地下通路
「着火」
トト・ルトラは火属性系統の生活魔法を唱え、木の棒に炎を点火させる。
「ほぉ……ずいぶん器用な魔法があるものだな。」
その様子を首無し騎士は素直に感心した様子で見つめていた。
「え?もしかしてクロスライトさんの時代って、この魔法なかったんですか?」
「ああ、勿論なかったぞ?着火など、火打石で起こすか、あらかじめ用意していた松明で行うのが基本だった……そもそも当時は魔力の才がなくとも使える魔法などという考えすらなくてな、威力の制御だって聞かなかったから威力の強弱を行なえる者など天才と呼ばれて……」
「……年取ると、長話になるってこういうことなんだろうな。」
首無し騎士の話を聞いていたジャックがロザン・リクレイに小声で話している。
それに対し、ロザン・リクレイも静かに同意していた……どうやら二人の仲はすっかりもとに戻った様子だ。
「…………確かに、私は年寄りだよ。」
「やべ、聞かれてた。」
ムッとした表情を見せた首無し騎士だが、二人してバツの悪そうな顔を浮かべてそっぽを向く様子を、微笑ましく見つめる。
この様子なら、もし自分がいなくなったとしても、ジャックは大丈夫そうだ。
「さて、ここからなんだが……この先に進むにあたって注意点が何カ所かある、まずこの地下道はとても古いものになっているから、崩落や、追って撃退用の罠が誤作動している可能性がある……罠の場所に関しては都度忠告していくから、決して先走らないようにな。」
「はーい」
「罠なら、ジャックが解除できるよね?」
「まぁ、簡単な罠ならな。」
「なら、解除はジャックに任せるとしよう……もしジャックでも解除できなさそうな代物がでてきたら……」
「でてきたら?」
「…………私が作動させて空振りさせる。」
「ええ…………」
代替案がかなり力技で、困惑する4人。
しかし、そういったものの、内部構造を理解している首無し騎士の存在もあり、探索はかなり順調に進んでいった。
「さて、ここも通れるぞ。」
「ジャックは……かなりすごいな、その罠だって当時の最新技術が詰め込まれたかなり高度なものなんだぞ?」
「あ……?いや、普通に型落ちなだけ。」
「いやいや!ジャックは本当にすごいんだから!僕ジャックが解除できなかった罠なんて2回くらいしか見たことないもん!」
「確かに……」
「ジャックが抜けてからの迷宮攻略はかなり大変だったからねー」
首無し騎士の言葉を皮切りに、クリス・ケラウスがジャックのことをほめてくる。
それだけで、彼が如何に彼女に信頼されているのか理解できるのだ。
「つーかよ?そんなすごい罠なんて仕掛けて王族の人たちはどうするんだ?当時はさ、幼い王子様一人だけで逃げさせようとしてたんだろ?」
「機構を見るに、登録した人物が通っても罠が作動しないようになってるね……だから、首無し騎士がわざと作動させて罠を無効化するってやり方は通用しないかな。」
「なに!?」
ジャックの解説に首無し騎士は心底驚いた様子だ…………罠の内部構造については知らなかったらしい。
「ま……まぁ、解除できないような罠が出てきたら引き返せばいいし、それほど気にすることじゃないでしょ。」
ジャックは苦笑いを浮かべながら、首無し騎士を通路の先に誘導する。
その発言を前にかなり気を引き締め直した様子だ。
「さて…………ここを抜ければ、ようやくこの脱出路の中間地点…………」
そういいながら先を歩く首無し騎士が、急に立ち止まる。
首無し騎士の視界の先……地下通路の中間地点になにかがあるようだ。
「なに……?また罠か何か?だったらとりあえず見せてもらわないと………」
「いや、そうではなくてな…………」
ジャックは首無し騎士の身体の隙間から先を見つめる。
そこには、浮遊する瓦礫と……柱に囲まれた地下への入り口が存在していた。
「ここから、また地下に潜るのか?」
「いや…………」
ジャックの問いかけを、首無し騎士が否定する。
「知らんのだ………」
「え?」
「こんな入り口…………私は知らない。」
困惑した様子の首無し騎士の発言に、4人が戸惑う。
ここまで案内してきた首無し騎士の案内は正確だ…………それは、罠の数と内容、位置がすべてを物語っている。
ならば、当の本人が把握していないこの地下への入り口は…………本当の予想外に違いないのだろう。
「…………少し、調べてみようか。」
「な…………!危ないぞ!ケラウス殿!」
首無し騎士を押しのけて、クリス・ケラウスが入口へと近づいてくる。
それを阻止しようと、首無し騎士……それにパーティの4人が慌てて駆け寄った。
「…………近付いて見れば見るほど……まるで”門”みたいだ。」
トト・ルトラの言葉に全員が頷く。
”門”……………言い得て妙とはこういうことなのだろうか、確かに”門”と形容するのが一番しっくりくるように感じる。
「なぁ…………この感じ……もしかしてこれ迷宮なんじゃないか?」
「同感…………雰囲気もそうだけど、周囲の瓦礫が浮いているのを見るに、微弱な魔力が流れてる………間違いなく迷宮だと思うね。」
ロザン・リクレイとジャックが互いに顔を見合わせて頷いている。
迷宮……発生条件は未だ不明だが、複雑な内部構造と地表に現れる魔物とは脅威度がまるで異なる魔物が現れる大変危険な代物…………しかし、そこから採れる地下資源は昨今の魔法技術発展に欠かせない素材であり、冒険者にはこの迷宮探索の依頼が多く並んでくる。
この迷宮探索を主な生活源にしている冒険者も少なくないのだ。
「すごい!すごいじゃないか!新しい迷宮の発見だよ!!これは冒険者ギルドから報奨金がでるぞ!」
「入ってみようか!?」
トト・ルトラとクリス・ケラウスは興奮気味にはしゃいでいる。
その様子を一喝したのは、首無し騎士だった。
「冗談じゃない!キミたちにもさっき話たろう!?この場所は、死ねば確実に不死者にされてしまう呪われた場所だ!この中に入るのは勿論、こんなものをギルドに報告するのも反対する!!ここ目当てにたくさんの者が訪れて、命を失ったら……キミたちに浄化してもらった意味がなくなる!」
「でも………」
「俺も反対だね……第一、前情報も何もない未知の迷宮に挑むなんて危険すぎる。」
「冒険に危険は付き物じゃないか!」
「それとこれとは話が違う!極力危険を予知し、削ぎ落したうえで発生する事故と蛮勇故に起こる無謀じゃ毛色がまるで異なる!」
「これは……俺もジャックに賛成かな。」
思わぬ出来事で、意見が二分してしまった……これでまたパーティに亀裂が入らなければいいが………
とはいえ、これに関しては首無し騎士も頑なに反対せざるを得ない……あの杭がある以上、ここで命を落とされては困るのだ……。
いや、何処でも命を落とされるのはわかる。
「………………わかったよ、今回は諦める。」
「確かに、浮足立ってたのは事実だしね。」
ジャックとロザン・リクレイの説得もあり、二人は納得してくれた。
本当にいいパーティだ。
「さぁ、この場からはもう離れよう……どうやらこの迷宮が現れたせいで、この先には進めそうにないからな。」
「はーい」
首無し騎士達は迷宮に背を向け、引き返していく………。
この決断が、後々に尾を引くとも知らずに…………




