語り部
首無し騎士は、自らの頬を伝った血を拭うと宝物庫の屋根に刺さった杭を見つめる。
「あとは……皆も知っての通りだ…………私は不甲斐なくも、魔王軍幹部【傀儡のアリス】に良いように扱われ、敗北した……そして、自害も、民草も手にかける勇気もなく、のうのうと300年彷徨い歩いていたというわけだ。」
「いや……不甲斐なくって………話を聞く限りじゃ、その時の……神の加護を使ってた時の首無し騎士の人は、今よりも強いよな!?それこそ、伝説に効く勇者パーティに引けを取らないくらいに……!それが……いいように扱われて負けた……?」
「魔王軍幹部……それほどまでに恐ろしい存在だったというわけですね。」
ロザン・リクレイとトト・ルトラが顔を見合わせて話しているが……そうじゃない。
ジャックが話の軌道を治すように、首無し騎士に声をかける。
「……ようするに、あの宝物庫の中……って言うより上か?とりあえず、あの杭が危ない代物だってから俺らが宝物庫に入ろうとしたのを咎めようとしたってわけだ。」
「…………まぁ、そういうことになる。」
「それよりも……あの杭があること自体が問題なんじゃ……だってあの杭ってここで死んだ生者を残らず不死者に変えてしまう代物なんでしょ?近隣の動物とか死んだらまずいんじゃない?」
「それは……動物は私が50年かけてこの地から追い出したから、250年は見ていない……たまに鳥が死んでも、不死者にはならなかったしな……。」
「人間種特化ってわけだ……悪趣味なことだね。」
ロザン・リクレイの言葉にまた暗い影を落とした首無し騎士は漆黒の杭から目を逸らすと、ジャック達に向き直る。
「だから……あまり、この場所には長居しないことだ……そんな滅多なことは起きないだろうが、目的を遂げたならこの場所を立ち去ろう……。」
首無し騎士はこういうが、ジャックは納得したわけではない。
そもそも、妖精種の首無し騎士ではないのだとしたら、なぜこの首無し騎士に浄化が通用しないのだろうか。
生前に最上位の祈祷を扱えていたことが要因だとでも言うのだろうか……?
現代では最上位の祈祷を扱えるものなど一握りもいないのだと聞くが…………
首無し騎士に連れられて螺旋階段を降りる途中で、ロザン・リクレイが口を開く。
「それにしてもすごいよなぁ……それだけ驚異的だった魔王軍を、勇者はたった四人で倒しちまったんだもんな。」
「そうだね……現代の僕たちじゃあ、とても真似できそうにない。」
ロザン・リクレイの言葉に、クリス・ケラウスも同調する。
確かにあの火竜戦で見せたディネリントの魔法はすさまじかった……クリミア聖王国にいる聖職者何人もが集まってやっと生成できた防御壁をたった一人で展開し、それを何十にも貼って遮断率を上げていた。
一人一人があれだけの力を有していたというのなら、勇者たちの伝説にも真実味が増してくる。
最終戦争という過酷な環境が、ディネリントや生前の首無し騎士、そして勇者といった極大の戦士を生み出したのかもしれない。
「そうだな……とくに勇者は当時の私からみても別格の強さを持っていた……私は彼を見て当時…………」
そこで、ふと首無し騎士の言葉が途切れる。
当時、神が使わした天の使徒だと素直に思ったのだ…………まさか、当たらずとも遠からずといったところだとは夢にも思わなかった。
それも……平穏に生きていた世界から、無理やり戦争真っ只中のこの世界に堕とされるとは……本当に神や、運命といった者は底意地が悪すぎる…………。
今なら、あの【傀儡のアリス】がこちらの神のことを〈邪神〉と称していたことにも納得がいってしまう……。
しかし、それはあちらも同じだ……この世界は同じ陣営の神々によって、娯楽のために作られた世界なのだから………。
「クロスライトさん?どうかしました?」
「………え?あ、いや………ううん、なにも…………。」
後ろから聞こえてきたクリス・ケラウスの呼びかけに、物思いから帰ってきた首無し騎士が曖昧な返事を返す。
「………そういえば、この城の秘密通路ってのはどうなったんだ?」
「え?秘密通路?」
「ほら、首無し騎士の人が、王子様を逃がすために使った通路だよ。」
ロザン・リクレイに言われて、首無し騎士は初めて意識をそちらに向ける。
確かに……王子の脱出に失敗して以降、あの場所には立ち寄っていない……そもそも意識を向けることもなかった。
「おいおい……まさか開けっ放しとかなんじゃ……300年の間にそこから別の場所に移動した不死者とかいたんじゃないのか!?」
「いや!そんなはずはない!あの浄化の日!国民一人も減ることなく旅立ったのを確認した!」
当時、リデオン王国では戸籍制度を使っていた……その名簿を利用して、全員の所在を把握したのだ。
あの秘密通路だって開いていれば、気づいたはず……そこまで耄碌してはいない………と思いたい。
「まぁ……いっかいちゃんと確認した方が後腐れないんじゃないか?もしかしたら、俺が捜してる物もそこに残ってるかもしれないし……」
「あ……ああ、そうだな。」
ジャックに促され、首無し騎士は秘密の脱出路へと歩を進める。
その場所は案の定、閉まっており、一目では他の壁となんら変わりはないように思えた。
「………?玉座の間………?特に変なところないけど…………。」
「……………いや、変だね。」
盗賊であるジャックだけが、部屋の違和感に気が付く。
すると、ジャックは首無し騎士ろ追い越し、古びた玉座に手をかけた。
「ここでしょ、首無し騎士。」
「ああ、そうだ……流石だなジャック。」
首無し騎士はジャックに追いつくと、玉座の頭部分にある装飾を斜めに傾ける。
とても動くように見えなかったその装飾は面白いくらい簡単に曲がると、ガチリという小気味良い音がなり響く。
すると、首無し騎士は玉座を後方にスライドさせ、地下へと続く階段を出没させた。
「ここが……王族と、ごく一部の者しか知らない、脱出路だ。」
「すげぇ……本当にこんなのあんだ……。」
「リぺリシオンの王城にもこういうのがあるって言うのは知ってるけど……実際に使われてたのを見るのは初めてかも……」
クリス・ケラウス達は口々に感嘆の声をあげている。
しかし、残念ながら観光に来たわけではない。
我々は、気を引き締め直すと、地下へと降っていった。




