侵入
「さぁ、まずはゆっくりしていってくれ。」
ジャック達の目の前に豪華な食卓が並んでいく。
どうやら歓迎されているのは本当のようだ。
「…………なぁ、これどうなってんだ?」
ロザン・リクレイがクリス・ケラウスに耳打ちしている。トト・ルトラに至ってはほぼほぼ放心状態である。
気が付いたらリぺリシオン王国の王城にいたとあってはこうなるのも無理はないだろう。
一応目覚めた時に一通り説明をしたのだが、ほとんど理解はされなかった。
「首無し騎士殿、遠慮せずに食べてくれ。」
「あ……いや、私は……」
主催席に座っている第一王子に食事をとるように促される首無し騎士なのだが、戸惑いを隠せないでいる。
ジャック達の間では周知の事実なのだが、第一王子は知らないらしい。
というよりテーブルの上に置かれた頭からどうやって食事をすると思っているのか。
「このような施しを受けておきながら申し訳ないのですが、私は食物をとることが出来ないのです。」
「おや……そうだったのか……それは気が回らなくてすまなかったな。」
「いえ、早くに申し上げればよかったのですが……申し訳ありません。」
首無し騎士は第一王子の言葉に謝罪でもって返答している。
迷宮から脱出できてから……いや、あの妙な部屋で、妙な本を読んで気が触れてから、首無し騎士には覇気がない。衛兵たちとことを構えようとした際も、ジャック達が危険と判断したから空元気を振るっていただけのようだ。
「そうか……ではせめて交流を楽しもうじゃないか。」
「…………まぁ、私が語れる程度でしたら……」
第一王子はあの墓所での申し出通り、かつてのリデオン王国について聞きたいらしい。
実際、かつての王国についての書物は失われている……その点で言えば、かつての生の声を聞ける機会が不意に訪れたのだから、第一王子の申し出も理解できなくはない。
それだけで王城の敷地内に不法侵入してしまったことも帳消しになるのも正直ありがたい。
しかし、首無し騎士の心情を想えば素直に喜べない。
そんなことは露知らぬ第一王子は次々に首無し騎士へ質問を投げかけては、返答を真剣な表情を浮かべて聞いている。
対して話をしている首無し騎士は質問に淡々と返答している。
「そうか……かつての王国はかなりの技術力を持っていたようだな。」
「いえ、その点に関しては現在のリぺリシオン王国の方が圧倒しているかと……」
「いやいや、この時代では標準的な技術しかないよ。君の話をきいた限りだとかつての王国は同じ時代のクリミア聖王国や帝国上回る値の技術力を持っていたことが簡単に予測できるよ。」
第一王子はグラスを口に運ぶと、一息つく。
「ふん……勉強になったよ、これからの政策への参考にさせていただくね……私は先ほどの話を忘れる前に考えたいことがあるので、ここで失礼するよ……キミたちは気にせず、この後も楽しんでくれ。」
そうれだけ言うと、第一王子は席を立ち、退室する。彼の姿が見えなくなると、首無し騎士も同様に席を立った。
「私も……早めに休ませてもらおう。」
首無し騎士は自身の頭を持つと、事前に提供された部屋へと向かって行く。
不死者である首無し騎士であるが、今回は精神的にかなりの疲弊を伴ってしまったのだろう。
・
(こんな想いをするのなら……精神も不死者に染まっていた方がよかったかもしれないな。)
明かりもつけずに、首無し騎士は椅子に腰かけている。
こんな時には酒を煽ったり、ふて寝でもして気持ちに整理をつけれればいいのだが、不死者である首無し騎士にはそれができない。
デメリットだけが、彼女を悩ませている。
護れもせず、死ねもせず、信じていた神は自分たちを遊びの駒としか認識していなかった。
「本当に酷い話よねぇ……」
不意に呼びかけられ、首無し騎士は驚き、視線をあげる。
そこには…………黒いドレスを着た少女が立っていた。
血色のない顔に、光を吸い込むような黒い瞳………。
首無し騎士にとって、忘れることのできない存在。
「………………傀儡の……アリス!」




