思惑
廊下を見回っていた兵士の脳天をジャックが放った投げナイフが貫く。
「あ゛ーー……」
兵士は無気力な声を発すると、その場にただただ倒れ込んだ。
その様子を確認したジャックは即座に兵士へと駆けより、投げナイフを回収する。
「ね……ねぇ……大丈夫かな?いくら何でも兵士を殺してたら重罪に成っちゃうんじゃ……」
「んなこと言ってる場合かよ?俺ら捕まってたんだぜ?」
心配そうにつぶやくトト・ルトラへロザン・リクレイが呆れたような口調で返答する。
確かにそんなことを気にしている場合ではないのだろうが、トト・ルトラの懸念も尤もだ。
このまま無事脱出できたとしても、ジャック達は犯罪者として追われる身になるだろう……そしたら、まっとうな冒険者としてはやっていけない。
裏稼業を請け負うような、半グレ冒険者として活動していくことになるだろう。
「ま……まぁでもしょうがないんじゃないかな!?それに、正規の依頼じゃないほうがいいことも結構あるよ!手数料とられないこととか!仲介料が高くて冒険者ギルドにお願いできないような、本当に困ってる人の声も汲み取れることとかさ!」
これからのことを心配している様子のトト・ルトラを励ますようにクリス・ケラウスが大げさに話をしている。
自分だって不安だろうに、パーティリーダーとしてそんな様子を微塵たりとも見せようとはしない。
しかし、そんな不安や慰めはどうやら不要のようだ。
「……………いや、まだ俺らは正規のギルドで働けるようだな。」
ジャックが親指で全員の視線を誘導する……その先には先ほど殺した兵士の死体が倒れていた。
その死体は、脳天に空いた傷口からみるみるうちに崩れ……まるで暖炉の薪が灰になったように人の形を保ちながらも空気の流れによってかすかに舞い、崩れる。
まるで、聖職者に浄化された不死者の様な光景。
「え……?なんで?」
「俺の投げナイフには聖属性のエンチャントがついてるからな。要するに、あの兵士たちは既に死んでたってわけだ。」
「おいおい……まじかよ……。」
ジャックの所持している投げナイフは以前、首無し騎士対策に用意した品だった。
教会にて清められたとされる武器。高い買い物なだけあって、低位の不死者ならかすっただけで浄化され、土にかえる。
今更ながら、この投げナイフにエンチャントした聖職者はとんでもない人物だったのだろう。
「つまり何!?僕らを捕まえた人たちって不死者で……!それが普通に城内を歩き回ってて………」
「…………既に城内部は不死者によって制圧されているとみていいだろうな。道理で気味の悪いくらい統率された動きだったってわけだ…………。」
あれは催眠によるものではなく、一人の死霊術師が兵士たちを操っていたから群体の様な動きをしていたのだろう。
そうとわかれば……次に問題になってくるのは誰が首謀者かということだ……俺らを食事に招いた第一王子か…………いや、あの場にはもう一人言葉を発していた人物がいた。
始めから俺らを捕えようとしていたあの兵士…………または全く違う第三者…………?
「ともかく、なら俺らの仕事はいつもと変わらねぇな。」
「不死者討伐ならいつもの依頼とかわらないね!」
「それどころか、王城に潜んでいた不死者を討伐するんだから英雄だよ!英雄!」
やっとクリス・ケラウスとトト・ルトラの表情に笑みがこぼれた。
この調子のまま首無し騎士との合流を目指そう。
・
(おかしい………)
首無し騎士との交渉の最中、傀儡のアリスは異変を感じ取っていた。
この城内部で使役している動死体の数が減ってきている……それも、どの個体も視界外からの不意打ちによって処理され、犯人を特定することが出来ていない。
最初の一体はただの不意打ちでの処理だった……しかし、二度目以降は麻痺によって動きを封じるなど、対策をされないように手を変え品を変え、処理しているようだ。
炎属性ではなく、聖属性によって処理をされていることから最初は聖騎士隊の到着を警戒したが、この泥臭い攻撃の仕方……冒険者の類かもしれない。
(まずいねぇ……このまま首無し騎士のお気に入りたちを救出されでもしたらぁ……)
交渉どころではなくなる。
首無し騎士は何の憂いもなく、アリスを始末しにかかるだろう……。
やはり、急ごしらえな策には穴が空いてしまうものである。
(ここは……早期に首無し騎士をこちら側に就かせる必要があるわねぇ)
そう決断した傀儡のアリスは首無し騎士の頭を持ち上げ、交渉の続きを続行する。
「私の軍門にくだりなさい首無し騎士。…………そうすれば、貴女の大切な存在には手を出さないであげる。」
「…………貴様の口車など……どうして信用できると思う。」
焦りから、アリスは舌打ちをしてしまう。
なんと強情な奴だろうか……不死者になったというのに、アリスの命令を拒み続けている。
こんなこと、始祖の吸血鬼以外ではありえなかった。
あとの不死者は知能があろうが純血種だろうが関係なく、身体だけでも言うことを利かせられたというのに………
この首無し騎士は身体すら思う通りに命令できない。
(やはり……魔王様の御力には魔王様の御力でないと抵抗できないというわけねぇ……それも、二つ魔王様の因子を所持している首無し騎士には…………)
闇に即する者……魔物や魔族を有無を言わさず使役する力、【傲慢の権能】は既にこの首無し騎士の中に移動している……。
彼女がそのことに気づいている素振りは無いが、【傲慢の権能】が馴染んでしまってからでは交渉どころではない。
傀儡のアリスすら彼女の一声で思い通りに操られてしまうだろう……。
(首無し騎士を否応なく協力させるには、あらゆる者を洗脳できる【色欲の芳香】所持者……それも、魔王様の因子を二つ以上所持している者ではないと……難しいかねぇ……。)
しかし、それは現実的ではない。
魔王因子を受け継いだ者すら世界に七人しかいないのだ。
ここは…………やはり交渉するしかない。
「何故……?貴女も見たんでしょう?神々の所業を…………貴女も、魔王様も……勇者でさえこの世のすべての存在は神の玩具に過ぎない!神の気まぐれで善は悪になり、平穏は打ち破られる……。今行動を起こさなければ、また世界は混沌に陥れらる!!」
魔王様が言っていた。
神は最終戦争が終結しても、暇になればまた新たな物語を紡ぎだすだろうと………
神々が飽きるその時まで、我々は永遠に二極化され、争わされ続ける。
それまで、真の統治も……平穏も訪れないのだと………
我々はそれまで永遠に滅ぼされ続けるのだと………そう言っていたのだ。
「貴女も神が憎いはずよ!!私にはわかる!!不死者である貴女の憎悪は、すべて私に筒抜けなのよ!!だから!!!貴女は私と…………!!」
傀儡のアリスがそこまで言葉を紡いだ瞬間に、眉間へ投げナイフが飛んでくる。
首無し騎士にはそのナイフに見覚えがあった…………ここまで旅を共にしてきた、大切な仲間の武器だ。
その仲間と、初めて会った時も……同じようにこの武器が飛んできていた。
アリスが倒れた衝撃によって首無し騎士の頭は地面に落ち、コロコロと転がっていく……。
床を転がっていた頭は、回る視界の中、不意に動きが止まると、また持ち上げられた。
「…………ジャック!無事だったか!!」
「アンタもな、首無し騎士。」




