首無し胴体:2
ジャック達は木々の間を全速力で走り、王都へと駆けていく。
「クソッ!なんなんだコレは一体!!」
ジャックの片手に収まっている首無し騎士が喚き散らしている。先ほどから何かに足掻いているようだ。
「……首無し騎士、身体の感触から何かわからないのか?」
「……なんか、ゴワゴワしたものに包まれているのはわかるんだが……いかんせん四肢を拘束されてるみたいでな……」
わかってはいたが、首無し騎士は目隠しをされているようなものだ。感触だけでものを当てようとするのはどうも難しい。
「首無し騎士はそのまま感じたことを細かく教えてくれ!」
「お……教えてくれって言われても……あっ!今たぶん地面におかれたぞ!?」
「置かれたって……いったい何処にだよ」
「それは………わからんのだが……」
首無し騎士から読み取れる情報を聞きながら王都へと向かっている。
その途中で、大きな轟音が響き渡ったのだ。
「何処からだ!?」
「南門です!!」
「私の身体にも衝撃が走ったぞ!!」
「じゃああそこだ!!」
ジャック達は轟音が鳴り響いた場所へと方向を転換し、駆け出していく。
その間にもまたけたたましい轟音が鳴り響いた。
「いったい何が暴れてるんだ!?」
「邪神教なんちゃらってのは魔物でも使役してんのか!?」
「魔物使役者がいるってことか!?」
ジャック達の間で警戒心がぐんぐんと上がって行く。城壁の南門に近付くにつれて速度を落とし、足音を抑えながら木々の中に隠れる。
南門からはもくもくと土煙が上がり、あんなに頑丈そうに見えた門は、まるで木の板のように破壊されている。
「なにが……」
「しっ……何か出てくるぞ。」
戸惑うジャック達の視認する先……土煙の中から三人の男達が姿を現す。
一人は執事服に身を包んだ初老の男で、その後ろにいる二人は冒険者風の男達だ。その男たちは、人一人が収まりそうな、大きな麻袋を担いでいる。
「ゴワゴワした感触……あれじゃないの?」
「確かに……なぁ、首無し騎士の人。ちょっと暴れてみてくれねぇか?」
「わ、わかった。」
ロザン・リクレイに指示された通り、首無し騎士が動いてい見る。
すると、目の前の男たちが抱えている麻袋が、まるで大魚のように動き始めた。男たちは、急に暴れ始めた麻袋に驚き、「なんだ急に!?」「さっきまでおとなしかったくせに!!」と慌てふためいている。
間違いない。
あの光景を見た全員が確信を持って頷く。
「よし、さっさと取り返すぞ。」
「まて、まだあの轟音の原因がはっきりしてない。」
ジャックの指摘に、ロザン・リクレイが中腰に浮き上がった腰を再び下ろす。
確かに、あの三人の男の中に堅牢な城壁門を破壊できるような怪物がいるようには思えない。
何処かに……例えばそう、今尚立ち上がっている土煙に潜んでいる可能性だってある。
そう考えて、周囲を見渡すが何処にもそんな気配はない。
土煙も薄れており、中には何もいないことが確認できる……。その合間にも男達は麻袋を抱えたまま、悠々と歩いていってしまう。
「どうする……!?行っちまうぞ!」
「仲間とかに合流されたらマズいよ?」
ロザン・リクレイやクリス・ケラウスの心配はもっともだ……しかし、何処にも城壁門を破壊した奴が見当たらないとなると、あの三人の男達の中に犯人がいるとしか推測できない。
「…………首無し騎士、頼めるか?」
「……何がだ?」
「もし、あの中に城壁門を破壊した奴が居たとして……ソイツの対処を頼めるか?」
ジャックは男達から視線を外すことなく首無し騎士に問いかける。
「無論だ。」
彼女からの返答は簡潔だった。
首無し騎士は一切の迷いなく、言い切ったのだった。
「いや……対処って……クロスライトさんは今頭だけで……っ!」
「トト……」
「…………何?」
「あの麻袋に向かって火球を放つんだ。」
「えぇっ!?」
思わず聞き返したトト・ルトラに向かって、慌てて全員が口を塞ぐ。
しかし、間に合うはずもなく、彼の声を聞きつけたのか、先頭を歩いていた執事服の男がこちらへと視線を向けている。
「馬鹿っ!もうヤケだ!!放て!!」
「ふ……火球!!」
トト・ルトラの詠唱に合わせて、彼の杖には火の玉が生成される。
火球の生み出す光が、ジャック達を照らしていた。
もちろん、首無し騎士の頭も同じように照らされている。
「…………なぜ、あそこに首無し騎士の頭部があるのですか?」
落ち着いた口調で、執事服の男が問いかける。
問いかけられた男達は目を泳がせながら何か言い訳を言い連ねているようだ。
