憤怒の炎
「これはいったいどう言うことだ!?」
王城に異変が起きたことを感知し、聖騎士隊が駆けつけていた。
その中には当然、リリア・フォードリアスの姿もある。
彼女の眼前で王城は漆黒の炎を吹き上げながら焼け焦げ、ドロドロに溶け出している。その光景に彼女は口を開けて閉じることが出来ずにいた。
「あれは⋯⋯?」
王城の方角から複数の人影が向かってくるのが見える。
その顔ぶれに、リリア・フォードリアスは見覚えがあった。
「お前達!これはどう言うことだ!?なぜここにいる!??」
王城から逃げるように出てきたのはあの不死者討伐に参加していた面々と、ジャック⋯⋯
しかし、ジャックの姿があるというのにイライザ・クロスライトの姿が見えない。
「魔族が⋯⋯!魔族が城内に!!」
「何!?」
ロザン・リクレイに状況を聞いた瞬間、王城の方から大きな爆発音が轟いてくる。
湧き上がる閃光の彼方から姿を現したのは二体の悪魔だった。
片方は6本の腕を生やした異形の化け物。
片方は湧き上がる憤りにその身を焦がした化け物であった。
「あれは……クロスライト殿か…………?」
片方の化け物、黒炎に焼かれた化け物の方にリリア・フォードリアスは見覚えがあった。
自身の尊敬に値する聖騎士の先達、イライザ・クロスライトであった。
しかし、今の彼女にはリリア・フォードリアスの憧れた経験なる信徒の姿はみられない。
怒りにまかせ、怨嗟を振り撒く醜悪なる不死者そのものだ。
「堕ちて……しまったのか…………」
自ずと、リリア・フォードリアスの頬には涙が伝っていた。
ああなってしまったのでは……彼女は……イライザ・クロスライトは処罰するほかない。
・
屋根が溶け、瓦礫となり、奈落へ落ちていく音がする。
その音が掻き消えるほどに大きな雄叫びが首無し騎士の口から解き放たれた。
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
剣の形をした炎が、傀儡のアリスへと振り下ろされる。
しかし、アリスはその刃を素手でうけとめ、弾き返す。
「効かないわねぇ……諦めたら?」
傀儡のアリスに【憤怒の炎】は効果を出さずにいた。
あの小瓶を使った後からだ。
しかし、首無し騎士は怒りのままに炎の刃を振りかざす。
その刃をアリスは涼しい顔をして捌いていく。
数度首無し騎士の刃を防ぐと、アリスの視界を煙幕が塞ぐ。
その煙の中から燃え盛る両腕が伸びて来て、アリスの首を掴んだ。
「っっ!!?」
首を掴んだ首無し騎士の両腕はギリギリと締める力を強めていく。
煙幕から垣間見えた首無し騎士の表情は鋭く、鬼の様に深い皺が眉間に刻まれていた。
「………ヒヒッ!」
絞められた首から掠れた笑い声が響くと、傀儡のアリスは自身の首を刎ねて首無し騎士の強腕から逃れる。
解き放たれた身体と頭は墜落しながら互いに惹かれると、身体が頭をキャッチし、自らの首へとくっつける。
即座に即死魔法をかけ、身体を再生させるとすぐに首無し騎士へと向かっていき、六本の腕で拘束する。
「さぁ!!私のものになりなさい!!」
傀儡のアリスから放たれる言葉は、本来全ての不死者を平伏させる。
彼女の言葉によって従わなかった不死者は始祖の吸血鬼ただ一人であった。
この……目の前にいる化け物意外は…………
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっ!!」
首無し騎士は咆哮とともに傀儡のアリスの拘束を解くと、蹴りを入れる。
「やはり……魔王様の御力には敵わないかっ!!」
わかってはいたことだが、魔王因子にアリスの言葉は届かない。
しかし、首無し騎士自身にもほとんど意識は残っておらず、とても話し合いができる雰囲気ではない。
傀儡のアリスにはこの首無し騎士がどうしても必要なのだ。
「はぁーー………ほんと、面倒くさいねぇ!」
傀儡のアリスはうんざりした様に毒を吐く。
あの実験で目をかけた個体ではあるが、こんなにも頭が固いとは……!
「首無し騎士の分際でさぁ!!」
アリスは怒号と共に首無し騎士へと六本の腕を伸ばしていく。
その刹那、光の矢がアリスの胴体に突き刺さり、風穴を開けた。
「な………っ!?」
矢が飛んできた方角、そちらへ視線を移すと大勢の人間が集まって来ていた。
そのうちの一人、馬上に乗った女騎士がこの弓矢を放ったのだ。
かつての首無し騎士に似た女の聖騎士だ。
近くには、首無し騎士の近くをうろちょろしていたあの人間達もいる。
「あの………っ!ふざけ………っっ」
傀儡のアリスが悪態をつく暇もなく、腹に開いた風穴に燃え盛る腕が突っ込まれる。
手の主は言うまでもなく、首無し騎士のものだ。
黒い炎を纏わせた首無し騎士の腕は傀儡のアリスの臓物を掻き回し、焼いていく。
「あああっ!!もうっ!!」
傀儡のアリスは自身の首を刎ね、奈落へと落ちていく。
残された身体は首無し騎士の炎で燃え盛り、灰燼へと変わり、風へと運ばれていった。
「ああああああああああああっ!!!」
風と共に移動する灰を睨みつけると悲痛な叫びをあげる。
首無し騎士のその咆哮が鳴り止まぬうちに、彼女に光の矢が突き刺さり、奈落へと落ちていった。




