策謀
「どういうことだ……?お前は何を言っている…………?」
傀儡のアリスが発した、突拍子もない発言に首無し騎士は戸惑う。
なぜ、仇の存在でそんなことが提案できたのだろうか?そんなふざけた提案を自分が受け入れると本気で思っているのだろうか?
それとも、これも首無し騎士の動揺を誘うための策謀なのだろうか?
「魔王様は、自身が滅びるとき……七つの能力を分割し、最もふさわしい者へと受け継がさせたのよ……そのチカラの一つに認められたのが、キミなのよねぇ。」
「だから……なんだというんだ!?」
やはり、アリスは自分をおちょくり、隙を作ろうとしているだけだ。
そう判断した首無し騎士は再度傀儡のアリスへと切りかかっていく。
しかし、アリスはまたも首無し騎士の振り放った斬撃を余裕で交わし、背後をとった。
「だから、キミは魔王様の意思を引き継ぐ義務があるのよねぇ。」
「知ったことか!!」
背後を取られた首無し騎士は飛びのき、傀儡のアリスから距離をとる。
アリスはクスクスとわらしながら、まだ口を動かしていた。
「そんなこといっていられるかしら?」
「…………どういうことだ?」
困惑する首無し騎士を小馬鹿にするように傀儡のアリスは表情を歪め、口元を吊り上げる。
嫌な予感がする。
言いようのない悪寒……不死者になってから縁遠かったこと。
本能的な“恐怖”が首無し騎士へと迫りくる。
「不思議よねぇ……こんだけ大暴れしているのに、どぉして兵士も誰も来ないのかしら?」
………確かに、アリスの言う通りだ。
これだけ騒いでいるのに人っこ一人集まってこない。
一階へ落ちた時に、数名のメイドが退いただけだ。
「どうしてだと思う?どうして誰も集まってこないのかしらぁ?………それに、どぉして一国の第一王子がなんの警戒もなく不審な冒険者や不死者なんかを招き入れたのかしら?」
傀儡のアリスは淡々と質問を投げかけてくる。
確かにおかしい……だが、あの場所に飛ばされたのは不可抗力だったはずだ。
迷宮による不可抗力……。
「私はねぇ……キミのことをずぅぅっと観察してたんだよぉ?キミが迷宮に入った時も、ずっとねぇ……」
「…………そんなわけがない……!気配なぞ微塵も……っ!!」
「私はねぇ?自分の生み出した不死者の視界なら何処でもいつでも見ることができるんだよぉ?」
首無し騎士の手が震え、黒い炎が徐々に鎮火していき……首が落ちる。
つまり、迷宮の中で起こった出来事も、リデオン王国跡地でした会話も、全てが筒抜けだったのだ。
「だからねぇ……?迷宮の魔力を探知して、飛ばされるところを特定してからすぐに準備したんだからぁ……………急ごしらえにしてはよく出来てるでしょ?」
コイツはなにを言っている?
何を準備したと言うんだ?
アリスは首無し騎士の頭を見下ろしながら邪悪な微笑みを浮かべた。
「みんな死んだばかりだから、見た目じゃ気づかなかったよねぇ?」
悍ましい、悪魔の笑みだ。
・
視界がブレる。
先程まで楽しげに食事をしていた仲間たちはテーブルに突っ伏し、身じろぎ一つしない。
感じからして睡眠薬の類のようだが、暗殺者として訓練をしたジャックですら気が付かないほど料理とよく馴染んでいた。
視界がブレるだけで済んでいるのは訓練の賜物だが、コレでは充分に動くことができない。
「やら……れた…………いっ……たい……どうな………ってる……?」
いくら不法侵入だと言っても、こんなことをする必要はない。
問答無用で牢屋にぶち込めばいいだけだ。
こんな回りくどいこと……なにか裏があるはずだ。
(どうにかして……まずこの場所を離れねぇと……)
ジャックはふらつく身体を無理やり動かして仲間達の元へと寄っていく。
一番近くにいるのは………クリス・ケラウスだ。彼女を起こしたらそのまま順繰りに起こしていこう。
………………しかし
(………………足音が近づいてきたな……どうすれば…………。)
このままでは全員捕まってしまう。
しかし、自分だけ逃げるわけにも………
(ここは、部屋に隠れて様子見だな……)
投獄されるなら奴らをつけて、目を覚ましてから連れ出せばいい………この場で殺そうとするようなら睡眠薬ではなく、初めから毒薬を使うはずだが……もし、殺すようならなんとか抵抗してみせる。
扉が開き、ぞろぞろと兵士が入ってくる。
ジャックが開かれた扉の裏へ隠れて侵入して来た兵士達を観察していると、妙な違和感を覚えた。
(妙に統率が取れているな……兵士と言えども……取れすぎだ。)
まるで群体のような……アリやハチを観察している時のような異様な印象……。
ジャックはこの状態の人間に見覚えがある……深い催眠をかけられた集団はこうした行動をとることがある。
一つの意思が多数の身体をコントロールしている時の弊害だ。
ただごとではない……あの王子も何かしらされていると捉えて間違いないだろう。
(この身体で……何処までできるか…………)
ジャックはダガーに手をかけ、目を光らせていた。




