復讐
憎い、憎い、憎い、憎い!
何もかもを自分から理不尽に奪っていくすべてが憎い!
目の前の不死者が憎い!!
何より、そんな理不尽からみんなを護れない自分が憎い!!
首無し騎士から立ち込める黒い炎はそれらの薪をくべられて、燃え盛っていた。
その炎は、火竜の時に立ち籠っていた火力の比ではなく、周囲の床、壁……天井すらドロドロに溶かしてしまっていた。
焚火の明かりによせられ、突っ込んでいく虫のように、不死者の兵士たちは炎に巻き込まれて次々と溶かされていく。その熱波だけで、不死者の肉壁は、蝋人形のように、溶けてひとまとまりになっていった。
「ああ!盾が!!」
「おい!ヤバいんじゃないか!!?」
「…………っ!!」
憎悪に燃える黒い炎は周囲のモノを巻き込んでごうごうと燃えている。
その対象はジャック達も例外ではなく、クリス・ケラウスの盾さえも熱波にやられ、溶けだしていき……金属部品の温度上昇により、とても持っていられなくなる。
「おい!!非難するぞ!!」
ロザン・リクレイの掛け声とともに、クリス達は城外へと駆け出していく……。
漆黒の炎の中、首無し騎士を見つめていたジャックは一瞬出遅れたが、自分の名前を叫んでいるクリス・ケラウスの声を聞いて、脱出した。
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ジャック達の避難を確認した首無し騎士は、黒炎が吹き荒れる首にふたをするように、自身の頭をのせる。
それでも炎の勢いは収まることなく、首の隙間から炎は噴き出している。
漆黒のマフラーをしているかのような黒い炎。
「そんなことをしたら痛いでしょうに……腕一本じゃ、流石にきついのかしら?それとも自分への罰のつもり?」
傀儡のアリスは不敵に笑い、首無し騎士を見つめている。
どちらも正解だ……首無し騎士である以上、首に頭をのせれば全身に走る激痛は避けられない。
しかし、こいつは油断ができる相手ではない……今も、不死者の雑兵で壁を作り、肉壁が役に立たなくなる前に自身だけを防護魔法で守っている。
全てが灰燼に帰そうとする中で、唯一形を保っているのだ。
何とも憎らしい…………。
「でも……よかった。」
首無し騎士が呟き、口角を歪める。
これまでの人生で、一度も浮かべることのなかった笑みだ。それは……彼女の中に、魔物が芽生えた瞬間であった。
「簡単に死なれたんじゃ……全然満足できないから………。」
皮肉にも、先ほどのアリスと瓜二つの笑み……怨恨と憤りにより生み出された笑みだ。
コイツだけは……傀儡のアリスだけは、出来得る限り苦しめて殺してやる。
「…………いい表情。」
傀儡のアリスが放ったその言葉と共に、首無し騎士の持っていた剣が溶解し始める。
液体状になった剣は、流動し、形を変え、どす黒い炎をまとった剣になった。
斬ったものを怨嗟の業火で燃やし続ける、首無し騎士の芽生えた悪意が形を持った剣となって、傀儡のアリスに切りかかった。
すんでのところで、アリスは剣を躱す。
しかし、その剣はぐにゃりと形を変えると、まるで鞭のように傀儡の腕をつかんだのだ。
「あら、やだ。」
六本あるアリスの腕、その一本巻き付いた剣は締め付けを増していき、とうとう彼女の腕を焼き切ってしまう。
身体から離れた腕は灰に変わり、切り口から乗り移った黒い炎はアリスの身体を燃やそうと燃え移って来る。
「ほんと……魔王様そっくり。」
傀儡のアリスは首から下げていた小さな瓶を開封すると、中に入っていた液体を切り口にかける。
すると、炎はみるみるうちに鎮火していき、煙へと変化していった。
「何……?」
疑問をうかべる首無し騎士の目の前で傀儡のアリスは自身に即死魔法をかける。
彼女の焼き切られてた腕はみるみる回復し始め、初めからそうであったように問題なく動き始めた。
「ふふふ……私は魔王軍幹部で、魔王様に使えていた側近なのよぉ?魔王様からの熱波を抑える術を持ち合わせていて当然でしょぉ?じゃないと同じ戦場に居られないものねぇ………」
傀儡のアリスはちらりと首無し騎士を一瞥し、付け加える。
「今の貴女と同じように…………ねぇ?」
首無し騎士の周りは、黒炎で包まれ、すべてが灰燼と成り果てている。
今頃、外から城を目撃している者たちは、何事かと騒いでいることだろう。
「そうか…………ならばそれは好都合。」
首無し騎士はそう呟くと、一気に踏み込み、アリスとの距離を縮める。
目と鼻の先まで接近し、首無し騎士はアリスの足めがけて炎の剣を振るった。
「まずは、脚。」
その呟きと共に、傀儡のアリスの膝から下は切り離され、アリスの胴体が宙を舞う。
しかし、アリスの胴体が転がり落ちることは無く、四本の腕で首無し騎士にしがみつくと、残り二本の腕を首無し騎士の両目に突っ込み、眼球を破裂させる。
「ぐぅ!!」
首無し騎士は両足を切った勢いのまま、剣を振り上げ、アリスの腕を三本とも切り上げる。
「自殺」
斬らげられ、宙に浮いた状態で傀儡のアリスは即死魔法を自身にかける。
すると、先ほどと同じようにアリスの身体は元通りに治癒され、ドロドロに溶けかけている床へと華麗に着地する。
「あらぁ……随分不死者らしくなったじゃなぁい?私はその方が好みねぇ?」
首無し騎士の顔を見つめながら傀儡のアリスはクスクスと嘲笑するように笑う。
首無し騎士の両目には黒々とした穴がうがたれており、ダクダクと血の滝を流している。
まるで涙で頬を濡らすように、赤黒い線が浮かび上がっていたのだ。
「う………うがぁ!!!!」
首無し騎士がうめき声をあげると、彼女の両目から黒い炎が噴き出す。
やがて炎は丸みを帯びていくと、妖しく揺らめき、瞳のように機能し始める。
「はぁ………はぁ…………」
首無し騎士の視界はこれにより復活していた。
赤黒く変色した世界に、怨敵の姿を捕える。
「ほんと………着々と怪物に育ってきているねぇ。」
傀儡のアリスは舌なめずりをすると、にやりと笑う。
魔王復活の時は近い。




