジャックのすぐそばから聞こえてきた。

異変を察知して集まってきた聖騎士達が先ほどの光景を目の当たりにしていたのだ。


魔物使役者(テイマー)でもないのに……」


「なぁ……首無し騎士(デュラハン)って他の不死者(アンデッド)を使役できたか……?」


「いや……本には自分で首を切り落とした馬は使役するってあったが……」


「でもあの不死者(アンデッド)……頭あったよな?」


「それに……蝙蝠みたいな羽も……」


城壁から首無し騎士(デュラハン)を見下ろす聖騎士達の瞳と声には不安と不信感が含まれており、ざわめいている。

やがてざわめきの内容はどんどん飛躍していき、膨れ上がった憶測は一つの疑念に収束されていった。


「魔王だ……」


「魔物を使役する魔物……そうかもしれない……」


不安と不信感は混ざり合い、恐怖の色に染まっていく……。


「ち……ちが…………」


先程まで信頼し、ともに戦っていた聖騎士から向けられる敵意を含んだ視線に耐えられなくなった首無し騎士(デュラハン)は否定しようと声を上げようとしたが、その彼女の声は尻すぼみするように弱々しく消えた。


本当に違うと言い切れるのだろうか?


傀儡(くぐつ)のアリスは言っていた。首無し騎士(デュラハン)は魔王が世に放った残滓、【魔王因子】という物を保有していると……

それも二つ。【憤怒の炎】に【傲慢の権能】……そんな自分が違うと……安全だと言い切れるのだろうか?


「おいっ!ふざけんなよっ!!さっきまで一緒に魔物を退けてたろうがっ!!それがなんでそうなるんだよ!!?」


「それならあの群れも命令して退かせなかったのはなんでだ……?」


「そもそもなんで急に魔物が大挙して王都に押し寄せてきた?初めからマッチポンプだったんじゃないのか!?」


「お前ら……言うに事欠いて……っ!!」


不審がる聖騎士達に、ジャックがくってかかっている。

擁護してくれることはありがたいが、そこれではジャックまで疑いの目を向けられてしまう……

それに……もちろん首無し騎士(デュラハン)は善良な人々に矛を向ける気はさらさらないが、安心安全とは言い切れない……。

もし、この【魔王因子】というものが魔王の意志を引き継いでいるのだとしたら、いつどこでそれに飲み込まれて、人類の脅威になるかわかった物ではない……。

普通に考えれば、自分はいない方がいい……即刻処分して貰うべきだ。


「やめろ、そこまでだ。」


聖騎士達の後方から落ち着いた声が凛と響く。

その声に誰もが視線を向けると……その先にはリリア・フォードリアスの姿があった。


「まずは早急に門の修理に取り掛かろう。それ以外の問題はその後に落ち着いて対処する。」


「りょ……了解しました……!」


リリア・フォードリアスの指示に従い、聖騎士達は即座に行動を開始する。


「フォ……フォードリアス……殿……。」


「貴女の処遇はおって通達します。それまで妙な行動は控えるように……()()()()()殿()。」

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