「いや!実は頭を盗む担当が失敗してしまって……っ!!」
「そうそう!俺らの担当はあいつの後に身体だけを奪う手筈だったし……っ!」
当初の計画では、身体が杭で固定されて反抗されないうちに頭だけを盗み出し、次にこの男達が目で見えなくて抵抗しにくい身体を盗み出すと言う計画だった。
それを、頭担当の男が失敗した挙句に、その頭が見当たらずにいたと言うことを老師に黙っていたのだ。
「はぁ…………なんて使えないんでしょう。嘆かわしいことです。」
老師は物悲しげにそう言うと、地面を蹴ってジャック達の元へとひとっ飛びに突っ込む。
「まぁ、頭のほうから出向いてくれたのでヨシとしましょう。」
いきなり目の前に現れた老師に、一同驚く。
トト・ルトラは驚いた拍子に老師へと向かって火球を放ってしまう。
「馬鹿っ!ソイツじゃない!!」
ジャックの言葉も虚しく、閃光と共に火球のけたたましい着弾音が鳴り響く。
常人なら皮膚の焼け爛れる痛みから逃れることもできずに、黒煙と共に10メートルほど飛ばされたはずだろう。
しかし、老師はその程度でノックバックすることはなく、黒煙から細い両腕が伸びてきてトト・ルトラの喉元を鷲掴みにする。
「が……ッ!かはっ………ッ!!」
鷲掴みにされたトト・ルトラからは小さく掠れた呼吸だけが漏れ出ている。
目をかっぴらき、口端から小さな泡が漏れて流れる……あれでは魔法を詠唱することなど出来ない。
「クソが!!トトを離せっ!!」
「ロザンっっ!!」
トト・ルトラを助けようと、ロザン・リクレイが老師へと斬りかかる。
しかし老師は、トト・ルトラの首から片手だけ離すと、人差し指と中指の間で軽々とロザン・リクレイの一撃を防いでしまった。
まるで子供のごっこ遊びに付き合っている大人のようだ……。
「首無し騎士の頭は返していただきましょう。」
トト・ルトラの喉を掴んでいた老師の腕に力が込められ始める。
「させるかっ!!」
両手が塞がって老師へとすかさず攻撃を仕掛けるジャックとクリス•ケラウス。
両者の刃が老師へと近付くと、奴はトト・ルトラとロザン・リクレイを投げ飛ばして、ジャックとクリス・ケラウスへと追突させた。
「キャアっ!」
「ぐっ……!」
思わず呻き声を上げたジャックの目の前に靴底がうつる。
紛れもなく、老師の足だ。
間一髪のところでジャックは体勢を立て直し、トト・ルトラと共に老師の蹴りから逃れたのだが、次の瞬間信じられない光景を目の当たりにする。
老師の蹴りが地面についたことを確認した瞬間、けたたましい衝撃音とともに口煙が巻き上がり、瓦礫へと変貌した地面がジャック達に襲いかかる。
間違いなく城壁門を壊したやつの正体はこの男だ。
そう確認したジャックはすかさず咳き込むトト・ルトラへと指示を出す。
「もう一回!!早くまた火球を放つんだ!!」
「ゲハっ!!ゴホッ!!」
麻袋をもった男達は相変わらずマヌケ面で突っ立ちながらこちらを観察している。
まるで、この老師が向かっていったのだから自分たちが出なくても勝負はついたと確信しているようだ。
いや、老師の攻撃に巻き込まれて死なないようにしているようだ。
「火球!!」
トト・ルトラの放った魔法は一直線に、男達へと向かっていく。
自分たちが攻撃されることなど微塵も考えていなかったのだろう、いきなり飛んできた火の玉に男達が対処出来るはずもなく、麻袋とともに燃焼し始める。
「あづいっ!!あづいっっ!!
「あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
燃え盛る炎の中、男達は転げ回っている……炎に焼かれて、ものともしないで立ちあがったのは、首無し騎士の身体だけだ。
「首無し騎士!!投げるぞ!!」
「ああっ!!」
ジャックはトト・ルトラを掴んでいるのと逆の手で首無し騎士の頭を投擲しようとする。
しかし、それを老師が黙って見過ごすはずもなく、すぐにジャックへと拳を奮って投擲を阻止しようと動いていた。
次の瞬間、ガァァンッという金属が金属を叩くような大きな音が鳴り響いたと思った瞬間、老師の動きがピタリと止まり、老師は強制的に視界を動かされる。
視界を向けたその先には大楯を剣の柄頭で叩くクリス・ケラウスの姿があった。
盾戦士の技術である《敵視》を使って、老師の邪魔をしたのだ。
一刻も早く《敵視》を解除したかった老師は、何の躊躇もなく大楯ごとクリス・ケラウスを蹴り飛ばしたが、間に合うはずがなく、ジャックが投げ飛ばした首無し騎士の頭は身体へと無事に手渡された。




