最奥
首無し騎士達が新たに出現した通路を進んでいくと、先ほどまでの光景とは打って変わった広間へと出る。
松明の明かりが必要ない程、天井は光を帯びている。
…………そうであるにも関わらず、天井からは熱という物を発してはいない……どんな魔道具も、これほど明かりを保っているのであれば、多少なりとも熱を帯びているはずなのだ。
これはまるで……”聖属性”による光と酷似していた。
「まさか……神への祈祷を、光源の担保という役割だけに使用しているのか?」
首無し騎士にとって、その使用方法はまさに衝撃的であった。
不信神極まりない……普通こんな使用方法を続ければ、信仰ない者とし、どんな祈りも神には届かないはずなのだ。
「………………いったい…神とは何なのだ。」
首無し騎士の呟きと、歯ぎしりを……ジャックを含めた全員が耳にする。
こんな軽率な使用に対する祈りにはこうして応え、自分の切実な……浄化して逝きたいという祈りには全く応えてくれない”神”というものへの不信感は未だ強まる一方だ。
「しかし……変ですね。この光源が聖属性によるものだとしてですよ?普通、そのチカラの行使には”信徒である生命の呼びかけが発動最低条件”のはず……ここは迷宮という無機質の空間なのに、いったい誰が聖職者の様な祈りを捧げているのでしょう……?まさかこの迷宮に出現する魔物が、敬虔な神の信徒だとでも?」
「ありえない……と断言したいところだが…………正直、私ももう……”神”という存在がなにか理解できない……」
トト・ルトラの考察に、苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべ……首無し騎士が答える。
この発言だけで、クリス・ケラウスやトト・ルトラ……ロザン・リクレイでさえ……あの”不死者浄化任務”に参加していた者全員が、何かのきっかけで首無し騎士が神を信じられなくなっているのが明白に確信したのだ。
あれほど……不死者という不浄の存在にその身を堕としても、神を信じていた敬虔な信徒が、神に不信感を抱くような出来事……そういうものが彼女の身に起きたのだと……
明確に、裏切られたと確信しうる出来事が起こったのだと、確信した。
「ま……まぁ、とりあえず周りを調べてみようよ!」
クリス・ケラウスは、空気を換えようと……悪く言えば、話題を逸らすように、全員を誘導する。
彼女に促され、一行は部屋を見渡す……壁は見慣れない物質で出来ており、床はやけに既視感のある素材で毛羽だっている。
「これは……絨毯か?」
首無し騎士の発言で、床の既視感に納得の表情をう嗅げるクリス・ケラウス。
確かにそうだ、絨毯……実家にいた時にはあまりにも身近にあったものなので、気にも留めていなかった。
「家具……ですかね?鉄製のように見えますけど、それとはまた違う触感……見た目よりずっと軽いし……。」
「つーか鉄製の棚なんてそうそう見ないぞ?それに反してベットは木製っぽいし……あべこべじゃねぇか?」
「…………いや、このベット……その棚と同じ素材の上に気の模様をあしらえた物のようだ。」
「は!?まじで?はぁー……全然見分けつかねぇ……。」
各々全員が、部屋の中を調べている中……首無し騎士は部屋の奥側の壁にはめ込まれた大きな二つの姿見に注目していた。
正確には、その姿見に移っていた自分自身の姿に注目していたのだ…………こうして、今の自分の姿……首無し騎士となってしまった姿を見せつけられるのはだいぶキツイ。
街にあるショーウィンドウすら自分の姿が映ることに耐えられず、目を伏せて避けていたというのに……。
「…………いや、これ……窓か?」
首無し騎士は自分が今まで見ていたものを改めて観察する。
………………やはりこれは窓……硝子だ。向こう側が真っ暗な暗闇のせいで誤認していた。
しかも、扉のように開閉ができるタイプのようで……開け方に少し工夫がいるが、横にスライドするものだと理解すれば、難なく開けることが出来る。
「小さな……テラスか?そうか、この大きさのテラスであれば従来の扉のように開閉できないものな………それで横にスライドするように調整するとは……機能美というものか。」
しかし、このような発想は見たことも聞いたこともない……普通ならテラスの方を広く設計するだろう。
設計思想事態にチグハグさが垣間見えるのは、自分が建築技師や設計屋ではないからだろうか?
