隠れ教徒
「勢いがなくなってきたか……?」
先頭にたって魔物を切り殺していた首無し騎士は剣に付着した緑色をした血液を滴らせながら、あたりを見回す。
先ほどまで迫りくる群れの侵攻を食い止めるのにせいいっぱいで、状況把握を碌にできていなかったために、気づくのに遅れてしまったが、魔物たちを誘導しているクリス・ケラウスと氷魔法で昆虫人の動きを緩慢にしてくれているトト・ルトラのおかげでバリスタを操っている聖騎士たちが魔物の処理をしやすくなっている。
おかげで、首無し騎士が防衛している城壁の穴も防衛しやすくなっていた。
これならば、あと数刻で魔物どもを撃退できるだろう。
そう確信をもった首無し騎士はまた城壁の穴からつかず離れずの位置で魔物たちを切り殺していくのだった。
(あの黒い炎……私自身の意思で自由に発現できることが一番いいのだが……)
首無し騎士は城壁を防衛しながら、ふと思う。
いつも、自身の”怒り”の感情が燃え上がるのと同時に、身体をほとばしる黒い炎。その炎は、どうやら首無し騎士の怒り度合によって火力が変わり、首無し騎士が怒れば怒るほど黒い炎は強く燃焼していくのだということをなんとなく実感していた。
この魔物の群れを切り殺している最中、幾度もあの炎を発現させようと意識をしていたのだが、どうもうまく燃え上がってこない。
あの炎を上手くコントロール出来ていれば、王城を瓦礫の山にすることもなかったのだが……
・
「だいぶ数が減ってきたな。」
「ああ……これなら何とかなりそうだ。」
隣のバリスタから聖騎士たちの話声が聞こえてくる。
どうやら魔物が減って来るにつれて、余裕が生まれてきているようだ。クリス・ケラウスの技術《敵視》の効果は既に切れているのだが、散り散りに動いている昆虫人の動きはトト・ルトラの氷魔法で作り出された冷気によって緩慢になっており、感覚としては最早、残党処理に移行している。
「なぁ……」
「……どうした?ロザン。」
「なんかさ……これまずくないか?」
おもむろにジャックに話しかけてきたロザン・リクレイが何とも不安そうな表情を浮かべている。
どうやらその不安は周囲の空気に由来しているようだった。
「何がまずいんだよ。」
「いや……ちゃんと言語化できないんだけどさ、こう……戦いが終わってもいないのに、こういう戦勝ムードになった時って……大抵ろくでもないってか、想定外のことが起こりそうっていうか……」
詳しく聞いてみようと試みたジャックであったが、どうにもロザン・リクレイの発言は容量を得ない。
具体的な例があるわけでもなく、しいて言えば”このまま何事もなく終わるはずがない”といういような、そんな感覚なのだとか。
あのロザン・リクレイからそんな慎重な発言が出たことが何よりも驚きだが、警戒するに越したことはないと考えたジャックは作業的になり始めているバリスタから離れて、周囲をよく見渡せる位置に移動する。
何かが起ころうものなら兆候の早期発見ができることで対処がしやすくなるし、何事も起こらずに杞憂で済めば、それに越したことは無い。
ジャックは城壁の見張り台、リリア・フォードリアスが聖騎士たちに指示を飛ばしている場所まで登ると、周囲を見渡し始める。
「…………ん?なんだ?」
城壁の中……王都方面に視線を動かすと、すぐに異変を感知する。
王都の中心部、冒険者ギルドのある通りで何かひと悶着起きているようだった。
恰好からして冒険者と冒険者が互いに争っているようだ。遠目から俯瞰して見る限り、城壁に駆け付けようとしている冒険者とそれを阻止しようとしている冒険者で別れて争っているように見える。
「どうしたんだ?」
冒険者ギルドを凝視しているジャックにリリア・フォードリアスが声をかけてくる。
見たままの光景を彼女に報告すると、リリア・フォードリアスは渋い表情を浮かべる。
「冒険者ギルド側に応援要請を頼んだのだが……全く駆けつけてこないと思っていたが、何をしているんだ……」
「多分……あの邪魔してる奴ら、邪神崇拝者なんじゃないか?」
リリア・フォードリアスが驚いた様子でジャックの顔を見つめるのが横目でわかる。
今回の一件には邪神信仰がふかくかかわっており、首無し騎士を拉致しようと動いていた奴らは冒険者の中に潜んでいた邪神崇拝者だった。今なお潜んでいる者がいてもおかしくないし、そいつらが仲間の計画を支持して邪魔し始めてもなんら不思議はない。
「私の見立てが甘かった……私たちの想定以上に奴らは存在しているというのか……」
王都外、王都内、どちらでも問題が発生している……それに加えて、新たな問題が瓦礫となった王城から影を現したことに、ジャックも聖騎士たちも、気が付いていなかった。




