一本道
迷宮を進んでいくにつれて、魔物との遭遇頻度も高くなっていく……敵に遭遇すればするほど、脅威度は増していき……五度目の戦闘では、あの軟体ですら比べ物にならなくなるほど強くなっていた。
今は、獣人に似ているが、知性もなく吠える頭部が牛に酷似した魔物と戦闘している。
「なんなんだ!こいつは!!」
「物理攻撃も、魔法攻撃も効いてる素振りがないよ!!」
「クリス!首無し騎士!もう少し持ちこたえてくれ!!」
ジャックの指示通り、盾戦士のクリスと、首無し騎士とで、牛頭の魔物の気を引いておく……
その間に、ジャックがボウガンの矢に何かの薬液を浸して、装填した。
「二人とも!注意を引きつつ、射線を開けてくれ!!できればこっちが視界にはいらないよう、通路の奥側に避難を!!」
「簡単に言ってくれるな!」
「注文が多いよぉ!」
首無し騎士は、牛頭の魔物へ向かって行くと、股の間をスライディングし、反対側に回る……その際に、足の腱を切りつけるというおまけ付きで。
「ちぃ!かすり傷くらいしかつけられないぞ!!」
「いや!おかげで奴の注意を引いてる!それでいい!!クリスも早く非難を!」
「うん!」
クリスが通路の脇に避けた瞬間、ジャックは構えていたボウガンから矢を射出する。
解き放たれた矢は、魔物の尻……所謂肛門に突き刺さると、通路を揺るがさんほどの絶叫が魔物の口からこだました。
「おい!何をしたんだ!?こいついきなり興奮しだしたぞ!!」
「危ないよ!ジャック!」
矢を突き付けられた魔物は、ジャックの方を凝視し……崖を転がり落ちる大岩のようにジャックめがけて突進し始める。
「くそ!!おいジャック!避けろ!!」
首無し騎士が声を張り上げて、ジャックに呼びかけるが……当の本人はビクともしない。
それどころか、短剣を構え……後衛であるトト・ルトラを庇う素振りを見せた。
「ジャック!」
クリス・ケラウスの悲痛な叫びと共に、巨岩を砕くような音が通路に響き、壁や地面を揺らしている。
魔物の角には二人の無残な死体が串刺しに…………なっているということは無く、魔物は倒れたまま動かなくなっていた。
「勝った……のか?」
首無し騎士のつぶやきに呼応するように、土煙の向こうか三人の人影が姿を現す。
その人影の正体は勿論、ジャックとトト・ルトラ……そしてロザン・リクレイだ。
「ふぅ……危機一髪だった……。」
「危機一髪だった……じゃねぇよ!ああいうときはトト抱えて避けろよ!盗賊なんだからさぁ!」
「いや……巨大蜘蛛から精製した毒液の量と、射抜いた場所で、もっと早く倒れると計算してたんだけど……ほら、水も口から摂取するより、腸から摂取した方が吸収早いでしょ?あの蜘蛛の毒なら腸からでも吸収されるし……」
「未知の魔物なんだから目測でズレが出るのは当たり前じゃねぇか!!」
「ま……まぁまぁ……何とかなったんだし、それぐらいで……」
牛頭の魔物に突撃されかけたというのに、三人は余裕そうな雰囲気を出しながらクリス・ケラウスと首無し騎士の元へと戻ってくる……。
この迷宮に潜ってから常々思うが、この四人は中堅どころかかなりの実力を秘めたパーティなのではないだろうか?