「なんだろこれ……板に……いっぱいのボタン?それと変な箱……すごい!こんなに色鮮やかな転写魔法見たことないよ!」
トト・ルトラが机まわりを調べながら驚嘆の声をあげている。
そこには彼のいう通り、壁に立てかけられた鏡の様な板の前に無数のボタンが付いたもう一つの板が置かれている。
その立てかけられた板の上に、色の着いた転写魔法で作成された紙が貼られていた。
…………その紙の中に、見覚えのある顔を発見する。
「……………トール?」
首無し騎士は半ば強引に、トト・ルトラから紙を受け取ると、その紙を凝視する。
…………間違いない、この写真に写っているのは勇者……勇者トールだ。
見覚えのない人物達に囲まれ、眩しい笑顔をこちらに向けている……彼らは、トールが勇者になる前のかつてのパーティなのだろうか?
それにしては男ばかりだ……勇者として活躍していた彼のパーティとは全くの真逆。
それでも……首無し騎士の記憶の中にいるどの彼よりも生き生きとした眩しい笑顔をしているように思える。
「……………………まさか」
首無し騎士は鬼気迫る勢いで、本棚に並べられている本を取り出し、読み漁る。
その様子に、周りの全員がただ事ではないと察していた。
首無し騎士は本をとっては、ペラペラとページをめくり、すぐに同じように違う本を取り出す。
そしてまた数ページめくると、また同じように本を取り出すのだ。
「は…………ははは……………」
思わず笑いが込み上げてきた。
読めない。
読むことが出来ないのだ。
本の中身は全てあの勇者の手記と同じ暗号の文字で構成されており、首無し騎士には読むことができない。
それでも、首無し騎士にははっきりと理解できたことがあった。
それは、あの暗号は暗号ではなく、ましてや勇者が考えたものではないということだ。
本の中身は全て、人が手書きしたものとは思えないほど均一な形と行間で書かれており、判子で文章を作成したかのようだった。
どの本もきれいに装飾されており、個人で制作したものとは到底思えない……今まで自分たちが暗号だと思っていた物は暗号ではなく……勇者が元居た場所で使用されている言語だったのだ。
首無し騎士はテラスへと続く窓扉を乱暴に開けると、漆黒の空間に身を乗り出す。
「ここが…………!ここが神々の住まう世界か……………!?これが……こんなところが!!!」
首無し騎士が一度焼死したところと酷似したどこまでも続く漆黒の……空っぽの世界。
何とも空虚で……がらんどうの世界…………。
首無し騎士の両目からは、自然と血涙が流れ始めていた。
「ふざけるな!!ふざけるなふざけるな!!!こんなところに住まう者が!!まともな神のはずがない!!!」
首無し騎士は狂ったように笑い、テラスに蹲ってしまう。
こんなところに住むような奴に、自分は馬鹿みたいに祈りを捧げていたのだ。
「く……クロスライトさん……?」
「ふふふ…………あはははははは!!!」
クリス・ケラウスが心配し、呼びかけるも……首無し騎士は血涙を流しながら笑っている。
誰から見ても、”壊れてしまった”のは明白だった。
「と……とりあえず、そこのベットに寝かせてやろうぜ……?多分、疲れがでちまったんだよ。」
「う……うん、そうだね……。」
不死者だというのに疲れたなどというのはあり得ないと、思うが……この場にいる誰もそのことに触れることは無い。
ロザン・リクレイと、ジャックの二人がかりで首無し騎士をベットに横にするが、相変わらず首無し騎士は悲しそうに蹲るだけだ。
クッションに置かれた彼女の頭は、泣き笑いを繰り返している。
「いったいどうしたんだよ……首無し騎士……。」
ジャックは、頭を掻きながら机の前に置かれた椅子に腰かける。
_____すると、あるものが目に入った。
「………………これ、ディネリントか?」
何かの本……いや、本の形をいた薄っぺらい箱に、知人の姿を目撃する。
何人かの女性の中にディネリントの姿を見つけたのだ。
「なんでこんなとこに……ん?」
ジャックはその箱をまじまじと見つめているうちに、あることに気が付いた。
もう一人知人がいる……それも、見慣れた人物が…………
……………なんなら、その人物は今目の前で、狂っている。
「………首無し騎士?」
血色もいいし、首の上にちゃんと頭がついているが、間違いなく首無し騎士だ。
これが何なのかはわからないが、罠の類ではないらしい。
しかし、自分の知人が二人も描写されているこの箱は不気味だ……なんにせよ、これが二人と関りがあるものだと確信したジャックは調べずにはいられなかった。
ジャックは、箱の側面に付いている窪みに指を入れ、箱を開ける。
その瞬間、箱の中身から極採色の光が漏れ出し、部屋全体を包み込む。
「え!?」
「なんだ!!?」
光に視界を奪われる中、みんなの困惑した声が聞こえてくる。
「み________い____て!」
やがて、その声も次第に掻き消えていき_________




