不都合な影
「お前たち!!自分が何をやったかわかっているのか!?」
リぺリシオン王国から離れた森林で首無し騎士の怒号が響き渡る。
無論その矛先はジャックとロザン・リクレイに向けられていた。
「なんてこと……絞首刑に処されてもおかしくないぞ!?」
「いや、そこまで重罪じゃ……」
「脱走補助が重罪でなければなんだというんだ!!」
わかっている。
首無し騎士はジャックたちの身を案じて叱責しているのだということは……
しかしながら、危険を冒して助け出したというのにこう頭ごなしに否定されてはいい気分ではない。
「ともかく、事が発覚する前に私は牢に戻るぞ!お前たちのことは黙っておいてやる!」
「その恰好でどうやって?」
思わず皮肉をこぼしたジャックを首無し騎士はキッとにらみつける。
今現在、首無し騎士は頭部だけの状態で切り株の上にちょこんと置かれている。歩くことはおろか、振り返ることすらできない。
まさに手も足も出ない状態。この状態で無事に中央教会の牢まで誰にも気づかれずに戻ることが出来たなら……それこそ神の奇跡としか言いようがないだろう。
「なぁ、首無し騎士の人……いっかいジャックの言い分も聞いてくれや」
「ぬぅ……」
頭に血がのぼっている首無し騎士をなだめるように、ロザン・リクレイが語りかける。
彼らの背後の茂みから何かが動くような音が聞こえてきたのは、そんな折だった。
「…………ようやく来たな。」
ジャックの呟きと共に茂みから姿を現したのは、ほかならぬクリス・ケラウスとトト・ルトラの両名だった。中央教会の入り口で茶番をしていた時に来ていた衣類ではなく、しっかりといつもの装備を身に纏っている。
そして、口にはパンの食べカスがついていた。
「遅くなってごめん!無事にイライザさんを救出できたんだね!」
「ああ……本人はご立腹の様子だけどな。」
ロザン・リクレイのいう通り、首無し騎士の口からは「キミたちまでか……」と落胆したような声が漏れ聞こえてくる。
彼女としては頭を抱えてしまいた勝ったろうが、生憎にもここに自分の手足はない。
「さて、全員集まったことだし……まず状況を整理しようか。」
・
ジャック達は救出作戦時に経験した出来事を事細かに報告し合っていた。
クリス・ケラウス達は騒ぎが大きくなってくると、聖騎士の誰かがパンを持ってきて「これをやるから勘弁してくれ」と追い返されたようだ。抱き程からクリス・ケラウスの口についている食べカスの正体はこれだろう。
ジャック達も、教会に侵入してからの一部始終をクリス・ケラウス達に報告していく……自分達より先に、首無し騎士を連れ出そうとしていた怪しげな男の話も含めて。
「……そういや、あの男妙な入れ墨してたよな?」
「ジャックも気になってたか……俺もあの変な模様が頭から離れなくて……」
「入れ墨?模様?」
「ああ、なんか……円の中心に目が描かれてて、逆さまの羽が描かれてた……」
「何!?」
先ほどまでおとなしかった首無し騎士がロザン・リクレイの話を聞いた途端、急に声を荒らげる。
「おい!まさかその模様……!他になにか書かれてたんじゃないか!?王冠とか!手とか!!」
「え……?あ、ああ……確かに掛かれてたよ。目の上に王冠と円から飛び出したように六本の腕が描かれてて……」
ロザン・リクレイの話を聞くたびに、ただでさえ血の気のない顔からさらに血が引いていくように顔をこわばらせていく。
唇は震え、「ありえない」と言いたげな表情を浮かべていた。
「だって……そんな……奴らは300年前に粛清したはず……」
「…………おい、知ってるなら答えてくれよ。ありゃ一体何なんだ。」
一人だけで困惑している様子の首無し騎士に、ジャックが質問を投げかける。
当の首無し騎士は、話べきか否かを考えるようにジャックを見つめると、観念したように口を開く。
「……見てしまったのなら、仕方ない。知っていた方が身を守ることが出来るだろうし…………奴らのそのシンボルは、ある思想を主張するものなんだ。」
「……ある思想って?」
「邪神信仰…………私たちが信仰している神々ではなく、魔族が信仰している神々を信仰しようという人々の思想だ。」
「人々って……人間が魔族の……闇の神々を信仰しようとしてたって……コト!?」
首無し騎士は頷けない代わりに、目を伏せて肯定する。
魔族によって虐げられていた時代に、魔族へ迎合しようとした人間は案外少なくなかった。
「だからそういった不届き者を、教会や聖騎士たちが先頭に立って粛清したんだ。300年前に一掃したと確信していたんだが……どうして今頃……」
生き残った邪神崇拝者がいて、代々伝えていったのか……それともこの時代で再燃するきっかけがあったのか……
どちらにせよ蓋を開けてみれば善なる神々も、闇の神々も、同じように”制作陣”という同一の神だというのだから笑えないマッチポンプだ。同じものを信仰しているのだから背信ですらない。
「…………傀儡のアリスが出てきて、同時期に魔族の信仰する神を祀ろうとする邪神信仰が影を見せる……その崇拝者が傀儡のアリスが寝経っていた首無し騎士の頭を持ち去ろうとしていた。」
「…………こりゃ明らかに偶然じゃないだろ。」
不都合な真実が、足音を立てて、着実に近づいてきている。
その渦中にいるのが首無し騎士だというのは、明白だった。




