傀儡のアリス
「あははははははははは!!すごい!すごい!!」
魔王軍幹部を名乗った不死者は自身の身の丈ほどもある大鎌を器用に操りながら、私の剣技をすべてはじき返している。
それも、余裕の表情を崩すことなく。
「人間なんて、脆弱なだけの存在だとおもってたけど!!君みたいなのもいるんだねぇ!!」
「ほざけ!!」
無駄口をたたく不死者の不意を作るべく、私は自身の剣を囮にした。
胴切りを防がれた後に、剣を相手の鎌で滑らせるように移動させ、上段切りに移行する。
当然、今までの傾向からこの不死者はそれに対応しようと、鎌で防御態勢に入る……その隙を私はがら空きになった胴体に渾身の力を込めた蹴りを入れたのだ。
小柄な少女の形をした不死者は一直線に飛んでいき、広間の壁に激突し、大きな煙を上げる。
この隙を逃す手はない。
瞬時に私は地面を蹴り、不死者へと飛び込んでいく。
追撃も、一撃ではダメだ……あの狡猾な不死者ならば、既に体制を持ち直し、土煙の中でこちらを奇襲するべく息をひそめているだろう……攻撃を防ぐ準備もできているはず……
ならば、捌ききれないような無数の攻撃を四方八方からたたき込むしかない!!
「〈千光の御手〉!!」
解き放つ斬撃が、無数の光となって土煙の中にうち放たれていく。
浮上や魔といった者に最大限の効果を発揮する浄化の力……不死者ではひとたまりもないだろう……相性は圧倒的にこちらに有利だ。
そう…………有利なはずなのだ。
(手ごたえが……ない!?)
無数の金属音と共に、斬撃が弾かれた感覚がした。
その刹那、培えムリの中から、つぎはぎだらけの手が飛び出してきたのだ。
比喩表現ではない……文字通り、小さな手首だけが弾丸のように飛び出し、私の首をわしづかみにする。
「ぐぅっ!!」
咄嗟に首に手を伸ばすが、手首の握力は万力のようにギリギリとっ強くなり、呼吸すら困難になってくる。
祈りの言葉すら吐き出せない。
「いやぁ……やっぱりすごいねぇ……キミぃ……!」
霞む視界の先、土煙の抜こうからあの不死者が余裕の笑みをうっかべながら、無傷で近寄ってきた。
「天使でもないのに”邪神”……いや、こっちじゃあれこそが”神”なんだっけぇか?その力を存分に発揮できるだなんて……アレ最上位の浄化の一つだよねぇ?すごくない?背中に壁が無かったらやられてたかもぉ」
片手でくるくると大鎌を回しながら、不死者が近づいてくる……はじき返した?あれだけの浄化の斬撃を……!?
左手首がないが、その手首は私の首に……蛭のように張り付いている……斬撃で切り落とされたのではない。
そうだとしたら……不死者如き、かすめただけでも灰に帰しているはずだ……!!
「それ!それそれ!!キミの敗因はその目だよ!!不死者如き!相性は有利!そう言った思想があったからこそ、キミはそれだけの能力を保持しておきながら私にやられちゃったんだねぇ!!」
私は渾身の力を振り絞り、近づいてくる不死者に向かって剣を振るった。
しかし、呼吸もままならない状態での剣など、相手に届くはずがなく……ひょいとかわされ……私の束ねた髪をわしづかみにされてしまう。
地面に落ちた鎌の音に掻き消えるような……そんな小さな声で、不死者が耳元でささやく。
「私の思い通りに動いてくれて……ありがとうねぇ。」
私はその言葉に苛立ち、相手の顔をにらみつけるが……この状態ではただの負け惜しみかならず、相手を愉悦させるだけだった。
「あははははははは!!いい!いいねぇ!!まだ歯向かう気なんだぁ!!いいよぉ!!じゃあもっといいもの見せてあげるぅ!!」
不死者は、足で器用に大鎌を蹴り上げた。
くるくると大鎌は宙を舞い、そのまま落下すると、不死者が背負ったホルダーの中に納まる。
不死者は私の髪を引っ張ったまま広間の螺旋階段を登っていく……。
階段を登っている間も、私は手に持った剣を離すことなく、反撃を試みたが……その悉くを軽く阻止されてしまった。
装甲しているうちに最上階のテラスへと出ると、不死者は乱雑に私を前に投げ飛ばす。
「ほらぁ……見るんだねぇ。」
霞む視界の先……再生を立て直そうと、立とうとした先に……三人の人影が見える。
正確には……三人の骸だ…………どれも華美な装飾を身にまとった……三人の死体……。
そのうちの一人は、王冠を冠っている……。
「ぁ………………」
わずかに漏れてる呼吸から、私の絶望感を感じとったのか……ご機嫌な様子で、不死者が近づいてくる。
「それだけじゃないよぉ。」
不死者はそう呟くと、乱暴に私の顔をテラスの先へと向ける。
華やかだった城下はいつの間にか炎に包まれ、騒がしかった喧騒も……人々の悲鳴に変わっている。
おかしい………そんなはずはない………進軍してきた魔物共の指揮官は……打倒したし、あの程度の魔物共なら……部下たちの力で充分撃退できて……………
「だからいったでしょぉ…?この部隊の指揮官は私だってぇ………最初の奴らはただの陽動で、死んでもいい雑魚だけなの……苦労したんだからぁ……あの馬鹿な王級大鬼が率いるような雑魚を選定するのはさぁ…………?でもそのおかげでいい感じにハマってくれたんだもんねぇ?」
こいつが何を言っているのか……正直わからなかった………ただ一つ、確かなのは………私がみんなを護れなかったということだ。
敵に良いように陽動され、王子も逃がすことができず……部下を死なせ………国を滅ぼした。
癌かでは、聖騎士になりたがっていた子供が、動死体になった母親に嚙みつかれている………気のいい酒屋の主人が涎を垂らしながら、逃げ惑う人々を襲っている。
私の部下が………民を護るべきその剣で、人々を刺し殺している………。
私は………呼吸をできずにいた………首に張り付いている手首のせいではない………陸に打ち上げられた魚のように、呼吸ができずにいたのだ。
「ははははははは!!いいねぇ!やっぱキミいいよぉ!!私、キミのこと気にいっちゃったねぇ!!!」
不死者は私の背後で、高笑いをすると……左手首を自分に付け戻し、その左手で……私の剣をするりと抜き取った。
「あの杭にはねぇ……私の血がたっぷり含まれているんだねぇ………だから、ここにいる生者は死ねば何らかの不死者として必ず蘇るんだよねぇ……。」
不死者…………いや、傀儡のアリスは私の剣を私の首に当ててくる………当の私は……もうすでに抵抗する気力を失っていた。
「大抵は知能のない低級不死者になるんだけど………キミには特別におまじないをかけてあげる。」
傀儡のアリスは私の髪を掴み、無理やり顔をあげる。
「よぉく焼き付けてねぇ……だぁい好きな国が………不死者の王国になるところを………!」
絶望と絶叫がこだまする風景を目に映しながら………私は……首を刎ねられた。
意識を失うその瞬間まで……私の視界には揺らめく炎が映っていたのだ………。




