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脱獄

「こういう時……眠れないのは苦痛だな。」


もう慣れたと思っていたのだが、意味もなく独り言を呟いてしまう。

久々に意識を飛ばしたせいで“慣れ”が飛んでしまったようだ。

何もせずただぼー……っと壁を眺めるだけの日々。たった数日過ごしただけでもこうして精神に疲労をきたしてしまっていた。


「こんなことではいけないな……」


誰も聞いていないことに甘えてしまい、また最近はすっかり孤独がすっかり遠い存在になってしまったのもあり、特に意味のないことまで口に出して喋ってしまう。

自分の声以外の音といえば、天井から滴り落ちる水滴のみで、なんとかこの静寂に包まれまいとひっしなのだ。

しかし、ここで首無し騎士(デュラハン)の意図しない音が聞こえてくる。

足音だ。

誰かがこの牢屋に向けて足を運ぶ音が聞こえてくる。


「フォードリアス殿……?いや、違うな……何者だ?」


足音でわかる。彼女とは重心の傾け方、歩の進め方が違う。

しかし、歩き方は兵士のそれだ。

首無し騎士(デュラハン)が推理をしているうちに牢屋越しに人影が現れる。


男だ。


傭兵風の男が牢屋越しに首無し騎士(デュラハン)を見つめていた。


「なんだお前は……?」


首無し騎士(デュラハン)が質問をしても、男は答えようとせず、黙って牢屋の鍵を開ける。


「なにを________________っ!?」


牢屋をあけ、いきなり押し入ってきた男に驚き、声を荒らげようとするが、間に合わず……布で口を塞がれてしまう。

首無し騎士(デュラハン)は頭を抱えられ、袋詰めにせれてしまった。

抜け出そうにも、磔にされた身体は動かすことができない。手足に打ち込まれている杭には束縛魔法が組み込まれている様子だ。

男は首無し騎士(デュラハン)の頭を入れた袋を担ぎ、牢屋を後にした。



闇夜に紛れて、複数人の影が中央教会へと忍び寄る。

そのうちの一人が首を動かし、後ろの二人へと合図を送っていた。

合図を受けた二人は同時に飛び出し、一目散に中央教会の正門へと駆け出していく。

正門前に在中している兵士二人の視界に入った瞬間に、倒れ込むように膝まづいた。


「施しをーっ!!どうか施しをお願いしますぅーっ!」


「もう何日も物を食べていないのですぅ!!」


正門の前で物乞いをし始めたのはクリス・ケラウスとトト・ルトラであった。

しかし、格好がいつもとは違う。二人ともつぎはぎだらけの見窄らしいボロ衣を着ており、クリス・ケラウスはいつもの短髪を隠すためにヅラを着用している。

その二人の姿はどこからどう見ても、スラム街から出てきた貧困層の夫婦にしか見えない。


「な……なんだ!?今国現場ではどうしようもない!少し我慢しろ!!」


「そうは言ってももう限界なのです!」


「そうですぅ!王城崩壊から炊き出しもなくなり……このままでは私たち、餓死してしまいますよぉ!!」


二人は涙を流しながら兵士にしがみつく。

その声は大きく、周囲の人目をどんどん集めていく。


「なんだ!?なんの騒ぎだ!!?」


「それが……っ」


しまいには教会内から騒ぎを聞きつけた聖騎士まで姿を現した。

クリス・ケラウスとトト・ルトラが繰り広げる物乞い劇に興味をもった人々も、通りへ野次馬のように集まってくる…………その人混みで隠れるように、ジャックとロザン・リクレイは中央教会の柵を乗り越え、敷地内へと侵入していく。


「アイツら………名演技すぎる……」


「さすが、何年も男だって偽ってただけはあるよな。」


ジャックとロザン・リクレイは互いににやりと笑うと、さっさと移動し始める。窓へと到着すると、ジャックは三重に重ねた布を窓に押し当てて、ナイフの柄で打撃を与え、窓に小さな穴を開ける。


「鍵を開けるぞ。」


ジャックの言葉にロザン・リクレイは頷き、それを確認すると手早く鍵を開けて窓を開ける。

初めにジャックがその窓から侵入し、ガラスの破片を踏まないように避けながら通路へ着地すると、ロザン・リクレイがガラスを踏んで音を立てないように、破片を通路脇に退ける。

その後、ジャックは外にいるロザン・リクレイへ合図を送ると、すかさずロザン・リクレイが侵入してきた。


「この通路の先に地下牢の階段があるはずだ。」


「よし……アイツらが周囲の気を引いているうちに急ごう。」


二人は足早に通路を進み、階段へと到達する。

互いに周囲を確認し、地下牢へと続く階段の扉を開ける。

その瞬間、中から人が飛び出してきてロザン・リクレイに衝突する。ぶつかった男はロザン・リクレイともつれるように転んでしまう。


「な……なんだっ!?」


ロザン・リクレイに覆い被さるように転んだ男に動転し、二人でもつれる。

ジャックが見るに、この男はデューク司祭の雇った傭兵の一人だと確信する。

しかし、事前に入手した情報によれば地下牢への接近は禁止されていたはずだ。

不審に思っていたジャックの視界に、妙なものが飛んでくる。

それは、ロザン・リクレイともつれあっている最中に、衣服の間から垣間見えた横腹に記されていた。

円の中心に大きな瞳が描かれており、その上には王冠が記されている。

逆さ吊りにされた天使の羽を押し除け、這い出ようとするかのように、六本の腕が記されていた。


「なんだ……不気味な……っ!」


ジャックがその不気味な印に動揺していると、体勢を整えた男が袋を掴み、ジャックへと斬りかかる。

その斬撃をすんでのところで回避したジャックに再び追撃を喰らわせようとする。


「見たなぁ!?みたなみたなみたなみたなみたなぁ!!?」


「お…おい!なんだよ!!」


狂乱した様子の男に同点しながらもロザン・リクレイが男に掴み掛かる。

しかし、男は狂乱した様子にも関わらず、冷静にロザン・リクレイを交わすと、短剣で斬りつけてくる。


「うおっ!!あぶねっ!!」


おかしい。

こいつの精神状態は狂乱しているのを鑑みても普通ではない。

そして、これみよがしに怪しい袋も……


(………どちらにしても、こいつは始末しないといけない。)


「見たな?」と男は連呼しているが、こちらの台詞だ。

コイツには顔を見られたのだ。生かしては置けない。

ジャックは静かに後ろ手でナイフを取り出した。

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