深部
「こっちが外れの道だったみたいだな。」
ジャック達の目の前に石レンガで作られた壁がそそり立っている。
本来ならこの場所にはリデオン王国跡の城にある地下通路へと続く迷宮の出口があったはずだが、綺麗さっぱりなくなっている。
「でも……出入口が無くなってるってことは、もう後戻りをすることはできないってことだね。」
トト・ルトラの言葉に二人は沈黙してしまう。
そう、危険になったら引き返すという選択肢が無くなり、前へ前へと進んでいくしかなくなってしまったのだ。
「こいつは……早く二人に合流してこのことを伝えたほうがいいんじゃないのか?」
「そうかもな……はぁ、これでまた首無し騎士は自分のことを責めるだろうな。」
なんでもかんでも自責に持っていく面倒くさい首無し騎士のことだ……出口が無くなっていることを伝えたら「自分が地下通路にみんなを招いたからこんなことになってしまった。」といウジウジしてしまうに違いない。
本当に面倒くさい。
「どうしようにも、とりあえず二人と合流しようよ。どっちみちこの先にはいけないんだしさ。」
「ああ、そうだな。」
三人は踵を返し、元来た道を駆けていく。
・
行き止まりから引き返した首無し騎士とクリス・ケラウスは通路の途中、ちょうど二手に分かれた地点まで戻ったきていた。
彼女らの足元にある傷がこの場所で別れたことを証明している。
しかし……………
「ここに……こんな通路あっただろうか?」
「いや……そもそも分かれ道もない一本道の通路だったはずですけど。」
通路の脇、今までなんの変哲もなかった壁に綺麗な横道が出現していた。
まるで、元からその場にあったように、ごく自然に存在し、そしてそのように自然にあることが不自然な不気味さを漂わせていた。
「…………どうします?」
「どうするも何も……まずは三人の合流を待つべきだろう……話はそこからだ。」
そう言いつつも、首無し騎士は三人と合流したら、明記の入り口へ引き返し、地下通路へ戻ろうと決断していた。
あの閉まってしまった壁も、五人がかりでなんとか破壊すればいい………破壊できるだろうか?
もし、みんなを説得できずに引き返せなかったら自分が一番槍として先頭にたとう。
この迷宮にはいってから自身の無力さを痛感するばかりだ。
「なんだ?この通路。」
「ロザン!ジャック!トトも!無事だったんだね!」
「まぁな、それよりもこれは?」
突如現れた通路の前で立ち尽くしていると、ジャック達が戻ってくる。
どうやら、無事に罠とやらは解除されたらしい。
「それが……進んだ先が行き止まりで、この場所に戻ってきたらこうなってて……そっちはどうだった?」
「そうか……いや、こっちも行き止まりになっててさ、出口も消えてんだよ。」
「…………なに?それは本当か!?」
「嘘言ってどうなるんだよ。」
戻ったきたロザン・リクレイのことばに、首無し騎士は言葉を詰まらせる。
つまり……この迷宮に閉じ込められたということだ。
「な……なんと言うことだ…っ!私が地下通路なんて案内したから……っ!」
首無し騎士の反応をみて、ジャックとロザン・リクレイは互いに顔を見合わせながらため息を吐く。
トト・ルトラは苦々しく笑みを溢すのみだ。
「はいはい、勝手に自分のせいにしないでねー。」
ジャックは首無し騎士を軽くあしらい、新しく出た通路へと近づく。
「お……おい!危ないぞ!何があるかわからないんだ!」
「何があるかわからないから確認するんだろ?」
首無し騎士静止を意に介さず、ジャックは出現した通路を調べ始める。
もとあった通路と突如出現した通路の間に繋ぎ目などはなく、まるで元からそこに存在していたかのようにきれいだ。
ジャックは、自分の持っているダガーの一つを通路に向かって無造作に投げこむ。
しかし、そのダガーが地面をすり抜けて落ちていくこともなければ、ダガーに反応して起動する罠の類も見られない。
完全に普通の通路であり、カランカランと空虚な音を発しながら道端に転がるのみだ。
ジャックはその様子を確認すると、通路を進もうとする。
その様子を見ていた首無し騎士が彼の肩を掴んで静止させると「やめておけ!…………私が行く。」と彼よりも前に歩み出た。
「は……入るぞ。」
首無し騎士は恐る恐るといった様子で通路を進んでいき、ジャックのダガーを拾う。
「こ……ここまでは本当に何もないようだな……。」
「だからアンタはビビりすぎなんだって。」
すぐ背後からした声に、首無し騎士は肩を震わせる。
振り向けば、すぐ背後にジャックの姿があった。
「な……!馬鹿!そこで待ってろって行っただろ!」
「そこで待ってろなんていわれてないよ。」
よく見れば、ジャックの後ろにクリス・ケラウスやトト・ルトラ、殿にはロザン・リクレイがついている。
「そ……そうか、ソレはすまなかったな……。」
「そんな調子で、よく一国の騎士隊長なんてやってたな。」
「一言余計だ!」
ジャックの軽口に、首無し騎士は叱責すると、前を向いて歩き出す…………相も変わらず、石端を叩いて渡るように。
「…………これは、先が思いやられる。」
・
____________ある程度通路を進んでいくと、三股に分かれた場所に出る。
いよいよ迷宮らしく、道が入り組み始めたというわけだ。
「…………さて、どうした物かな。」
「もしかして、この三つの道は全部偽物で、また来た道を引き返すってわけじゃないよね?」
「…………迷宮というのはだいぶ意地の悪いものなんだな。」
「いや……あんな大掛かりな仕掛けを二連続で仕掛けるとは考えられない……ああいうのは、突破して、安心させた後、忘れた頃にもう一回発動させるのが効果的だよ。」
「………………本当に意地の悪いものなのだな。」
迷宮の罠と、それを見事に看破するジャックの思考に若干引きながら、首無し騎士は呟く。
そんなことは露ほども知らないジャックは、もっていた松明をそれぞれの通路にかざして炎の揺れを確かめる。
「…………空気の流れがあまりない道が一つだけ……後の二つは空気の流れが出来上がってる。」
「……………じゃあ、その二つの通路のどちらかが、出口のある通路ってこと?」
「いや、ここの迷宮は魔術系の罠が使用されているのがわかってる……おそらくだけど、この空気の流れが感じられない通路が本命だね。風魔法で、ここまで流れて行かないようにしてるんだ。残りの二つはおそらく同じ風魔法で微弱な空気の揺れを作ってる………松明を見て、炎の揺れ具合が均一だ。」
「……………本当に迷宮は自然発生したものなんだよな?性格が悪すぎるんじゃないか?」
「〈人工型〉の迷宮で感じる違和感のあるあるだよね。」
首無し騎士のぼやきにトト・ルトラが返事をする。
自分だけが感じることではないと知れば、少し安心だ。
一行は、ジャックに先導……されているのだが、先頭は相変わらず首無し騎士が務め、先に進んでいく。