実際に、迷宮内で首無し騎士はこれといった活躍をしていない……この中に出現する魔物が”物理攻撃無効”やら、”物理攻撃半減”といった奴らが多いせい……と思いたい。
せめて、あの”黒い炎”を自在に操り……発動できればまた多少違うのかもしれないが、生憎あれの発動を自由自在にすることが出来ない……。
生前の……聖騎士時代のように、神の加護や祝福を扱えたなら……もっとみんなの役にたてたかもしれないし……護りながら探索を続けるといったこともできたかもしれない……。
しかし、現状ではほとんど首無し騎士が護られているようなものだ。
(…………神だと思われる”制作陣”を恨んでおきながら、今更その祝福があればなどと思うなんてな……随分都合のいい頭になってしまった。)
首無し騎士は自分の考えを反省するように、頭の中から先ほどの考えを取り消す。
自分から背を向けておいて、そんな都合のいい話があるわけがない。
「それにしても……行けども行けどもずっとまっすぐな道が続くだけだな……本当に別の出口なんてあるんだろうか……」
「そもそも、その別の出口を探してるのも、希望的観測からの調査ではあるけど……」
首無し騎士の言い放った弱音に、ジャックも追い打ちをかける。
「そんなこと言うなよ……実際あの場に留まってたってどうしようもなかったんだしさ……それに、一本道なら一本道で、迷うことなくて良いじゃねぇか。」
「確かに……他の〈人工型〉迷宮なら、もう道が入り乱れて……まるで迷路みたいになって酷いもんね。」
「………僕は、逆にそこの方が不気味で苦手だなぁ……セオリー通りの方が、何があるかわかる分安心できると言うか……。」
首無し騎士の弱音を皮切りに、この迷宮について各々思っていた意見が沸いて出てしまう。
皆の拠り所となるはずの騎士が、皆の不安を掻き立ててどうするか………首無し騎士はまたも自分の行いを反省する。
「すまない……忘れてくれ……如何にも今の私はナイーブになってしまって敵わん。」
「何言ってんのさ、未知の迷宮を相手にしてんだぜ?各々の考察と意見交換は大事なんだよ、首無し騎士の人。」
「…………ほんと、迷宮に関しては私は君たちに敵わないな。」
「それにしてもさっきの魔物だよ……普通のっていうか、今までの迷宮なら“主”として最下層に居てもおかしくないような奴だったよな?」
「うん……僕が知ってるどの魔物とも特徴が似なかった……似てる点としたら人体狼みたいに獣人と似てる点かな……?クロスライトさんは?」
「いや……私も知らない……というか、この迷宮内で遭遇した魔物はどれも初見だ。」
「そりゃそうか、軟体粘液すら知らなかったもんな。」
「軟体粘液と言えば、勇者様が初めて迷宮に訪れた時に、初めて対峙した軟体粘液を雑魚扱いしたって本当なんですか?」
「いや……私はそんな話聞かないが……彼の力量ならあり得るかもしれんな。」
「マジかよ……初見じゃ物理攻撃が効かないことを見分けるのも難しいし……ってか、物理攻撃が効かない奴が存在するってのにもビビるだろうに……おまけに捕まったらまず逃れるのは不可能……自爆覚悟で仲間に魔法攻撃をぶち込んでもらうしか方法ないあの軟体粘液を……………やっぱ伝説の勇者は違うんだなぁ。」
ロザン・リクレイが感嘆の声をあげて頷いてみせる。
…………だが、何事においても冷静な見方ができ、あのような手記を残す彼が、見知らぬ敵を雑魚扱いするとは少々意外だった。
大方、どこかで言い伝えが捩れて伝わったんだろう……よくある話ではある。
「…………さて、休憩はこれくらいにして、そろそろ進み始めた方がいいかもしれないな、空気の流れが一向に変わらないところを見ると……この通路はまだまだ続きそうだぞ。」
ジャックが自らの唾液で湿らせた指で空気の流れを確認する。
「マジかよ……どんだけ長いんだ?」
「さぁな……?だけど……いや、なんでもない。」
ロザン・リクレイが吐いた嘆きの言葉に、歯切れの悪い言葉をジャックが返す。
その様子を眺められていたのを感じ取ったのか、ジャックは、「しばらく進んで……確かめてみよう。」とだけ告げ、また歩き始めたのだった。




