首無し胴体:3
「よくも、私の大事な仲間たちに危害を加えてくれたな。」
首無し騎士は老師の前に立ちふさがると、老師をにらみつける。しかし、老師の顔からは余裕がうかがい知れ、戦闘態勢に入る。
「武器を持たない首無し騎士が、私に太刀打ちできるとでも?」
言い終わるのと同時に老師は首無し騎士に向かって突撃してくる。およそ初老の男とは思えないほどの俊足で距離を詰めた老師はその勢いのまま首無し騎士の顔面に拳を突き出そうとする。
しかし、老師の拳は首無し騎士の頭にかすりもしない。頭を手に持っている首無し騎士にとって腕は自身の首と同義。腕に飛んできた拳を躱すことなど、首無し騎士の反射神経をもってすれば、赤子の手をひねるように簡単なことだった。
初撃を躱した後も、老師は執拗に首無し騎士の頭を狙って攻撃を放ってくる。
おそらく胴体への攻撃はさほど効果が見込めないと考えているのだろう。
(そういうことなら…………)
首無し騎士は老師の攻撃の隙を縫って、自身の頭をジャックへと投げる。
ジャックも首無し騎士の意図を察して、その頭を受け取るように動いた。
「やっとですか。」
首無し騎士の頭が胴体から離れた瞬間、老師はにやりと口角をあげる。
次の瞬間には老師は首無し騎士の頭めがけてまた一気に距離を詰めていく……しかし、老師の視界が捉えているのは、首無し騎士の頭ではなく、その頭を受け止めようと動いているジャックだった。
(初めから……私は首無し騎士との一騎打ちなどと考えていないのですよ。)
今現在の状況は5体1で老師が圧倒的に不利……使えない者たちは敵の炎に焼かれて死んでしまったのだから。
そのため、数の差で追いつめられる前に雑魚から処理していくのが戦闘の鉄則……屈強な個よりも数の暴力で責められる方が面倒だということを老師はよく理解しているのだ。
老師の凶拳がジャックめがけて放たれようとしている……当たればジャックの頭は水風船のように破裂し、即死は免れないだろう。
しかし、それはあたればの話だ。
「首無し戦車!!」
宙に舞っている首無し騎士から放たれた言葉によって、ジャックの足元に突如として魔法陣が展開される。
すると、地面から出没した馬車がジャックを競り上げて、老師の拳からジャックを宙へと逃がしてしまう。
老師の拳をもろに受けてしまった馬車は瓦解して、中に収められていた荷物が地面に散らばってしまうが、その馬車の破片や荷物、馬車を覆っていた天幕が老師の視界を奪ってしまう。
ジャック達がその隙を逃すことは無く、体勢を立て直したクリス・ケラウスは首無し騎士に向かって自身の使用していた片手剣を投げわたす。
宙を待っていたジャックは投げナイフを投擲し、天幕ごと老師を突き刺す。
ロザン・リクレイは片手剣を受け取った首無し騎士とともに、老師へと天幕ごと切りかかった。
しかし老師は天幕の下を滑り込み、首無し騎士の股下をかいくぐって二人の斬撃を躱す。
地面を蹴り上げるように立ち上がった老師は、二人の背後からもう一度打撃を咥えようとするが、脚が縫い付けられたように動かずに膠着してしまう。
足元に視線を向ければ、地面を蹴ったはずの自身の足が氷によって地面とくっつけられていることを確認する。
言わずもがな、トト・ルトラが氷魔法で老師を拘束したのだ。
首無し騎士とロザン・リクレイは、振り返り様に老師を切り上げる。
「が…………はぁ……っ!!」
二人の斬撃をまともに食らってしまった老師は吐血し、声を漏らすと、氷で地面に縫い付けられた自らの足を引きちぎり、二散歩後ずさりをする。
しかし、その後ろにジャックが回り込み、老師の背中にナイフを突き立てる。
「さぁ、諦めなよじじい……どういう料簡で首無し騎士を狙ったか……洗いざらい吐いてもらおうか。」
ジャックのナイフは老師の背中に押し当てられて、服越しにナイフの鋭い感触が伝わってくる。
間違いなく、ジャックは老師を殺すことに躊躇っていないし、情報を吐こうが吐くまいが、用が済んだら始末されることは明白だった。
老師は打開策を考えるためにあたりを見渡すが、片足をちぎってしまったために、打つ手が限られてしまっている。
背後のジャックを人質に逃亡しようにも、片足がないゆえに機動力を失っている。振り向く前にナイフを突き立てられて死んでしまうだろう。
しかし、このまま黙っていても、脚と胴体から流れる大量の血液が老師を殺してしまうことは明白だった。
「…………素晴らしい、素晴らしいチームワークだな…………正直、教団に欲しい…………」
老師は、乾いた笑いをうかべながら、胸ポケットから何かを取り出す。
「おい、妙な真似をするな。」
ジャックはさらにナイフを突き立てて脅すが、老師の動きが止まることは無い。老師は迷いのない動きで胸ポケットから取り出した何かを口にくわえようとする。
ジャックは老師が動きを止めないことを確信すると、自身の持っていたナイフを一気に老師に突き立てて、心臓を串刺しにする。
「ピィィィィ――――――」
その瞬間、弱弱しい音色が老師の口から放たれて、そのまま老師は地面に倒れ込む。
正面から老師を見ていたジャック以外の人物は加えた物の正体を目の当たりにしていた。
それは笛だ。
まるで犬笛の様な大きさと形をしているシンプルな銀製の笛が、ナイフで刺された老師から漏れる弱弱しい息に反応して音をあげたのだ。
「なんだろ……なにが、したかったんだ?」
「さ……さぁ…………」
トト・ルトラと彼を護るように大楯を構えていたクリス・ケラウスが互いに疑問を投げかけ合う。
当然、他の三人も疑問符しか思い浮かべなかったが、その疑問の答えは、最悪の形で明かされてしまうのであった。
「…………なんか、揺れてね?」
「…………確かに……それに、地響きもするぞ……?」
かすかに感じていた地面の揺れは、だんだんと大きくなり、地響きは大きな足音に変わる。
次の瞬間、夜であるにも関わらず、休んでいたであろう鳥が大きな鳴き声を上げて次々に夜空へと飛び立っていくのを目撃した。
「…………まさか……まずい!!みんな!!早く首無し戦車に乗れ!!」
何かを察した首無し騎士は半壊した馬車に乗り込むように、全員に声をかける。
全員が乗り込んだのを確認すると、首無し騎士は首無し馬に飛び乗り、全速力で王都へと走らせる。
「おい!どうしたんだ!?何がわかった!!?」
「口を閉じろ!!舌を噛みちぎってしまうぞ!!」
切羽詰まった様子で首無し騎士は首無し馬を走らせる。
まるで迫りくる地響きと、足音……倒壊する木々や巻き起こる土煙から逃げるように……




