救出
ドタドタと地響きのように唸る足音、擦れる金属鎧の音。
先程まで傀儡のアリスと首無し騎士が戦闘を繰り広げていた広間に、多くの兵士たちが駆けつけ、集まってくる。
……………無論、その全ての兵士が不死者である。
「…………まだこんなに居たのかよ。」
「…………完全にアウェイだよね、これ……。」
緊迫した雰囲気に気圧されつつ、トト・ルトラとロザン・リクレイが言葉を発する。
構図だけ見れば、王城内部にいる残虐者を取り囲んでいるようにしか見えない。
この広間の中央、ジャック達の向かい。先ほどから脳天に投げナイフが突き刺さったままの少女が、糸で手繰り寄せられる操り人形の様に立ち上がり……忌々しげに、投げナイフを引き抜く。
「聖属性の……エンチャント。」
傀儡のアリスは、引き抜いた投げナイフを、無造作に投げ捨てると……投げナイフは弧を描きながら床を滑る様にして転がっていく。
脳天に開いた穴は、閉じる様子はない……しかし、相手に致命傷を与えた様な手応えもない。
明らかに不死者であるアリスに、聖属性の武器が通じていないのだ。
「ジャック……隙をついて皆で逃げるんだ……。あとは、私がやる。」
ジャックの手元で首無し騎士が呟いている。
その目には、明らかな憎悪が滲み出ていた。
この憎悪には、見覚えがある…………あの日、リデオン王国跡地で、滅んだ時のことを言って聞かせていた……王国を滅ぼした元凶のことを語っていた時と、同じ瞳だ。
つまりは、あの不死者こそが首無し騎士の仇……。
「アンタは、どうする気なんだよ。」
ジャックの問いに首無し騎士は答えない。
高圧的な瞳で、あの不死者をにらみつけるばかりだ。
きっと、首無し騎士はここで復讐を遂げる気なのだろう……。
(首無し騎士はずっとあの不死者を恨んできた。どこか復讐を心の拠り所にしていたところもあっただろう……しかし、ここで本当に復讐をさせてしまっていいのだろうか?)
今の首無し騎士を憎しみのままに行動させるのは……どこか危険な気がする。
ジャックにはそう思えてならなかった。
「クロスライトさん、水臭いですよ!僕たちだって戦います!」
「おうともよ!!周りの雑魚不死者は俺らに任せて、本丸に集中しな!!」
「クリス殿……!ロザン殿!」
ジャックが口を挟む前に、クリス・ケラウスとロザン・リクレイが武器を構えて戦闘態勢に入る。
トト・ルトラも杖を構えて戦う気でいるようだ。
その様子を眺めていた敵の不死者……傀儡のアリスは口角をあげて、不敵に笑う。
「……………いいよぉ。相手してあげる……その子らも不死者側に轢きづりこんで、徹底的に貴女の戦意を削いで……それから言いなりにしてあげるからぁ」
その発言と共に、彼女が纏う雰囲気が一変した。
大きな袖に隠れていた細腕が露わになり、分割され、六本になる……。
分割された方での先には虫のように指が二本ずつ配置され、その指をくねりと動かすと、周りを取り囲んでいた不死者達がぎこちなく動き始める。
人形使い。率直に抱いた感想はそれだった。
「ジャック!早く頭を私に返してくれ!!」
「………っ!わかったよ!!」
ジャックの心配を表明している暇などなかった。ジャックが首無しの頭を投擲すると、彼女の身体は頭を華麗にキャッチする。
しかし、その間にも、着実に不死者の群れは、自分達へと向かってきているのだ。
「見て……アレ…………」
クリス・ケラウスが指さす方向……不死者の兵士の中に見覚えのある顔が見え隠れする。
綺麗な金髪、大きな碧眼……煌びやかな衣装を身に纏った人物。
第一王子だ。
「ひでぇ……王大使様でさえ雑兵の一人でしかないってのかよ……。」
「い……いかれてる。」
ロザン・リクレイとトト・ルトラも震える声で反応を示す。
まずい……このまま気圧されてはどこかで隙を作ることになる。
「あいつの手先に成ったら、俺たちもああなるぞ。それが嫌なら、必死に抵抗しなきゃな。」
ジャックは、二人の肩をポンと叩くと、武器を構える。
聖属性のエンチャントが付いた投げナイフは、傀儡のアリスに捨てられてしまった。
今はあの雑兵の足元……どこにあるのかも方角以外把握できない。
「トト……今はお前の火属性魔法だけが頼りだ。」
「え……でもそれじゃあ不死者の人たちは……」
「そんなこと気にしている場合じゃない……。不服だが、諦めてもらうしか……。」
聖属性以外の方法で葬られた不死者は永劫の苦しみの中に閉じ込められる……。
哀れだが、この状況では贅沢は言ってられない。他人の心配をしている場合ではないからだ。
「この人数じゃ、盾戦士である僕も物量で押し切られちゃう……なるべく盾の薙ぎ払いでノックバックを狙っていくよ。」
「頼んだ!」
クリス・ケラウスの戦法を聞いたジャックとロザン・リクレイは、互いに距離を取り、左右から攻めてくる不死者達を牽制し始める。
主に狙うのは足だ。できれば両腕も切り落としたい。
移動手段を奪っておきたいからだ。動死体は下半身と別れても、平気で這いずり、迫って来る。それも物凄い速さで……
正面の敵はクリス・ケラウスが薙ぎ払いで距離をとる。その間にトト・ルトラが魔法を詠唱するのだ。
背中は……壁に守ってもらう。
「範囲麻痺!」
トト・ルトラの作り上げた電気の壁によって複数の不死者の動きが鈍くなる。
これでいくらか立ち回りがしやすくなった。
「よし!次は炎魔法を頼んだ!」
「任せて!」
トト・ルトラは続けて魔法詠唱準備に入る。魔力を練り上げ、表出させる準備。
ジャック達はこのままトト・ルトラを死守すれば勝てるのだ。
・
「やはり……いいパーティだな。」
首無し騎士は奮闘する彼らを見て、わずかに微笑む。
自分達ができることを各々が把握し、息を合わせて行動している。高い信頼関係がなければ実現できないことだ。
あのトラブルも、もとはと言えば高かった信頼関係故に起きたすれ違いの様なもの……それが解消された今では、彼らに障害など無いように感じる。
「私たちも、いい仲間になれると思うのだけれどねぇ……」
首無し騎士の感慨に、アリスの言葉が割って入ってくる。
首無し騎士にとって、何よりも深いな声…………。
「…………抜かせ。」
振り返った首無し騎士の瞳には、憎悪の炎が宿っていた。
何の不純物もない、純粋な殺意の目。
彼女から放たれる殺気に、傀儡のアリスは、身震いをするのであった。
「本当…………貴女、魔王様に似てきているわ。」
この世のすべてを憎悪していた鋭い瞳………人格を有していた頃の魔王と瓜二つの瞳だった。
「やっぱりぃ……魔王様の意思を引き継ぐのは貴女しかいないと思うのよねぇ……。」
身震いをしたアリスであったが、その顔には自然と笑みが浮かんでいた。
口角を釣り上げた、恐ろしくも残忍な笑み。
その笑顔に、首無し騎士の怒りは頂点にのぼったのだ。
「私に…………その笑みを向けるな!!」
あの日……王国が滅ぼされたあの時に、傀儡のアリスが首無し騎士に向けてきた笑み。
首無し騎士の首から立ち上っていた青白い炎は……一気にどす黒い炎へと変貌していた。




